第7話 倒れた金堂君
…という訳で僕たちは大山の山頂で星空を仰ぎ夜景を眺めながらゆったり優雅に過ごして…いたかったのですが、実際には焚き火の炎を絶やさぬようにあたふたと駆けずり回って周りの林や茂みから薪を集めるのに苦労していました。
山頂はまるんとした広くも無い場所に一枚板の簡易ベンチが3つ在るだけの寂しいところなので、簡単に薪木となるものが落ちている訳では無かったのです。
…そうして薪集めにも疲れて焚き火の炎も弱々しくなって来た頃、東の空がうっすら明るく変化してきました。
「…夜明けだ… ! 」
僕たちが呟くと、空が白み徐々に周りの景色が明るくなるのに反比例して、気温がどんどん下がって行きました。
「冷えて来たな…」
みんなが身体を震えさせつつ、それでも山頂の寒さに耐えて立ち尽くしていると、やがて湘南の海から朝日が昇り始めて来ました。
その時にはもはや苦労の焚き火もすっかり消え去り、山頂の寒気もピークを迎えていたのです。
「うぅぅ…眠い… !! 」
ところがみんなが寒さに震える中、突然金堂君がそう言って、木のベンチにごろんと横になりました。
「金堂!…寝袋も無いのにこんなところで眠ったらヤバいぞ!」
他の3人が言いましたが、すでに彼はベンチで寝息をたてていました。
「まずいぜ…間違いなく風邪ひきパターンだよ、これは!…」
僕が言うと、野間君が彼の寝顔を見て、
「実は俺、リュックの中に毛布を1枚持って来た… ! 」
と言いました。
…結局僕たちは金堂君の身体に野間君の毛布をかけてやり、3人で海から昇る朝日を眺めたのでした。
…太陽は海から顔を出すと、一番初めに僕たちの右手にある富士山の頂きにその光を与えました。
…光は山頂からだんだん降りて下の大地へと、太陽が照らす世界がどんどん広がり、そして景色は全面的に朝になって行きました。…僕たちはそれを見て素直に感動を覚えましたが、冷静に物理的に考えると地球は丸いのだからその陽の射し方は当然なのでした。
…太陽がすっかり上がって周りがキッパリ明るくなると、僕たちは下山の仕度に入りました。
焚き火の後始末をしてベンチの金堂君をたたき起こすと、彼は歯をガチガチと鳴らし青白いゾンビ顔になりながら、
「寒い…ひたすら寒い!…」
と言って渋々立ち上がりました。
…帰りはしかし降りる一方なのでゾンビ顔の金堂君を除いて、楽な下山道でした。
さらに途中、山の中腹からは動き始めたケーブルカーに乗り、山裾まで一気に下って後はバスと電車でお昼頃には新宿駅まで戻り、僕たちは解散しました。
…さて、翌日の月曜日、学校に行ってみると金堂君だけが登校していませんでした。
「ん…?」
と思っていると翌日も翌々日も彼はお休みしたのです。
さすがに心配になって、放課後に野間君と2人で彼の家を訪ねると、彼のお母さんが玄関に出て来て言いました。
「…山から帰って来て、疲れたって言って休んだら、あの子40度の熱を出しちゃったの!…どうやら肺炎になりかかってたみたいなのよ…皆さんを連れ出しといてウチの子だけ倒れちゃって恥ずかしいわぁ…心配かけてご免なさいね」
…結局金堂君は10日間学校を休んで、この大山夜行登山ツアーは幕を閉じたのでした。…
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