第95話

降水確率十パーセントのにわか雨に、図書館は雨宿りする、制限された当館は返却のみ受け付け、あらゆる座席はパイプイスでバリケードされている、照明の点かない座席に彫像は腰に手を当てて、暗い窓外を見つめている。


老人達の集いは封じ込められ、ウィルスは一体どこへ行ってしまうのやら、分厚い壁画は閃光を広げ、マチエールと呼ぶにはあまりに断層した面が、刻まれている、きっと砂漠の場面だろう、こうも人気なく静かだと、人との出会いが貴重に物語を生む。


同劇場で位置を互える、はてにどうなる、ラジオで憧れが馬に語られる、窺いは何か、多感の商売世知を巧妙とする、一体どれが魅力だろうか、近づく足は探検隊か、来たり離れたり、いつだってこちらは同じ所だ。


目を開ければふすまはグラデーションしている、白に青さと膨らみと、春の先にカレンダーを見れば、まだこの月の折り返しにも来ていない、山の方では蝶蝶が飛来したり、公共電波に花粉症状を訴えたり、休まない今日はどことなく目がかゆい。


休みの雨は朝から降り続いている、寒いと予報されたわりに体にこたえないのは、おそらく水気がやさしいから、雪には届かない潤いは乾いた季節のよりどころとなり、春と秋に何度も履いた長靴が、カイロを忍ばせて装いを一時変えてくれる。


堆積物の分解なる話運びは、時に解体に手こずるマットレスの連続にもなる、一人よがりはきっと直らないけれど、もうすこし読む側の視点も忍ばせよう、キャッチー安売り迎合文章などと、力のない事を誤魔化さず、誠意を持って取り組もう。


ふらふらと体を動かす、結局肉体疲労が浮遊する、覇気がない、耳につく、体内脂肪の小話を、痩せているのは早死にか、筋肉を落として老人へ、ダイエットなど関与しない、インナーマッスルに関節を繋げる、とにかくぎしぎし。


成長をいざ体感すると、限界はたしかにないのかもしれないと、おかしく見限ってしまう、もちろん打ち止めがあるのは身長で知っていても、目に見るよりも可能域が実感できると、初めて人生に展望を信頼できる気がする、とはいえ萎むのも早いから、気は当然抜けない。


数年前の日常が眠りをどかす、平凡は生むに適しているか、しかし揺れる材料となるか、若気を取り戻す展望は活力がたぎるものの、地盤を砕く破壊として面倒をもたらす、あるかわからない数年後が、今の現状を瓦解させる。


苦笑から爆笑へ、引っ張られる一発芸に頬がふるえる、やたら元気だと誰かにつっかかってうるさい、夢想も現実に置きたがって積み上げた人生を崩そうとする、夜のたった一杯の酔いにおいて、とはいえ、を布石して目を戻す、ただの妄想とはまた違う。


気分だけの浮沈は短編に上下する、狙える作風の果ては老人ホームらしい、それだけで不幸とは決められないとしても、三度目の離婚はじっとしていられない性情を考えてしまう、気味の悪い子供の造形は暴力を引き起こす、趣味の悪さが限られる納得の末路でもある。


詩は心の叫びとビート詩人の解説に始めされていた、平和であろうと過酷であろうと、人間個人の内面は顔面を剥き出しにできるそうだ、そうだろうな、なんて思うのんきな日常は、今日も昼のラジオに笑っている。


咄嗟の判断に見失わなければ、あとすこし潤滑にあたれるだろうに、一つのずれだけで大いなる摩擦を生じ、熱が高まって憤りが声になる、金曜日の鬱積は蚊に刺されただけで破裂しそうになる、隙間をどう過ごすか。


冬のむなしさとは異なる、この漢字ばかり、底の抜けた気分は空いてだらける、笑顔なしは倍速で老けさせるよう、それでも足らない鉄面は、探せない乾きにやや似通う、そんなわけがない、寒さも慣れれば沈まない、ただ類推に浮き漂う。


夜の値引き弁当は二百円分だけ冷えている、午後はわずかに暖かくなると予報されても、実感は昨日の四度を下回る、カロリーが身内を火照らせるとはいえ、消化前に温度は下げられる、それでも価格に比べておかずは、浮き立たせる美味しさだ。


フードホールが夕飯場所になりつつある、パンとコーヒーが安ければ、弁当も手を叩く価格に、魚の総菜だって開かれている、エレベーターで下ればデパ地下とはいえ、バスを待つ為の宙二階は、ダントツのお気に入りとして今週を通っている。


四時きっかりに今日の用事を終える、カレー丼を食べ終えて、二六時中音楽に頭を埋め尽くされる芸術家がいた、そうはなれない人物がいる、好きだからいつもそうしているかもしれないが、狙う本分はほんのわずかだ、しかし抗う事も忘れていない、そこにしかない成果はある。


あとは自由にしていい、今日は何度足を組み替えたか、解き放たれた余力でぶつかればいいものを、背もたれに力を任せて腰はびくともしない、平日よりも落胆する休日の夕方は、うすら寒くてやりきれない。


県内随一の繁華通りの曲がり角で、小雪に煽られるように太極拳らしく踊る男がいる、運動は何か思想を持ってアジテートするのか、横叩きの風の中で見向きされずに太陽に照らされる、そこに一人の下級生を思い出す、イヤホンでパーティーしていたただ一人の役所の前を。


どんな理由や感情にせよ、逃避行に終わった昔の以前を大切に抱えている、ふと呼び出された情景は素直に楽しかったから、あの時だけに許されたイリーガルな仕事と遊びの複合が眩しく喚起される、結果を抜きにして、そのシーンで結び合った一時は、今はなき友情を心底に思う。

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