第97話

管理職を避けて座臥する、僻みはあてどなく絶無に、春に始まって欷歔もなく、話せない事に他を惆悵する、対人において一歩でも粗放であれば、目の前も観相なく容貌も共にできたら、万感は一つへ、昨夜がまだ残る。


信頼における人から伝達がくれば、ひらいてしまう、のっとりによるメッセージを教えられれば、不安がついてしまう、しまったと、効果はどのように悪影響を与えるのだろうか、そんな心配こそ厄介だから、どうも眠たい今日の曇り空は、考えることをやめる。


灯りの透過する便所のガラスさえ、通じない、うるさい分だけ増えていく、もうやめよう、せめて金曜の夜くらいは、神経質な性情は疑いようがない、権力が圧してくるペースは、やけに気持ち悪い、それを喜んで話す異性がいるのだから、湖面の世界は月のように反射しない。


技術や発想は肝心ではない、一にも二にも体力が関与する、気力の底が浅い者にとっては、雑な環境よりも、肉体の疲弊が頭をぼやけさせる、画面を前にすれば世界は浮いてくる、ところが働かせる力動がなければ、いつまでも目の前に停止してしまう。


二日間に伸びて権威を考える、やっかみやねたみかもしれない、単なる強がりかもしれない、とはいえ胡散臭さが直感される、どうして急に知り合いになれるか、たしかに席を向かい合わせにしたことはある、ならなぜ、便器を隣にした時に、声はかからなかったのか。


つまるところ嫌だったのだ、駄弁をぶつぶつするのが、目的がそもそも異なるのだ、取材よりも観照がいる、食事もせずに作り手に訊けるか、同様、作品を観る前にどうして人へ飛びつく、その差がすべてだった、直感よりも先走れば、違うと言って離れたくなる。


陽気な創作に全身は抜け落ちる、作ることはどのような意味にあるか、ただ書くだけではない、表現として観る者に対価を与えなくてはならない、何事も気づき覚えるのが遅いとはいえ、着実な成長は映画に教えてもらう。


褒め言葉は信用ならない、むしろけなされたい、唾棄してもらいたい、偽って悪く言う人は少ないから、たいてい良い顔して追従する、言動など結婚披露宴だ、飾りは誰の目にもふれやすく、たなびきやすい、肩書きが通じないのは国をまたいで、どれほど身に伝わったか。


予定がない、いわばそれは予定がある事、考える事を忘れたわけではないが、忙しく見失っていくと、当たり前に頭から抜けてしまう、昔のバインダーを開き、当初はいかに構想を紙に写していたか知る、最近は頭の中で処理してばかり、アナログ派らしい面を誇示しているなら、もう少し本当になってみようか。


ベクトルを変更する、表から下がっていくのではなく、裏から上げていく、そうすることでメモ取りの一手間を近づけさせる、練りが足りないわけではないが、書くことで呼び込む流れは、毎日の文章が知らせている、単なる描写の満足で終わらせない、良い物を作る、その意識を最近やっと手に入れた。


血の気の引いた指に書く、炎にうねるシルエットを、投影されたアレゴリーは潮を焦がす、ほとばしる生の鼓動に手足はくねる、熱さは単純に奔騰させる、春の遠ざかった今朝に、噴出する芽の兆しを内に見る。


これから季節は開いていくのに、関係は閉じていく、冬の寒さに人恋しくなることはなく、秋よりも憂悶に絞められる、反抗するのは誰だ、めまいが後刻にあくびすれば、感覚は凍結している、月の半ばからさらに一人となるか、扱いづらさはより深まり、好ましい形となる。


古い者に古物が付く、なじみの方方が館にいる、パンを食べたばかりでサーモンサンドにかみつく、クリームチーズと重なっている、おそらく明日も同じ面子を見るだろう、休みの埋め合わせに来るとして、映画好きだからやってくる。


あてつけを喜んで行っている、無言の戦いだから、無関心が敵意を生むらしい、争いたいわけではないのに、一人のボスを主軸にとりまきが同じ呼吸を合わせてくる、陰口を声にしないから性格は悪くないとしても、嫌な奴に違いない。


曲面ガラスのビルの天辺を、カラスが旋回する夕方だ、腕を回して息巻く獣がいた、突如に襲われる光景が浮かぶ、殴りたいのだ、その気持ちはわかる、敵でいることはこの上なく快い、応対にして自死のない自由がある、とはいえおそらくそれは、悪だろう。


教訓にして得ることは、面と向かって注意すること、それを怠って陰口で周囲を操作すれば、当方はより図に乗るに違いない、直接がなければすべて許可として、何事も見過ごさなければならない、その代わりにこちらも黙ることになるとはいえ、利は明快だ。


湾曲したガラス窓を飾っているのは、幾重の花弁みたいな垂れ幕だ、入る前から劇の始まりのようで、白いタフタに奥はレースがプリーツを作っている、差し出す足は黒く、今日もその色で周囲に毒を吐かず、奇妙な男で一日が終わっている。


楕円の天井はプラネタリウムのよう、白い壁面は漆喰のあとはなく、そもそも何で染められているのだろうか、磁器に黄色もかすかに含まれるように、純白にならない色がわずかに暖かさを植える、静かな空調を聞きながら時間を見計らう。


月曜のようにはいかない、自転車の一漕ぎでも太股はきしむ、一ヶ月前とは変わった、太い足でもブーツと同化して大地を踏む、一週間前と異なった、バス待ちのホールはスーツケースが歩き、春休みの若者が春を待ちきれず旅行している。


頑張る分だけ苦悩すると確認して話し、まだ足りないと自覚する、だからといって夕方にそわそわすることもない、一行でも書けなかったことを悔やむか、そんな習慣が張り付いて、わざわざ悩むほどの構えを損なわせたのか、とはいえ、日日の行いとして、空き時間を埋める作業は忘れずにこなす。

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