第123話

良い事をすれば良い事が返ってくる、知ってる心がけが向こうの電話に聞こえると、ならば自分にも、などと思ってしまう、口で言うほどたやすい事なのだろうか、身の回りに発言ほどの良心は感じられない、それより責務に縛られたエスカレーションだ、声に出せば真実になるより、嘘が逆さに炙り出される。


他へ与える仕事があれば、わざわざ増やすやり方もある、誰の為の働きなのだろうか、自らに課せられた業務をこなすことに集中して他を妨害する、必ずしもそうではないかもしれない、しかし配慮なき行為がのさばっているのは知っている、つまり自己本位なのだ。


理知がむやみに稼働した質問を避けるべく、一声だけを残して離れる、必要なのはその紙と、もう一枚の紙とも言わず、子を育てるのに見守れない過保護があるように、多情の変形は業務を細微に探り出す、どうしてそうも支配したがるのか、放っておいても成り立つ世界なのに。


土曜の快晴が朝に陽射しをあてて、芋の葉は脈を広く透き通す、茎もなまめかしい新緑でそそり立ち、豊かなカーブは秋によりかかっている、走り過ぎるバイクのフレーズが面前に余韻を残す、今日は他人は休み、ささやかな仕事の合間に目がよそ見する。


一週間を早寝して過ごし、安定したパフォーマンスで歩んできたと思っていたら、滅多にない仮眠が昼前に落ち、気づいたら一時間の消えた寸分のなさは、見事な睡眠の美しさだった、疲れをそれほど感じない休日ながら、細かな綻びを補う休息だったようだ。


秋の休みはどこも人だかりだ、珍しい賑わいにハロウィンが気づく、元は豊穣も祝うランタンだ、かぼちゃの中の灯りは時に混雑に見失う、シュプレヒコールにパレードする時代ではないが、着せ替えて逸脱したい欲求は古今東西変わらない人間の営みを表しているのだろうか。


わかったような口をきかれると、どうもあざとくなる、知った気な頭は感想ばかり書いているから、どれほど知らない人を苛立たせているだろうか、けれどその行為を繰り返して言動は肉をつかみ、ただちに払拭できない中身を蓄えるのだろう、背伸びした言葉を受け止めないと。


常に自身を疑い続けなければならないとはいえ、時時他にも疑問をかけてみる、もしかしたら気づいていないかもしれない、遠回しの嫌がらせに、それは第一に自分から発生しているのかもしれないゆえに、相手も事の次第をわかっていないのだろう、すれ違いは男女の仲に使いたいが、近い関係はある。


秋に夜酒がつきまとうのは昔の京都の暮らしのようで、たかだか三ヶ月に満たない過ごし方でも、毎年思い起こさせる敷石になっている、一人の生活は余暇があり、埋め合わせの時間は待っていましたと無為を漁る、今はそんな動きに耐える体でもない、引き締めないと。


健康診断の結果に打ちひしがれる、腎機能の低下はC判定だ、癌か、それとも何かの病気か、先は暗く、日頃あれほど死に接近したつもりでも、ネットに頼って教えにすがりつきたくなる、けれど小学校の通信簿に字の評価を思い出せば、なんとかなると思ってしまう。


チョコからトマトへ、コンビニトイレの使用後に購入は変わる、食事習慣の改善からまず開始する、一日三個チョコを食べれば、年間に千個は腹に入ることになる、そこにキャベツやニンジンが代替されれば、否応なくコレステロール値は下がるだろう、そして腎臓の負担も減る、我ながら理に適った改変だ。


たった一日でブラックサンダーとお別れする、これからはイエロバナナが代わりをはたす、要はパンを食べるジャムになればいい、前向きな健康改善だ、あとは納豆を食べるようにして、弁当は必ずサバを選ぶ、大好きなチョコに未練はない、欲しいのは、迷妄とも言える極端で狭い観念と身体だ。


週の半ばの休日は疲れも少なく快調に過ごせると思いきや、やや重い、昨晩の音楽に体力を費やしたように、喜ばしい時間に多少は空になる気分だ、朝から黄昏の気分は南風にあたり、冬を前に夏が反復するようだ、昨日は星が見えたけれど、今日はかすみそうだ。


数値の悪くなかった数年前は、たしか毎日納豆を食べ、玄米を準備して、キャベツやニンジンをバランス良く食事していた、その効果はどうやらあったらしく、チョコとパンに偏った生活は今の血管に反映している、手間を減らすばかりで汚れていないだろうか、我が家の埃のように。


目が見えず、鼻もかげず、耳も聞こえないこと、休日後の朝に考える、ストレスを避けるのが最もすぐれた治療法ならば、頭を抱える、常態したあらゆる煩瑣が視界に入る、それを修正するには、争いしかないか、五感は素晴らしいゆえに多くを受ける、つまらないことがたくさんだ。


音の八つ当たりがダンボールで倒れかかる、うるさい人はいつまでもうるさい、まるで自分のつぶやきのように、毎日愚痴る体調不良と同じく、刺激に対して苛立ちを過熱させる、今年の流行語がノミネートされたらしい、いつも生活圏には聞かない、知らんけど、という言葉の結びのように。


うしろ向きの気分で休日の朝を過ごしていると、理髪店の予約を忘れて過ごす、謝りの電話は一時間をずらしてもらい、仕事のミスのようにうなだれる、うっかり以外に言葉の見つからない事態に、予定と計画よりはアドリブで組む方が得意だと、一日を申し訳なく遠望する。


早朝から人混みを避けるのを予期して、映画上映のスケジュールを調べていたくせに、カットのずれ込んだ影響で、並びの少ない美術館へ向かうことになる、寒さも理由にしたとはいえ、ちょっと覗けば噂以上に人は少ない、ままならないよりも予定通りか、こんな日は自分を信じられない。


劇中にふと思う、言わなければよかったと、余計な心配をさせないことにまず目を向けるべきだった、もしかしたら何か知っているかもしれないと、良き報せを欲して情報を開示したが、母親とはどれほど息子を心配するだろうか、嘘でもいいから次に、なんともなかったと伝えよう。


孤独も一週間で慣れると今年の経験を踏まえるように、半端に死にたがる気の病は日中に飛来するとはいえ、そろそろ落ち着く頃か、そのかわり作業は埋め合わせに捗り、外界も秋とはいえ、より心に染みる光の映像が目に入る、そもそも苦しい暗さではなく、楽しんでいる裏面がある事を知って、演じている。

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