第126話

急ぎの一時に紙を見る、ここにゆとりを置く、心境がすべてとはいえ、どうして統率できないのだろうか、四苦八苦にもならない平和な日常だから、つまらない点を探して苦劇に仕立てる、比較にならない実生活は他人にあっても、のんきな気分は覚めることなく、どこまでもある気がしてしまう。


膝に肘をついて煙草をくわえる写真を見て、ため息よりも言葉で疲れが口にされる、目はいつも見えない、考えるよりもはるかに狭い、標準は常に取り違われている、そこにあるのに、石は砂を探して手につかめない、斜めに見つめてふかしている、きっと多くが映っているだろう。


雨に電車は遅れて焦りながら劇場に到着すると、今シーズンから時間割が変更されている、配置にぽかんとする、すると先先の予定が思案されて、間に合わない公演が確定する、遅くなった分だけ逃す回があるかもしれない、しかしそこまで考えることもない。


一時間空いたからどうしよう、ここで短編を書こうとするのが休日の常だが、読んだ本の解説がたまたまたまっている、タイミングは合わされている、じたばたすることなくソファに寄り、腰を着けて余韻の説明を受ければいい、なにせ休みだ、慌てることはない。


見て見ぬふりを好意的にとっている、構えは必ずななめに、視線はほぼ合わせない、今に始まったことではない態度は子供の時から、内気をミカンのように剥けるわけではない、いくぶんがめつくなったとしても、今朝はコンビニにバナナが並んでいない、栄養を気にする頭は、ウィルスを形に見るのと同じか。


ありあまった元気は、周囲の動きを遅く見る、まるで少年誌の異能力のようだ、十二月の冬の入りは空気を生ぬるいものにさせている、まるで無視するように注文書に手をつけていない、牽制する目がペースを落としているのか、終盤の追い上げなど欲さない、こちらはたまっているのだ。


ノルウェーと日本海では、サバは違うか、スパイスにまとわれたグリーンの味わいは、酸味あるタマネギに甘さも加わり、魚の側面が伝わる、衣によって中身が見栄えする大陸の味か、それが一晩の風味を内臓から声をあげさせ、今朝はごはんをすこし遅らせる。


三日ぶりのバナナに安堵する、一ヶ月と経たずに習慣の食べ物となった、チョコの代わりに、空腹ながら働ける今日は、栄養を取り入れ過ぎたか、なにかと食事にうるさい最近とはいえ、元気だけは取り柄になるほどだ、しかし健康は頼もしいとはいえ、愚痴の多さは変わらない。


休み明けの体を週の半ばに保てるわけがない、目覚めを早く設定した新しい習慣は一時間遅れて寝坊する、欲してのことだ、喉の乾いたあとはむくんだ顔が鏡と対面する、休日らしいしわくちゃだ、こんな日の動作は悪いはず、ところが肉体は順調に。


急な季節の変動により秋のものがたまっている、入れ替えをこなして、年末の調整も記入し終える、十二月は雇われも趣味も、両輪に仕事は忙しい、昨年の充実は今年も準備を整えているが、どうやら思うよりも早く過ぎ去ってしまいそうだ。


朝から頭脳に小言が浮かぶ、どうしてこうも気が回らないのか、どれほどの視野が物事を捉えているのか代わってみたい、などと思わないとしても、子供の頃の発想だと気づかされる、通り道を塞いだらどうなるか、年齢で叱ることのできない性質だろう。


慌てる乞食はもらいが少ない、何百回周囲に目を配して頭に唱えたか、今日はそれが自分だ、速く動こうとすると乱れは甚だしく、加熱した脳は合理的に指図する、遠慮などなく、すかっとする仕事が欲しいものだ、それでも慌てた分だけ、充実感はあるのだから勝手なものだ。


体中にバネが張り巡らされたようだ、今月の土曜の休みなしを計算に配分したい心は、火曜にすでにぎしぎしする、見て見ぬふりされた相手に苛立ちを覚えるのは、筋肉の残量が恨めしいから、それよりまだ二日目なのに、ため息と独り言に気が滅入りそうだ。


ようやく暖房が運転開始した、冷たいコンクリートの職場に、今季二度目のホッカイロは両足に貼られている、先取りではない、保身の為だ、喉はからからになって奥はこすれるよう、湿気を欲してマスクでもするべきだが、なぜこうも意固地になるのは、素顔が好ましいから。


脱水するように酔って眠ればリンパ腺の腫れも引いている、寝汗はアルコールを吹き飛ばしただけではない、症状のなかった痛みの玉も鎮めてくれた、二日酔いもない冴えた朝は冷涼で、手足のかじかみに暖房を欲しがるものの、心地としては悪くない。


もうすこし言葉に冷たさがあったら、信用に値する言質になるだろうに、言いようは辛くさして、相手に身構えさせる、愛想笑いの最中にいると気づけないのかもしれない、昔とある人が言っていた、友達はみんなへらへらしてばかりだと、しかしもはやまわりにその頃はいない、生真面目な顔が凍てつく。


十二月はやたら着目される、慌ただしさによって、不測の出来事に独り言は加熱する、祭りのように騒いで、波及は容赦なく響き、神経は休まらない、反発して平常を保とうとする動きは、上下する音量と旋律に齟齬をきたして、分離しそう。


均衡を破る体言止め、思い過ごしにすぎない、特に標榜する看板もなし、欲さないけれどすこしもらいたい令聞、映射されるほどのたまものでもない、悉皆の意義も定まらない、長広舌を平滑に並べる他人の芝を見る、醇化されずに悲調。


自分で格調は決められないとはいえ、そこへ向かうのは本人の定めるところだ、わざわざ踟蹰することもない、あえて曲庇する者などたった一人しかいないから、手探りを素早く深所を分け、わずかもゆるがせなく出来事を痛切に得る、何事も順当には進まない、それでも意想は正しく枠組みを求めないこと。


朝に考えた物は空疎だった、もう忘れた、いつも明視できていると思いこんでいる、他人の粗ばかり見えた気がするから、おおむね全部わかったのか、宿痾として膠着している、夾雑から除き去ることなどできやしないのに、難癖ばかりつけている気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る