第99話

毎週金に比べれば、幾分スノッブもましだ、それが上か下かはわからないが、冷やかな心は微かに温度を保っている、自制という黙殺によって、ありとあらゆる名言がラジオで披露されるものの、似たり寄ったりの世知が多く、忍耐や我慢を変換させた内容は、真理や知性の目線ではない、だから堅物に効く。


人に嫌われたくなければ好きでいろ、かわいがられる存在になれ、どれも日本人らしい迷言だ、歓心買いに自立はなく、自分勝手を捨ててへりくだれとも言っている、曲解もはなはだしい、どうしてもっとまともに汲み取れないのか、自身にそんな文句を言う前に、やはりもう、終わっている。


一度動きを停止させてしまうと、再び稼働させるまでの負担が重く、その場から逃げ出したくなる、日常の雑事がなければ、ストップアンドゴーの真似をしないで済むのに、とはいえ理想には運ばない、苦役があってこそ生活は保たれ、その余暇は恩恵として飽くことがない。


もはやできないのでは、と思うことは無限だ、全体像を忘れて針刺す地点がつかめない、構想はくしゃみ一つで雲散霧消して、作る気持ちだけが義務として石になっている、とても転がせない、そう思って前で悩んでから、ちょっと足で小突くと回り出す、タイミングとはいえ、その喜びは格別なんだ。


渡った駅はたった五つ、みかん売りのおやじは真冬とおなじところで長崎産を売る、春の旅情はまだ早くとも、構内を基点とした休みの動きは、旅と同じ、制限の解けた交通の要所は人が戻り、ドラマが集合写真にも撮られる、そんな夜に、終わりを考える。


夜の発想は信用ならない、たしかにその通り、として朝に目覚める、感想の力を小説に注ごうと決めたが、期限はまだ二年先だ、感覚としての相違を人付き合いに鑑みて、とにかく面倒だと理由付ける、しごく短い一生だから、利害を抜いた感触の良さを、純に求めて変えていくだけ。


連休三日目は元気らしい、昨日一昨日の重さは何だったのだ、平日の搾取から回復していないのか、それとも文の重圧に慣れたからか、おそらく、飲酒と寝不足の取り戻しに二日費やされたのだ、吹雪の行軍などと比較できないが、軽いとこうも楽だとは。


明日からの仕事を嫌だと思う、これ以上なく健康だろう、孤独は朝と夜に考えをころつくが、決定の発効まで二年はある、たっぷり悩み考えよう、そうこうするうちに方策は定まり、よりよき身として変わらない動きにあるだろう、身に付けて捨てる、満ち引きに脱皮する。


洋洋たる苦情で環境を変える、周囲から提供されるのを待たず、バイト先をずらすように付き合いを回す、一つの理由はなんとなく、それほど確実な言い訳もない、固定観念を押しつけることはなくても、肌が合わない中で我慢はしない、それならば立ち去る足を使う。


自作自演で結語する、こちらは望んでいない、あんたが勝手に来て、勝手にぼやいて去るだけだ、自分という単語に両義を重ねて同化する、虚実に関しない生活に依拠して推断する、含意なく飲み込む対応がある、要点はもはや麻酔している。


ゴミ箱の新聞紙にまぶされた体液に触れて、山の中の布団は誘因されたのだ、身体の持つ巨大な自意識を、赤い椿は地に花を散り敷いて、垣を境に子供はかくれんぼうする、推断するなら同じこと、仕掛けという対立行為は、一如だ。


じんわりする、片目をつぶって手をおろす、合わせない、けむりは黄色く氾濫して、砂ぼこりの乾きが、湿っぽい声はまず否定して、覆す話を、睫毛にニスのついた眠気は日中でもまだ寒く、人智の及ばない外観は、二言で蔑まされる。


朝の階段掃除にほっとする、暗かった室内に明かりが戻り、仕事は再開した、そこに肥満が走る、世紀末のデニムを上下して、アングラーな帽子をかぶり、すると町の女性も遅れて来る、タイムカードの頃合いとはいえ、所作はこんなところに表れる、すがすがしき朝だ。


神に感謝するというのは、文字以上に心に湧くことは少ない、特に自分の事となると、ところが障害を次次と除くように道を進ませ、得難い機会をつかむとなると、他に感じるところがない、春の光は地中海も同じか、北アフリカからのたよりが喜ばしい。


一時間でも間に合わない気の迷いは、三十分とかからずに到着する、だからこうして文章を書くことになる、日頃はその時間を欲しがって仕事にブレーキをかけているのに、今となっては外からの冷気に煙草の臭いも吹き込むソファで持て余す、とはいえ貪欲に動くこともない、ほどほどに手と頭を動かそう。


映画待ちに似ている、しかし来場者は装いが違っている、とある分野の芸能人に群がるような高年齢層のフアン達がいる、きっと歌舞伎役者もそう変わらない、ラジオで昔の病室が最近暴露されていた人を主とするように、様でもちゃんでも付ければいい、踊る人だけもてはやされるわけでもない。


ブルックナーのピアノソナタはあるだろうか、ないことはないだろう、仮にその演奏会だったなら、客足はゆったりしているはず、サックコートを着るような人達で、近頃はスカートの丈も短くなり、膝もおめみえる時勢だ、足首に合わせて座る科もロビーに待つ、色気の古典演奏会だろう。


黒いブレザーに白もチェックするスカートが、母娘揃って歩く、春の卒業だろうか、組んだ足は車両の向こうに並んでいる、サンダルからスニーカーまで肉付きもストッキングに盛り上がっている、行動パターンが変わってバネに跳ねるように、午後の休みは字を余らせる。


待ち時間にアイスでも食べるか、春の雨が足先から忍び寄っているのに、ふと頭によみがえる後悔の一声は、たくさんの八つ当たりの一つだ、それか勘として数分後を当てる、納得のおしかりか、だからこそ会議テーブルに座って一人暖房の風にあたる、たわいもない午前だ。


客席は込み合っているから入らない、クラブの外に出てばかりの駄弁に似た遊びか、今は長靴が雨より風を防いでいる、げっぷはおにぎりの米の味ばかり、たぶんあまり快い時間ではない、カーペットが傘の滴を吸い込んで、三日後も溜まって黴つかせるみたいだ、こんな時に香水が、いやに鼻につくもんだ。

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