第12話 おバカな旅よ永遠に…

 …そして男たちは宿に戻ってからかなりのお酒を飲み、結果翌朝はドヨンとした顔でのそのそと布団から起きました。

 もそもそと食堂広間で朝御飯を頂いた後、部屋に戻ってごそごそと身仕度した後、よろよろと私たちは宿を出たのでした。

 …よたよたと歩いて行くと、集落の路地を抜けた国道端に釣具店を発見、店頭の看板に「貸し竿あります」の文字を見た竹橋君は、

「やりましょうよ!釣りを !! 」

 と、急に元気を復活させ、キラリン眼になって言いました。


 …という訳で3人は漁港の岸壁から竿を出し、それとなく釣りを開始したのでした。


 今日も西伊豆は良い天気…漁港の沖の岩礁には海鳥が戯れ、街のすぐ後ろの山にはトンビがゆるりと旋回飛行していました。

 釣糸を垂らしている海の中を覗くと、海水はやたらめったら澄んでいて、漁港内にもかかわらず水深おそらく10メートルほどの海底の岩にそよぐ海藻までクッキリと見えていました。

 …撒き餌 (オキアミ) を海面にばらまくと、何だかよくわからない小魚たちがワラワラと寄って来て、その後竹橋君の竿にアタリがありました。

「おぉっ !! やったぁ!」

 大喜びで竿を上げると、赤茶色の横ストライプ模様の可愛い魚がかかっていました。

 ところが彼が魚に触れようとした時、突然、

「触るな~っ !! 」

 私たちの隣で釣りをしていた地元の人らしきおじさんが大声で叫んだのです。

「そいつはゴンズイと言って体の表面に毒があるんだ!…うっかり触ったらエライことになるぞ!」

「えっ !? ……」

 ということでどうやら竹橋君はおじさんの忠告のおかげで難を免れたようですが、その結果としてもう怖がって魚に触れなくなり、仕方なく私が魚体を足で踏んづけながら慎重に釣針をゴンズイの口から外したのでした。

 すると直後に今度は湯野木さんにアタリがあり、竿を上げると何と釣れたのはタコでした。

「うひゃあ!こんなの私、針なんて外せないです…!」

 岸壁の上でウニャラウニャラと吸盤が並ぶ足をグロテスクにのたぐらせているタコを見て湯野木さんはすでに竿を手放し3メートル後退りしていました。

 またも仕方なく私はタコに絡みつかれながら何とか針を引っ剥がし、やれやれと思ったら、

「わぁっ !! 」

 と竹橋君の叫びが聞こえたので振り返ると、彼はドヨンとした顔で言いました。

「…またゴンズイが釣れました」

 …結局それでもう面倒くさくなって釣りはやめにして、貸し竿を返すと私たちはバスに乗って西伊豆の海を後にしました。


 …伊豆急下田から乗った帰りの電車を伊東駅で途中下車して、市内の温泉で旅のアカを落とし、3人はポニャリン顔になってあらためてまったりと伊東始発東京行き各駅停車のグリーン車両に乗り込みました。


「…いやぁ、今回はいろいろとおバカな旅でしたね」

 …動き出した電車内で湯野木さんが寛いだ顔で言いました。

 私は笑いながら2人に言いました。

「…だけど何ていうか、男だけの全く色気の無い旅って、バカバカしい方が面白いよなぁ…!」

「…そうですかぁ?それは良かった!それなら今回は俺が大活躍だったっスね !! 」

 最後に竹橋君がそう言って、おっさん3人はグリーン車の座席で大笑いしたのでした…。

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