第124話

憤激の二文字に情念は発射される、こんな言葉が欲しかった、使い道などないのに、使われる単語はもはや古された食器のようで、またこの接続の皿か、またこの形容のフォークかと、ある表現に目が落ちる、奇抜を狙っても効果はそれほど得られないとはいえ、いつも新奇を欲する。


朝晩は寒く、日中は過ごしやすい、三週間ほど前の冷たさに冬を悲観したのは何だったか、うららかな太陽は空を晴れさせて、今夜の月食を最良の条件で観測させるか、畳の広間で落語を聴き終わった頃に、ネットで見ることになるか。


対象の成長を得るよりも早く、自分の観る目が伸びると、見損なっていたと嬉しくなる、イメージはあまり嘘をつかない体感を残しているから、意外な刷新でページがめくられると、確かな足がかりとして次の機会も望める、繰り返されることで良さに気づく、それこそ信頼だ。


納豆だけで健康を得られるとは思わないとはいえ、野菜も摂食するようになって一週間と経たずに、活力の基底が上がった気はする、短命の思い込みだろうが、見直すことで体は正常を取り戻す、食の与える生は、これほど恩恵があるのか。


多くない分量に対して、抱えてパンクする業務の遅さに血は昇る、なぜ見ない、そしてなぜすべて手にする、周りを向けば分配はいくらでも可能なのに、その負担が眉間に皺を寄せて、ぬるめの空気に熱も上がる。


体感温度のずれた者には、気温の下がる夜に冷房装置が作動することに、やや癪を覚える、朝は真冬のコートを着るのも、他人のマスクよりも自身の口に目を当てているから、換気の為に体が冷たくなるなら、文句よりもまず、自分で動かないと。


生活ははたと戻る、これほど潤いがあったのかと、今朝も頭上では哄笑が起こる、意識の高さが声をあげて、自尊心はなんとうるさいのだろう、他人にケチばかりつけて、いやます声が週末に高くなる、自宅に日常がまた帰ってきたのなら、もうすこし口はとじて、目尻をゆるめてみよう。


昼休みの陽光はあおむけになる、窓の中は暖まっている、酸素はたぶん観葉植物から吐かれている、二酸化炭素はすこしだけ、広げた手足は消化と共に午睡を貪ろうとする、明日も仕事だがほんの一息だ、冬前の秋があくびしている。


自分勝手とわかっていながら、一晩明けても怒りは尽きない、ふつふつして八つ当たりさえしている、それほど残念だった、隙間を埋める内容が予想されるからこそ、土台を失ったことが悔やまれる、別に有名人の話が聴きたいわけではない、ただ映画の中身を完成させたかった。


根に持たないが、引きずるタイプだ、同じことか、立ち見をせがんでみればよかった、しつこくとも何もしないよりはましだった、なにせ本当に観たかった、次の日の午後にもわだかまることは思わなかった、それほど悔しさが固着している、しかし背後では、これほどの感情がある自分に驚いている。


影響は一定せずに、たいてい一日か、もし日常にその性質を備えたいのなら、毎日接する必要がある、一分でも三分でも、すれば体に馴染み、意識することなく発動されるだろう、ブルーズの精神に魅了されている、マイブームはどれくらい続くだろうか。


映画の観られなかった憤怒はいつのことだったか、すでに忘れてかけている、それよりも前へ前へとやるべきことが今を回り、休日の意識を集中させている、しかし視界に入るテーブル席で男の子が貧乏ゆすりしている、新たな苛立ちの発動だ、音を鳴らして食べるマナーも、ひじょうに気になってしまう。


義務と反復こそ基本行為として認め、余力があれば情感を塗りたくる、ブルーズの影響は打ち身となり、選別よりもありのままが奨励される、重い体に、くどい会話は、これだけでも単なる愚痴が出る、そこに着せかえするのではなく、昇華させる技こそ、表現か。


ニュースは自分の常識では考えられない事件を伝える、しかし普段の自分も事件に扱われるほどの奇異を表している、非人間の冷酷さを、普通って何、という問いを最近自宅で意見を交換したように、一人一人の普通が異常でもあるのだ、いったいどこに良識を求めればいいのか。


敵意を互いに溶解させることはない、いつでも視座をずらさず、機転など利けない、ボディータッチに発揚することを考えれば、嗚咽する破調に身震いする、まず目は潰して博捜させない、周囲に唾棄して偏向は、至妙の貧血を頭に沸騰させる。


雨が降っていない、降ったのはコンサートの日だ、突き詰めるなら、乾いた中で音色を聴きたかった、神棚が頭に浮かぶ、朱色の柿玉を並べて、吹き出しに絵がしゃぼんになり、割り切れない、水が欲しくなる頃合いに、血液も薄くなるみたいだ。


片足をかばえば、もう片方が痛み出す、あらゆる物事にあてはまる、布団の寝返りも膝を確認して、夢には持ち込まない、前回の印象を次回にあてはめることはない、刺激は常に新しく響き、仮に悪さがあっても、改善が効果を生み出す。


明日の処方を決めたら、今後も飲み食いを恐れることはなくなるか、移動日のような早起きが成功するかわからないとはいえ、静けさに昨晩をふりかえるなら、ただの描写とは違った感想が結ばれるだろう、いつも同じコースではないように、こちらも手を変えなくては。


可能性はまず自身から発さなければならないとはいえ、根拠のない連続が実体化すると、逆に信用を失うような戸惑いが起こる、信じていないからこそ行えたことが、仮の信頼を手に入れると、疑わしくなる、増長慢にはさすがにならないものの、シャイな面も上澄みしながら、些細な手応えを大切にしたくなる。


たった二時間の不足で神経は毛羽立つ、と思ってすぐに、文章にやすりをかけられた午前の負担を考える、どちらとも言える、ストップモーションの仕事量に誰もが空回りする、木曜日の投網にかけられたまま、愛想笑いでミスをさすりあうよりは、喧嘩腰で背骨を打ち合う方が望ましい。

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