第131話

朝方の太陽が黄色く明るいと、気分は好転したような気になる、空の色が蒸留酒を思い出させ、夜の明かりに酔いが同期していた、わずか数秒の間に光景が移ろう、時を詰め込んだ水は特別な記憶を甦らせ、新しくイメージを湧き起こす、朝の太陽が、色を同調させる。


野暮の境界など一度としてなかったと思いながら、それらしい境目を川や道路などに位置づけしていた、そんな回顧を内容に物語は進み出して、退屈ばかり盛り込んだ非ドラマを構築しつつある、思惑は外れ、勘所を予感さえできない、休みたがっている今だからこそ、毎日続けないと。


料理に比べて、感想はなんて成長がないのだ、そう頻繁に外食していないとはいえ、単語が怠慢になっていないだろうか、食に関する文章を日常に読むべきか、創意工夫の美味に味気ない言葉を残さないように、ただうまいと言えない気取り屋ならば、それなりの努力をするべきか。


変哲が叫喚している、ラジオリスナーの声は姿がなく、本当の所はコンビニにいるトイレを流さない男かもしれない、語り口によって実体は代替されて、匿名の霊魂が怨念を残すようだ、幻滅は何度となくあった、声に魅了された者は顔を見てはいけない、オルフェウスには近づけない。


朝もみじという語がふと浮かぶと、広島の人はすぐに造語を解せる気がする、クリーム味にコーヒーを食べ合わせる、外気は息を白くして、カップも湯気を立てている、昨日は親鸞上人だった、宗教について考え巡らすほどのゆとりはないが、坊主の結婚を等身大に知ると、紅葉の美しい画面が思い出された。


午後の一言を待つよりはさっさと吐いてしまった方がいい、と思って言葉を書き出す空腹の悲鳴は昼ごはんを前に分針を頭に浮かべるよりは、時計を幾度と見る、とりわけ書くことのない暇に何が出せるか、空っぽはそのまま空っぽだ、早く米が欲しい。


昨日の音楽劇を再生できる媒体があるから、脳は借り物を得て昼にも現像される、おそらくどんな表現にもこのような質量は詰まっており、それを感受できるかの差だけで、日の目を見られるのだろう、焦点がすべてとはいえ、その事実をあらためて知ると、広告の有無を自身に考えてしまう。


才能は他人が教えてくれるから、本人はただ努力するだけだと台詞にあった、詰まるところそれしかない、その結果職が得られ、栄光と富も手に入るとはいえ、そこまでの高みに至らなくても、本人が味わえる人生の根源は変わらない、迷いながら一つの道を選択していく、その出来不出来は問題にならない。


五分早く映画館に着いてすぐ、あと二ページ朗読できたと悔しがる、そっと手を置いて目を瞑ればいいものを、区切りばかり考えて遅刻の際を選ぼうとする、だからせかせかしてそそっかしいのだ、休日も二日目なら平日の回りは緩和される、そう思っているのに。


年を取ることは幼さに戻るとはいえ、どうしてこうも臭いは違うのか、いずれ自分もそうなるとしても、枯れた木の香りとはならず、脂の残ったしつこい生命力を感じさせる、そう悪く言えば必ず身にふりかかるとはいえ、老化をつい悩んでしまう。


ドミニクが今日も頬をついてくる、名付けられた巨大なハエだ、思い出し笑いは日常に素敵を授けてくれる、薄気味悪い外観とはいえ本人は至福でたまらない、だっておかしいだろ、とは誰にも言えない秘め事は、説明すれば気色悪い、なにせ巨大なハエだ。


一日目は楽しく接することができる、ウィスパーな独り言に対しても、そうですよねぇぇ、とか、けれど明日からユーモアは飛び去ってしまい、不満という溶岩は固形する、寒波の前にとろけていたい、コメディー映画のパワーも今日までだろうか。


寒波寒波でバナナを買う、酒場でしか会わない人とのすれ違いを思う、話したからといって親友になるわけではない、まず他人のままでいようとする、しかしそれは相手も同じだろうか、互いに牽制することなく思い合っている場合は稀にあることだ、そんな若かりし頃ではないのだろう、寒波になぜか思う。


限られたスペースにどこで何ができるか洗練されている、さぼる意欲は本能として最も貪る、それでも頭は冷静に判断して寒波へわざわざ降りていかない、読書以外にやることを一つ発見してストレッチする、これをとがめる人はなかなかいないだろう、なにせのんきでばかげている。


さすがに寒い、とても寒い、寒いと言う他にない指の冷たさだ、昨夜は旅行体験を比較に大したことはないと豪語していたが、新鮮な寒さだ、とはいえ暖房の中にいれば辛さはない、過去の寒さはなんといっても、ヒーターのない環境だったから。


先頭のいない子鴨の行進が交差点を渡る、渋谷のクラブで夜に聴いたアイスバーンだ、雪もやんで晴れ渡る午前に人人は頭を下げる、踏みしめる歩行はどうしてこうも愛らしいのか、静静と澄んで音もさやけし青空のもと、今日も働く人は働いている。


路面の凍結が何を意味するか、すべるほど足は動かない、杖をついて歩く心持ちで寒さに震える、油を射さないと、でないと体が故障する、洗濯機と蛇口を繋ぐパッキンも割れていた、ああならないように熱を加える、いったいどうやって。


午前は新風に後押しされて、午後は泥まみれで上目遣いする、二分された一日は目玉が回転する、積み重ねに習熟を小話で考えて、子供の時のマンガクラブの発想力を引っ張ってくる、天職は最初からわかっていた、なんて思うものの、誰でも小さい時はそんなものだ。


同性愛にまつわる映画だから情感が湧かないのではない、異性でもおそらく感じられないのは、恋と若さからかけ離れてしまったから、同じ境遇にあれば心も震えて手を伸ばすだろう、しかし今は腕を組んで理解に努めようとしている、これが老いか。


習慣は小石の一つが間に挟まって流れを変えるように、午後から昼前に作業は移される、そこにテクスチャーという言葉をはめる、既知のようで未明な意義はアートから借用したようだ、しかし視界にいるその単語にあてはめる形はなく、エアコンの音だけ。

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