第129話

旅行することで夢は飛躍する、このまま続く生活としか思えない日常も、重ねることで材料は選別され、より多くの人から関心を得る対象に移っていくように信じられる、もはや足りないという感想が人情なく切り捨てて、純な喜びへ向かいたくなる。


帰りの電車から今日の材料は探される、羽目外しの数日は潔く元に戻ることなく、なだらかに姿勢を整えていく、その一つにお好み焼きが頭に浮かぶ、小説の時間があれば読んで書くが、今の空腹が合理的な解決を引き寄せる、まあともあれ、着いてから決めよう。


こんな狭苦しいベンチに座って尻を痛めるなんて、映画上映待ちは正月の暇人が並んでいる、はるか昔の無声映画に客は集まる、今では人工知能だって喋るのに、どうしてこうも人は集合するのか、たぶん自分も同じ、変わらない古典を盲信している。


昨年のように不満は漏れてこない、今年もあきらめをスローガンに自己をさらに放棄したい、午前から応募に向かい、年末からのやり残しの半分をこなす、掃除することで気分は整理されるなんて聞くが、あながち間違っていない、物を手に入れる喜びを食事とするなら、排便は次に比喩される。


掃除をするほど時間にゆとりがあり、年末の慣習などとうに捨てたとはいえ、本棚に溜まった物量に嫌気がさしていた、まるで汚染だ、一つに手をつけると一気に燃え広がる、片づいた本につられて服にも手を出しそうで、そのまま食器を放り、家具も一緒に処分しそうだ。


平日の愚痴をつぶやけない生活はなんと嬉しいことか、推敲も一作品ずつ進み、明日には一段落着いて次なる物語の準備が叶いそうだ、さらに三連休が週末に控えているとなると、進捗は思いがけず、どこまで字を増やし、物を減らす気分が晴れ晴れするだろうか。


何百という靴の前に座っている、午前早くから物を売りにきて、待っている、ものものに関する小説を推敲しながら、たった数年の仕事とはいえ、一生のテーマとして創作の中心になる、汚い業務だったのになぜ、これほど心は惹かれるのか、その理由はつきつめることなく、おもちゃ箱がひっくり返る。


我が家の物をすこし整理すると、また溜めたくなる、物欲を引っ張る数数の衣類は、異性をひっかけるような性欲を覚えさせる、花も小鳥も着飾りたくてしかたない、おそらく原生に近づくほどその欲求は強くなり、昆虫のような合理性を得れば得るほど、色形は無駄を減らす、だろうか。


午前のフードコートは贅沢時間を今年も伝える、家にいるよりもワンコインかかる時間帯は、様様な人人を周りに歩かせる、年末の東京が面白かったのも大勢にとけ込めたから、本通は都会よりも歩き慣れない家族の闊歩で通りづらいが、座るここはより時間を共有して楽しめる。


新年の速度感は考えてた以上だ、短編がどんどん流されて、長編も一回目を終える、そうなったらようやく次へ着手され、箱根峠の春うららかに三島の街が眼下に広がる、名古屋の物語はここでもパーティーが行われ、意識することなく決められた狂乱のモチーフは、夜のパビリオンで各自開催される。


朝のつぶやきはなるべく、前日を振り返った方がいい、高齢の不良クラブに通夜のようなしんみりキャバクラか、抹香臭い、今は若者よりも老人が賑やかで、気力も体力も墓の下まで持って行きそうだ、それに比べて中年は、ホワイト企業にふやかされて、ハンペンよりもコシがない。


バナナを食べながらようやく腰をつける、私は今日は働いている、いや年に一度くらいのフットワークの軽さか、年始二日目の仕事に油を絞っている、まさしく、毎日これくらいこなせば充実するかもしれない、けれどこれに満足しても困ってしまう、それよりやる気のない男として、表情を動かしていたい。


またもやダンボールに本を詰め込んだり、靴磨きの道具を見つけて何足か考えたり、雨に濡れる三連休初日の朝を優雅に時間を過ごす、せかせかしなくて済むと終えた物事に一息入れるものの、すぐに新しくやることを決めてしまうと、思わぬページ数に三日間が埋まり、急に慌ただしい気分になる。


本棚を整理して衣類を置くと、なるべく物は持たないようにしようと誓いが立った、普段の生活で鑑賞した表現のチラシも、五年分が溜まってすでに重くなっている、旅行写真のように見直すことはあるだろうか、広響の冊子はあるかもしれない、けれど他はどうだろうか、一度選別してみよう。


予感はあながち外れない、体調の違和は根拠を持っている、まず自身の心配は経験から除外されても、大事をつい不安に思ってしまう、しかし考えてもしかたなく、安静だけじゃないしょうが飴を買って帰ろうと、祈るだけでない動きを予定に入れる。


それよりも席の心配だ、一昨年は蔓延していた、今も数字は多いけれど、あの頃のような制限はなく、外出もそれほど控えられていない、邪念に妄執すれば自滅するだろう、ここは堂堂と正攻法にいけばいいが、つい悪さが頭にちらつく。


思い描く象は予想よりも早くつかめるのかもしれない、たしかに五年以上前に着想した、とはいえ本当にこぎ着けるとは信じなかった、ところが早朝に手をつければ、昼には道路を走りだしている、考えたような華華しさは表れていないが、このように別の夢も、続けていれば形になると思ってしまう。


年末年始の休日がどれほど貴重だったか、今日の終わりに気づくかもしれない、ついに片づけは三個の箱型本棚を駆逐した、数年ぶりに模様替えもされて、自分でも考えられない手のつけ方にすっきりしている、家事も放って文章に集中する生活は少し休まりそうだ、今は台所に立つ時間も随分と戻っている。


体調不良を口にするのは得意技だ、ところが実際の風邪は数年前のインフルエンザ以来縁がない、それを体が強いというのかわからないが、自宅で寝込む家内と過ごすと、うつるのではないかとやはり不安が起こる、鼻がぴりぴりする、きっとヘルペスだ、目がちかちかする、朝の寝坊にひどく焦っている。


木木の合間で呼吸を整えると、今朝のナーバスが驚くべき深度で癒えていく、大根を買ったり、チケットを購入したり、そこに創作が巨大な人参としてぶら下がれば、頭は計算ばかり働く、疲れが溜まっているのではない、体力が余っているのだ、今夜は優しくしよう、午前の取り返しとしては遅くないはず。

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