第119話

母親への昨晩の電話を引きずっている、元気を与えるどころか、奪ってしまうような説教をして、数ヶ月ぶりの会話に親不幸を重ねる、ひさしぶりの声だけで十分なのに、親に向かって何を偉そうに口をするのか、この償いは数日で返せない、今後二度としないと次を待つが、はたしてそれが正しいか。


早寝遅起きは最良の体調をこしらえる、待たせた執筆は一気に終わりをつかもうとするように内容が浮かんでくる、図式の明瞭な内に描き切るのが得策だろう、習慣に甘えて散歩するよりも、このまま座ってサーフィンの第二ラウンドのように、もう一度海に浸かればいい。


月の満ちた次の今日は、休日の体力を朝から退潮させていく、頭に継起する他人への不満は、動物であることによる煩瑣が侵入してくる、めざわりやらうっとうしいやらこざかしいやら、動かないとは退屈なようでいても、やたらよりはずいぶんとましだ。


空腹が今朝から心配性を生む、首のうしろ、今月末の土曜日、それから、食後にもう忘れている、臭いに敏感な女性はエレベーターの液晶モニターの隠れ蓑に危険を察している、新品のパソコンのような匂いに男といえば、無臭に感じている、性別の予知能力か。


比肩される表現はないと信じたくなるほど、短編の良作に小説の信頼は取り返される、言文一致は心身にフィットして、意識世界は文字だけで居場所を移す、これだけの力を誰が放棄できようか、活字離れはもはや古今を分けないものの、決して失われない文芸だ。


眉間の皺に両義があることは知っている、営為のにぎりこぶしだ、分節はストレスとアクションだろうか、明快な樹木のふしくれだ、生きる姿勢の一如が筋肉を盛り上げる、狭隘なやからはそれを見て鼻で笑う、人の営みとは、自己を捧げることか。


朝から過激にやる気がない、そんな時こそ扉に貼られた職場の五箇条が目に入る、気を丸く、これよりもそうなるだろうか、雀が外で鳴いている、九月半ばの真夏にだれるように寝汗をかき、爽やかな体に目は落ち窪む、週も真ん中にくれば、それはすこしくらい疲労もたまる。


暇が喧嘩を生みやすい、ついでに誤解も、一つの弁解はあてにしない、もう一つはこの目で見たから、十年以上前は冷血動物みたいだったから、ずいぶんと大人になったと昨日に言われても、ある面は今も爬虫類よりも退化した昆虫の心だ、同情と機能性は別の話だ、とにかく無駄を排除したがる。


まるで遠隔操作の鶏のようだ、落ち着く所がない、うろうろと徘徊する、それに触れてつぶやきも同じ道程をたどる、まるで糞を餌にするごとく、領域は思うよりも肌で感じて牽制するのだろう、海に隔たっていても、実感はそうそう変わらない。


社会規範やら慣習やら、一つのドキュメンタリー映画がティモールから込み入った考えを喚起させる、継起する訴えは差異に寄って叫ばれる、自分はこうで、他はこうだと、客観的な位置付けがなされたからといって、事態は急変するわけではない、ただ別だと、見定めるだけ。


明日の台風を恐れて準備する、読書と感想の材料を、一日中家を出られないことに恐怖する、昔は治験で数日がざらだったのに、動物が取り返された今となっては、歩けないことは信じ難い苦痛で、街中の人人に会えない休日は、この世の終わりのようだ。


朝の始動が早かったので、昼過ぎの帰宅はやたらものたりない、夕方になってもまだこんな時間だと、雨の弱い合間を抜けて近所のスーパーへ夕飯を買いに出かける、ゆとりとはいえない空間があり、埋める材料は多く残っているとはいえ、目も気持ちも休めたい外出を欲する。


台風が晴れてまた雨が戻る、雲に揺られて潮の香りは残り、通り抜ける大気に雀はさえずる、連休を沈めた天候は半日を部屋に籠もらせて、運動できない苦しさをにじみ出させた、そのかわり成果も残った、まだまだ足りない実力を濃く。


曇る空にはらはらとまた雨が舞い戻ってきた、自信家は変わらず一定しているものの、大きさを前にしてうなだれることはたびたびある、とても太刀打ちできない、以前はそこから逃げる事が多かったものの、最近は細かい点で未熟を指摘できる、目はこなれてきたから、後は毛抜きのように修正を施すのみ。


呼吸が薄れて溜息が出る、似てきたか、自制できているようで隙間に覗かれる、声も動きも、いつも涼しい顔して歩いている、高尾山に登った時もそうだ、疲れはいつも表情には出さない、強がりというわけではないが、内気としては、つい隠しがちだ。


食と運動の連関を台風に覚え知る、閉じこめられた一日の夕食のカレーは容量オーバーだった、平日なら難なく平らげることはできたはずが、挽き肉のゲップが二日間続く、なんとも身につまる字面か、もはや今日はリハビリだ、重く重い。


秋風に虫の音が一変するごとく体調の悲鳴が色を変える、これほど変化するものか、肌の触れ合いはかさかさして、目もかすむほどアレルギーに充血する、暑さは好きだが、これほどに大切にされていたとは、寒気が忍び寄る季節に、こうべを垂れる。


ひさしぶりに重い物を持てば、腰と膝に張りが残る、加齢を言い訳にしそうになれば、どんな年齢でも痛みは残るだろうと予想をつける、どれだけ楽をしていたか、またどれほど昔は負担を持っていたか、習慣が肉体を定めるとはいえ、弱っている。


一つの目的だけ持った旅行に最大限の自由を手にしたように、一つの言葉から始めて物語を編んでいく、筋や流れをひきずる重荷などいらず、忘れ去ったならそれはそれで必然だと許容する心持ちが、センテンスに羽根を伸ばす、若かりし日記の試みのように、生気が取り戻される。


朝から腹は不調を訴えていたようなのに、昼にはとんと忘れて落ち着きを取り戻している、たぶん音楽のせいだろうが、義務の添削された心の荷物は、軽いからこそ持ち物がよく見つかる、休日らしく過ごすのは二週間ぶりだろうか、三連休の始まりに人人が流れるように、ただ運ばれたい。

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