第6話 百円ライターの炎

 …僕たち四人は大山の山頂を目指して、暗い登山道を上がり始めました。


 …森の中、闇間の坂道は丸太組みの階段や、ゴツゴツと頭を出している岩の間を急勾配で上がる小路で、男たちは先を懐中電灯で照らしながら登って行きます。

 …途中、何度か木立ちの隙間から夜空の星を眺めつつ休憩をとり、汗を拭いながらテプテプと歩いて、山頂には真夜中の1時前後くらいに着きました。


 1,200メートルを超える高さの大山は、三角にとんがったピラミッド型の山頂なので、 上から望む眼下には神奈川県の湘南エリアの夜景がまるで宝石を散りばめたようにキラキラといろんな色の光を放って広がっていました。

「おぉっ!凄いぜ、夜景が… !! 」

 すぐ足元の山裾には東名高速道路の車のライトがするすると連なって流れていました。


 僕たちが星空と夜景を眺めてぼ~っとしていると、やがて山頂の冷たい夜風がいつの間にかジワジワと身体を攻めて来ました。

「それじゃあ、焚き火の準備をしようぜ!」

 …という訳で男たちは手分けして周りから枯れ木やら小枝やらの薪を集めて来て、先ほど駅の売店で買ったスポーツ新聞を焚き付けにして、あとはいよいよ着火 ! という段になりました。

「よし、任せろ!」

 野間君が得意げに宣言し、さっき伊勢原駅の売店で買った百円ライターを出して着火ツマミを親指で「チャッ ! 」 とひねりました。

 次の瞬間、着火ツマミと付属の金具がポロリと外れて地面に落ちました。

「……… !?」

「……… !! 」

 僕たちは予想もしなかった出来事に言葉を失い、しばし呆然と立ち尽くしていましたが、ようやく金堂君が我に返って言いました。

「誰か他にライターやマッチを持っていないか?…みんな持ち物の中から探そう!」

 そして四人はそれぞれリュックサックや服のポケットの中をがさごそと手でまさぐったのでした。

 すると、

「マッチがあったよウフフ!」

 樋野口君が小さなマッチ箱を手に微笑って言いました。

「 !!! 」

「おぉっ!でかした樋野口っ!」

 みんなの歓声とともに樋野口君が一瞬の輝くスターとなり、微笑みながらマッチ箱を開けると、中に入っていたマッチ棒は3本でした。

 彼がさっそく1本目をシュッ ! と擦って薪の焚き付けに近付けようとした時、山頂にフッと風が吹いて炎は消えました。

「……… !? 」

 2本目は大事に行こうと、着けたマッチの炎をみんなで手のひらで囲いつつ焚き付けに運びましたが、あと少しで着火かと思ったとたん、

「熱っ!」

 炎が指先に迫り樋野口君はマッチ棒を落としてしまい、またしても火は消えたのです。

「うへ~っ !? もぉ最後の1本だよ~!」

 …しかし3本目はうまく着火に成功して薪に炎が上がったのです。

「やった~っ!」

「…良かった~」

「やれやれ…」

 男たちに安堵の声が飛び交いました。

「…しかし野間君のライターはとんだ粗悪品だったねぇ!」

「買ったときにちゃんと確認しなきゃ!」

 一方、3人にそんなことを言われた野間君は壊れたライターを手に忌々しく見つめていましたが、突然

「くそっ!こんな物っ !! 」

 と叫ぶと焚き火の中にライターを投げ入れたのです。

「ボンッ !! 」

 とたんにライターは爆発し、直径1メートルほどの青白い火の玉の出現とともに四人は爆圧に悲鳴を上げて一歩後退りしたのでした。

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