第17話 晴れの披露宴会場で激怒する母 (前編)

 …ミサエちゃんは私の弟ユージのお嫁さんで、埼玉県新座市の酒屋さんの長女です。

 ユージが通っていた高校が新座市にあったので、そこの学園祭の時にたまたま校舎に遊びに来たミサエちゃんと出逢い、その後付き合って結婚に至ったという流れで、要するに初恋から夫婦になった単純な二人です。(ちなみにその頃のミサエちゃんは可愛いアイドルみたいな顔立ちだったので、何でこんな娘が我が愚弟と?…と不思議に感じたものです)

 …ユージはその後、大学を出て商社に勤め、ミサエちゃんの方は銀行に就職していましたが、間もなくして赤ちゃんが出来ちゃった婚となりました。(ちなみにその時は、何も考えてないのかこの二人は?…と疑問に思ったものです)


 …という訳で二人の結婚披露宴は東京浜松町貿易センタービル (40階建) の38階にあるラウンジレストランにて、春の新緑の季節にめでたく執り行われました。

 双方の身内親族友人らの祝福を受け、純白のウエディングドレスと純白のタキシード姿の新郎新婦は終始幸せな笑顔の中、つつが無く宴は終了しました。

 …会場へは、私の運転する車に父サダジに母フミ、そして弟ユージを乗せて1台で来ていたので、宴終了後は母と弟が着替えて帰り支度をするまでの間、私は最上階の展望フロアに行きました。

 …展望フロアには100円玉を入れて覗く望遠鏡が数台設置されていて、見ると父サダジがすでに望遠鏡で窓外の景色を観ていました。

「…東京も変わったな ! …」

 私の姿に気付いたサダジはこちらを向いて言いました。

「そりゃあ、昔親父とお袋が浅草に居た頃から見たら全く変わったさ…」

 私は窓の向こうの、レインボーブリッジからお台場にかけての景色を見ながらそう応えました。

 …展望フロアで少しの間くつろいだ後、

(もうそろそろ良い頃合いかな?)

 と思って私は階下のラウンジレストランに戻ってみました。

 …家族みんなの帰り支度も出来たかと思いきや、ところがレストラン前は何だかドタバタしていました。

 弟ユージはまだ白いタキシード姿のまま立っていて、しかも衣装の袖口をレストランのスタッフに押さえられていたのです。

「親父はっ !? 親父はいったい何処へ行ったんだぁ~っ?」

 青ざめた顔でユージは叫びました。

 見ると親戚の人たちもサダジを探しているようで、叔父さんの1人が息を切らしてユージの前に走って来て、

「…地下の駐車場にもいないよ!」

 と苦しそうに言いました。

 新婦ミサエちゃんも泣き出しそうな表情でおろおろとユージを見つめています。

「何?いったいどうしたの?」

 私が尋ねるとユージが言いました。

「披露宴の費用を親父に預けてあるんだ!現金で200万 !! …金を払わないと俺はここから出られないんだっ !! 」

「えぇっ !? 何で親父に?…」

 私が訊くと、

「だって新郎の俺がまさかタキシードのポケットにそんな現金を突っ込んだまま披露宴に出られないだろっ !? 」

 ユージは苦悶と怒りミックスの声で答えました。

「親父なら最上階の展望フロアに居たよ」

 私がそう言うと、母フミが後ろからユージの前にズイッ ! と出て来て言いました。

「…お父さんは展望フロアなんかで何してるんだ?」

 …そしてすでにその顔は怒りのレッドオーラを発して姿の周りには紅蓮の炎が渦巻いていたのでした。

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