第120話

目もくらくらする昼下がりに、ピアノの感傷をエキスに字を再開させようとしたところで、タブレットの使用方法を問われる、わからないのだが、アイコンの多くを消去しているコンピューターに比べると、今の大画面はなんと選択肢が散らばっていることか、的は得られなかったが、どうにかこうにか。


そんな一時に休日は旅を位置づける、ブレンドコーヒーは浅煎りよりも豆の味が澄み渡っており、僧侶の一杯がバッハに流れる気分を浮かび上がらせる、孫の写真は心意気だけで良い、タブレットの使用方法は教授されなくても、叱られることで若さを受け入れるありがたみはある。


朝の洗濯物の最中に急遽映画の予定を取りやめる、県を離れた施設でギャラリーが生まれた、実行力だ、昼過ぎに観るものはあるのだから、前後に詰めて体力を使い切ることもない、むしろ評価するよりもされるべく、自分の作品を建てないと、そう思っての時間変更だ。


昨日一昨日の走りに比べると、なんと進まず、重たく、血が滞った描きだろうか、おそらくやっていることはそう変わりはないのに、うみとあきが情感を枯渇させている、気持ちよりも義務によって字がはいつくばるようで、つまらない気分を餌の人参にして、着想の発展をひそかに楽しんでいる。


狭まった思考の中でおおらかな雷がなっている、雨はやや斜線に、空を灰色にくもす、業務の静まった今日は熱気をほどほどに、昨日の短編を吟味する、本当に無味乾燥な父の思いだったか、子供のない体験が同情を寄せず、名のない舞台が味気なくとも、そこに生きた人間がいるなら。


安易に自負心を手にさげれば、ただちに切れて落ちそうだ、そんな妬みを抱いたひさしぶりに、落伍者だと確言されたみたいで、逐語できずに翻案する、退潮ではない、鬱屈した夕刻に太陽は黄ばんでいた、本から借りた描写で逃げ、力を蓄えるしかない。


つまらない話を小耳にしたら、コーヒーを飲めばいい、秋晴れをさらさらと流す朝の雲に、心はすずやかにいればいい、他人の噂など好む者が集ってすればいい、そんなことを思って一気に飲み干せば、ドリップを通過した粉が喉に粘着する。


目をこすって鼻をかむ、口は吐いて額はなやむ、もしかしたら人間かもと、助言をきかない者は、助言できない、ほえる犬とだまる蛇か、危険はどちらにあるのか、いいねを削って真髄を得る、あてはあてにならない。


夜行バスから飛行機へ、歳というより気持ちと体力が交通手段を選ばせるように、文楽を前に座席も主眼と入れ替わる、目にする視覚のあやまりは、言葉の肝をとって語りにのせた場面の創出だ、古典の味わいは生存するものの強さだ、丸く、どこにも傷がない。


いいねの幻影は、上か下か、駄菓子で勝ち得て、文学に皆無か、人は食いに関心を持つ、食べることで賛同をつかもう、けれどそのグッドは記号でしかない、本人が押すよりも受け手は数千倍に好意をもらう、おそらくそう違わないのに、無関心こそ最大のエネルギー源で、ここには枯渇がない。


力の出ない時は、脱力を学ぶ時だ、鼻息の荒さはいつも近くに、反面教師は小さい頃からだ、さやかな光が存在を失わせ、白ばんだ朝に冷気が脳を透過する、顎に腫れ物がさわり、よけいな手を出したかと思う、刺激がなければ発生しない、それをマイナスへ。


苦衷を表するに徳業が足りない、擬装された稟質は、才知が及ばない、万感を飲み干す、宿昔を問う、曲折して家を壊し、粗略な道標に切迫する、引合に出すのは涙だ、懐抱をささやく、座臥して手を合わせる、辛抱と。


たった一日の休日でしとめようとしたものの、計り間違えて損ねた、ただし誤りではなく、この形にはこれだけの量が必要だという報せに従ってのことだ、中断がまた取り返しの重さを予想させるが、それも含めての経過だ。


思い描いていた絵図がないとはいえ、予想しない形に写し出されていく、あくまでおぼろげの背景しかなく、確定した考えがないからこそ、表現を媒介としてまとめあげられるかもしれない、良し悪しは同時に含み、分断できないからこそ行き来する、結局はただ、その事を書きたかっただけかもしれない。


今朝もトルココーヒーの深みだと、学習は底まで飲み干さない、上澄みだけを口にするのは対人関係か、すぐに結びつけようとする、必ずしもクリアな味がするわけではない、透明感ある茶色い液体ながら、えぐみも含まれる、爽やかな口舌に、雑味はあるか。


黄土のワンピースが道を遠くへ歩いていけば、マタニティドレスが立ってスマホを操作している、今日も三十度を超える秋空だ、眠気は春よりも物憂く、見知らぬ半ズボンの男が通りの向こうから見ている、目は合わない、めがねをしていないから、暑さは残るが、静けさは確実にやってきている。


素材の特性を肉身にあてはめたくなる言葉借りは、権力欲と同居する他への難癖が道の真ん中に車輪を停めて始まる、大きい物に乗って威圧したがる、まるで巨人の頭で操作する小人のように、神社へ行けばわかるのに、鳥居の中央に物を置いたらどうなるか。


イレギュラーについて頭は振り回される、行為と行為が結びつかない、流れを分断する何かがあったはず、ところが尋ねれば、欲しい謝りばかりで記憶にない、その空白が引き起こす波及を恐れているのに、とはいえ昔の自分を見るようで、理解を得るのに都合の良い出来事だった。


やる気のない時はやる気を出さない、恵まれた環境ならば、老化よりも疲労が衰微のことわりを伝える、無理するのではなく、無理なく無理を避ける、他にしようがないから、動いているからといって視界に緊張することはない、勝手にすればよい、体が重い。


透き通る間違いない予感だ、口論に発展する前のヒステリーに黙り、わだかまる、ミスにミスが続き、口論も向こうで生じる、赤い斑点が三日目で熱を持つように、気温の落差にうごめきだす、耳もやや遠鳴りが訪れ、誰もが狂いを体に起こしている。

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