第117話

ミリタリーな涙を流す、横のシルエットが好き、京都をまず運ぶ朝の冷気は、もやなく目をつむらせる、皮膚が一枚はがれた音のひびきは、暑さと異なる営みに気づかせる、発句は無為のまま、自動筆記は感慨に両手を差し伸ばす。


油の怒りは一過性に鎮火する、損失をはかったうえでの燃焼だ、予測は一時間半だった、しかし実際は一時間だった、炎の弱いゆらぎはまさしくまぼろしだったから、今は一時の熱でとりもどそうと、冷静にはやっている。


仏の顔も三度まで、昨日に口にした注意に対して、叱ることはエネルギーが必要となり、他人を非難できるほど立派な行為をしているか振り返ってしまう、それはもちろん、値しないことをわかっているから、だからこそ、人に言った分だけ身を正すことになる。


三度の推敲で十分だと思っていたが、粗は何十カ所と見つかる、完成は傷一つないのが基本だ、とても作品とは呼べない状態にあった、思いがけない発想が実感を食いつぶすようでも、それだけの成長は見込める、習作が大きくのしかかったが、良点は中にいくつもあると、着実を知れる結果となっている。


余る三十分は校正の為の時間配分だったが、滅多になくSDカードをパソコンに挿したまま忘れる、タイピングマシーンはある、こんな時に代替となるのがコンデジと呼ばれるカメラだ、スマホがないおかげで容量は得られた、とはいえ、中のデータは改竄できないから、スケッチで暇つぶし。


街を歩く人を見るだけで三十歳は若返るようだ、もちろん胸と尻を主に覗いているが、大まかな装いだけでなく、横顔からの睫毛もなかなかエキスとなる、若さを取り戻す薬は当然存在しないから、刺激に対する反応で内から変化させないといけない。


平日にあれだけ追いかける時間は、忘れ物を一つしただけで持て余す、言い訳は体力となる、朝から続けて目を使っているから、もはや一字も書きたいと思わない空隙ながら、やはり他にやることなく、綺語にもならない文字を垂れ流す以外にない。


歯を磨きながら浮かべる構想の余裕もないほど時間は残っているから、数年振りに綺麗な字を書くことに集中するほど手持ち無沙汰だ、ならただ座って外を眺めるだけでいいのに、目と頭は使ったが、体を動かしていない分だけ体力はたまっている、とはいえこんな余白こそ、休日らしい間延びだろうか。


三度目でやっと区切りがついた作品に費やした労力は、今までで一番だ、評価はさておき、ふがいなさを多く残した成果はやはり、礎として身になった実感はある、これだけの事ができたのだから、また次もできるはず、その心意気だけでも、やったかいはあった。


未熟な精神はあまりに乾いていた、歳とって潤いを取り戻し、ようやく恋と女性を扱う作品の意味が解せた、眩い夏草の香りに走り、地面に転がり睦み合う、口を大きく開けた感慨は悪びれずに破滅へ走り去る、しがみつくよりも、突っ走る生の謳歌を目指すように。


はためくはたに一昨日が奪われたことに気づく、自転車と速度も清新を取り戻さない、暗い屋内の狭い人間関係に焦点は向けられ、否応なく材料を集めさせる、ちょっとした物音で火がゆらぐように、鮮明な乾きが声をからす。


叙情的なメロディーになびく朝方の空気は、いよいよ身に染みる秋の到来を予測する、カラスはしわがれた声であくびのような鳴き声を発して、夏の午睡の最中にいるようだ、それも納得の暑さが昼に戻り、実体を失ったかげろうの陽射しで蝉の声を工事の音にまぜている。


大人が子供をあやすように、人と接する無邪気さがあればいいのに、と思うことはない、相手は幼さが残っているとはいえ、そこから発芽して節くれ立った無数の枝が伸びている、柔らかい枝葉がなでることはない、方向の定まらないこんがらがった梢にひっかかれ、からまり折れることだろう。


固定された単語使いを瓦解させる、生起する呪いに、措定された性格が合わさり、目つきが捨象される、顕現する微笑みは、内外の均衡を卑近にさせる、範例しかない、予見されていたこと、図解されない偶発に、蓋然を位置づけている。


月の中でも上位を争う暇な仕事日に、どうしてこんな気分になるのだろうか、平静でいられないのは、空回りにあたったからだろう、何もしないでいいのは、何もならない、部屋で待機させられて、我慢していられない動物の性質がどよめいている。


今朝も一番に無愛想だ、つながる油をまず粗布で拭う、暇潰しの遊びにふける無駄はない、そもそもただれる向きもない、友情はおそらく大切だろう、ところが必要と本心に感じなければ、流行を追うような迷妄だろうか、いらないならいらない、そこをはっきりさせているだけ。


さあ何を提起するか、含意をなるべく取り除き、可変をそろりと置いておく、営為に信頼を添えて参画することを歓迎する、赫灼する顔面は当てにできる、模像された胃袋の心で、早く知悉して、疑義を仲良く庇い合う。


焦点を自身から他人へ、それは夕食のフードコートの時間だ、目を凝らさなくてもわかるはず、どんな人人が生活しているか、またどれほど自分と異なっているか、相手を冗談として見なす、すぎれば情け知らずになるとはいえ、しょせん小さな世界だ。


雨から逃れて夢路をとりこぼし、彩り豊かなビールに夜は騒ぐ、レーダーで入念に雲を調べ、合間に歩いてコンクリート店内で輝きを飲む、酔いの為の長い効果よりも、瞬間の映像が味わえるなら、一飲みの為に代価は支払われる。


生け贄の付き合いを前も向き合った、今も昔も変わらない性格は、誰か一人に絞って嫌悪する癖がある、修正か、もしくは矯正か、改善を考えずに手を出せば、同じ失敗へと至る、受け入れる他にないから、自身を供養したくなる。

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