第128話
尽きない寒さはまだ始まったばかり、のけ者の体感は終わりなく、また生じる、徒党を組むならいは社会の仕組みだ、群れから外さなければならない、邪魔になるなら、狙い澄ました工作を受け止めて再び目を見据える、いちいち小突いてくる者は、まるであかんぼうだ。
雨より雪の方が好ましい、冷たい、傘をさして自転車の走る夏の陽気がなつかしい、身震いのとれない風雨だ、暗さは太陽の存在を消し、二度と熱さがこないようだ、こんな時だから温もりがひしと伝わるとはいえ、そんな繊細を脱ぎ捨てて、暑さにだれてしまいたい。
締めつけられるほど、肉身は逃げ道へ向かう、なにせ体積は変わらない、制限は無駄を削り、洗練へと誘う、たとえパソコン作業であっても、うるさいことは耳から耳へうちわを扇いで附子の毒気をとどめておかない、それを口に出すより、文章でつぶやく、せいせいするわけではない。
見えない人と言いながら、なぜまたつっかかってくるのか、楽しい演劇だ、それも理性を欠いた理屈として、自ら人は人と説明するなど、嫌だからか、ストレートな理由だ、べらべら話されるよりも飲み込みやすい、けれど計算ばかりの人間にしては、ぼろが出ていないだろうか。
続くいやがらせ画面は、何かを検索しろというメッセージだろうか、気の触れた者への対処に、精神病院の紹介書、そんなワードが破線で浮かぶ、相手にしないが一番だ、それより、雪の寒さに打ち勝つ四枚のホッカイロが足を挟み、その効果を得ていることが、嬉しい事実だ。
窓に映る雪は、何もそそがない、死ぬと机に書かれても、笑うくらいしかない、殺すではないから、吹き荒れる天気に気分を乗せることはなく、一人の存在を今日も見つめる、昨日は音楽が深夜の意識を明滅させていた、芸術は非現実だろうか、それでも、そこに生きる意欲が湧いてくる。
今月の仕事も趣味もようやく終盤に着いた、大変とは思わないとしても、緊張感は冷たさと共にあった、いわば油断なく過ごすことに専念した、ふと数日分のつぶやきを読み返すと、いかに愚痴が毎日につつかれているか知らせてくれる、もはやただの日記とはいえ、なんとわかりやすい。
休日もうろつき続ける平日の不満は、すこしは解消されただろうか、悩みが様様な発見と観点を教えて、未熟な角を削ってくれる、とはいえ全部流されることはない、一カ所に人生を過ごす者の思想も馬鹿にできないが、他の土地を知った体験も置き去りにすることはできない。
生まれて初めてタートルネックを買った、セカンドハンドで、首のあせもも気になりそうだが、まるで様相の異なる姿に眉がひそまる、昔は仲間内から小馬鹿にされるファッションだったかもしれない、どんな気取りで選んでいるのか、それでも新しさを試したくて、ワンコインの価値を手にしたのだ。
伝達ミスから生じて、メモ残しが足りない、ただそれだけのことに敵対心が発生するのは、言い方を含めた態度が問題だからか、それでも、まず謝る習慣はどうだろうか、言ってしまえば開き直りだが、それくらいの正常心で見極めるなら、結果のこぼれない小さな手違いだ、三分で気分は済む事柄だ。
熟れたストレスが隅隅まで行き渡っている、暇という毒は多忙のあとに一気に回る、もはや何を見ているか考えられない、八つ当たりを歳末に向けて散らかす、割れ物注意のシールを貼るか、どこに、暗い窓からぼんやり射し込み、観葉植物は眠っている、動物も仮眠するが、今の熱はさめない。
人様に関心を抱くこともない、昼食時の愚痴を向こうの空間から耳にすれば、性別というか、人の性だ、いまさら知って初めて言われるわけではない、おそらく、砂山の一粒よりも小さい発生だ、高校生の時に味わった感傷だ、言う本人にそんな悪気はない、ただ粗忽なだけだ。
実生活から離れた感想に、言動の一致しない真偽が突きつけてくる、人間関係の大切さを言いながら、その本人は一つとして保てない、だから他人に口出しできるのかもしれないが、所詮医者の不養生のように、自己を整えるのは難しい、もはやとあきらめつつ、それぞれの事情があるのだと言い訳がこぼれる。
わざわざ労苦を得ようとする、重い台車に重い荷物を載せる、その隣に軽い道具があるのに、そんな混乱にどれほど気づけるだろうか、人類の進歩は安定した楽を得ることも目的にしていた、それがなぜ、そんな光景に血を昂らせるのも合理的ではない、つい口にしてしまうように、ついそうしてしまうだけか。
朝の待合室からガラス越しに覗く、朝焼けに合わせた出発は日常の閉塞感から解放を知らせ、ぐちというつぶやきに手を振らせる、白鷺が川の上で一声して、群れが橋桁を抜けていく、帰省という旅行の始まりが期待感で告げられる。
口が黙らないバスの車内に、赤い灯火を回してハシゴ車が追い越していく、それともクレーン車だったか、材料だらけの移動中に目は輝きを失わない、街を歩いての人間観察のご褒美がやってきたように帰省の人人を観ることができる、それはミュージアムの感慨で、自分にとってのスマホと同じだ。
始まりにつぶやいたか、それは三日前だったか、すでに帰路の勘違いが黄昏の光を斜めに射している、去年に比べて成長している、ナーバスに耐えるよりも、悠揚にあきらめて早早と切り上げる、無理をするにもこの身体は、半日家にいれば外へ出たくなる。
わがままは子供だけの特権ではない、大人も正月から自意識をむき出しにさせる、のんびりゆっくり家で食べる生活が合わない、食事するにしても忙しなく店をめぐり、摂取と消化を交互にさせる、一年分のトレンドを学び直すテレビ観賞も、三時間を超えれば退屈になってしまう。
酔った目は頭を下げて視界を探し、足は階段から踏み外されて側頭部からぶつかり、倒れた体は何段も滑り落ちる、地下鉄における生死のワンシーンは冬の夜の寒さ以上に空気を凍りつかせる、あたたかい家庭があるはずなのに。
電車をつないで乗り換える素早い動きは、情報の溢れる都会の刺激が連続する、人の多さに薄気味悪さを感じるよりは、豊富に尽きない材料の新鮮さを抱く、毎年の帰省に生まれ育った東京の魅力が肌に触れる、もっと扱えるという成熟の思惑か。
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