第96話

霜のおりるような大きな馬鹿笑い、二月の末に大地の底から凍っている、休日を締めくくる消えた作業の三時間は、体力のあるうちに取り戻しをはかる、とはいえ二日目になると、忘れという満足に浸かってしまい、悔しさは消えていく、今朝の白い寒さに冷めたように。


つぶやきなんて、消えた時間の文量を取り返さないと、そう思いつつ習慣に従う、同時に意識内の騒音を振り回して、暗黙の取引が自習を手に入れる、ああだこうだの指摘をすれば、真面目な仕事に向かわされる、無関心の狭さでいい、つい外れそうになる。


なんとしても取り戻したい休日の消失を、酒に酔って寝坊して焦る、今日を逃せば取り返しがつかない、二度と消してたまるかと悔しさは熱をあげ、眠気の時も振り絞って頭から押し出す、質は云云せず、まずは穴埋めによって後悔をかき消す。


飲み食いの利は、芸術鑑賞の情感よりも人との出会いが生みだす実が大きい、それは当然世間の運動かもしれないが、個人的な体験に宇宙を広げるよりも、物理的連環によって輪が回る、商売なら有効でも創作となれば力になるか、そんな文句の前に味わえればいいのに。


くしゃみ二回で春に両手をあげる、朝は寒いが昼は暖かいと、予報は明日明日へ後退していたが、ついにカイロもおさらばする陽気に小鳥も喋くる、ついでに腹もゆるむ、ほどほどの仕事の中で耳も冴え、ラジオも頭も朗らかに目を開かせる。


関心が苛立ちを生むのなら、離れること、きっと馬鹿馬鹿しいから、その範囲を広げていたら、孤立していたと寓話ができあがる、つぶやきは季節よりも多く巡り、わずかな天気の違いのように言葉を変える、内から出されるものは同じだろう、葉先がぎざぎざされるだけ。


逃れようとする音声は、無力に目を瞑る他にない対岸の火事ではない、出会いに分かれた化身の記憶は、生きた人の現在が想像される、創作から抜け出た実態として、始まってしまったら早く終結して欲しい、戻らないネジが無理に打ち込まれたとしても。


ため息を何にかこつけるか、病気か、争いに関してパフォーマンスする大きなカードは、読めない文字を笑って掲げる、声を出す意味は認められるものの、どれほどの効果があるのか、国を止める手だてが他にないとしても、あまりに無力ではないか。


気温が五度あがる意味を四十年間生きていて、いまだ解せていない、風は装いを変えて大気を明るくし、肉体は動的な欲を他に求める、球根を植え替えして水をやる間に、植物を育てる意図にたたずむ、あくせく働くだけではない、別の趣味が自分の見方を変更してくれる。


昨年は赤い花を失敗した、今年はその分の華を見ようと準備する、やや時期尚早かもしれないが、一年間を温めてきたアイデアを促進剤の購入にあてて、ついでに水耕の物にも垂らそうと思う、無駄と思える行動は、趣味を削いだはてに生き残っている。


興趣を満足させるだけの創作か、その面は拭いきれない、とはいえよりよい作品を生み出す考えはさすがに入り込んできた、むやみな多産よりも、一個の傑物を欲する、毎日の文章が誰の目にも触れられなくて、無意味に思う時もあるが、ただのスケッチという筋トレは、必ず集結するだろう。


思考された計算式よりも、勘が頼りの構造物を突き詰める、過去の旅行もそうだ、無計画が転がって一個の作品を形成した、結局文章は理性よりも感覚が言葉をつなぎあわせる、おぼろげな狙いを抱えつつ、一種の放棄で場面を置くしかない。


秋とは違った初春の沈み、空気も風も朗らかに目をかゆくさせる、体は重く動いていると、つとにふほう、まるで予期していたかのようにとりこまれ、昨夜のSNSが顔をよぎらせる、暖かいのに、職場で会う距離感が、なぜかしら嘆く人人を結びつける。


朝から喋り散らして、黙ればいいものを、くるくる回して、そのまま転げ落ちればいいのに、毒づきが毒を引き出す、センシティブな心境に口八丁は今日もまた、体臭よりも耳につく、鼻もうるさい存在感は、目をつぶる行為を覚えさせてくれる。


週の事変が総合される、雨模様の裏の午前行事が思われる、一瞬の者は寒さと暗さで記憶され、酒も肴も冷えて口に黙られる、革は濡れてより表は光り、汗のない顔から涙は凍らんばかりにこぼれ落つる。


あらゆるジャンルに疑えない実があった、音楽だけでもロックジャズファンクヒップホップと、ミステリーサスペンスコメディドラマとも、今はなきレンタル屋に陳列されていた、等級ではなく、好みで振り分けられた、その中の一分として短編小説を読む、身の丈のおこがましさが、また縮み上がる。


日の中に狭隘を走らせ、工事の音を聴く、歯医者の騒音であっても人体のリズムがあり、背景となる水気ある神経質の鋭さに、日付をこするうなり声が重なる、その間にヴィオラの削れもあるらしく、空気音が主となる三重奏は、キエフでの工具に笑った日本メーカーを思い出す。


この工事音で鼓膜がだめになってしまえばいい、暇はあぶくが浮き上がる、集中して黙る時はまだしも、抜け道があれば小細工は弄され出す、目は閉じてもつぶれない情報は、エレキギターのようなうなりに感情は寄せられていく。


近所付き合いだけで尽きる、そうはならない視線へ変わった、見回せば村社会として、外への発展に延びないコミュニティーにとどまる、それも良しとして閉鎖されてもよい、しかしより大きく在りたいなら、しがらみを切って出歩く他はない、身内の褒めよりも、その先へ旅行する。


夜の予定を踏まえて、チョコチョコと早弁のように書けば、みなかしがすき、食はたちどころにつかまえて、注目をかんちがいさせる、論理的な筋を立てて硬質は、中身をたやすくつかませる、長長はそろそろか、極端へ向かうらしい。

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