第94話

三日前の休日を得たばかりだから、今日の日曜日はいささか恩恵に欠ける、無為に過ごしてもかまわない、仕事疲れよりも飲み会の負担を回復させられれば、しかし欲深さは安定しており、計画と不満足がにらめっこする夕刻だ。


ホルンが森の音ならば、トランペットは都会の倦怠だろうか、もはや目はあかない、微熱という中に隠れるごとく、眼球のシルエットにイトミミズが仕事しているよう、ピンクのように赤く、ざわめいて、譫妄は今日も頭に湧いて、水草のようにゆらぎはしない。


進められなかった分だけ愚痴を書く、川渡りの車両において、ほぼ一日ショッピングモールで過ごした瞳には、小山の夕暮れと高層マンションの怪異が世界を伝えて見える、戦えと、一体誰とだ、言うも恥ずかしい相手は、いつもくさい自身でしかあるまい。


パグのような顔で抱えられていく、フードコートの通りを、ピラミッドの印象が待合いの列に視野を入れる、メニューをのぞき込む苦役人のように、金管楽器が神経をくしけずる、逆しまな生え際に向かって、今日がもう終わる、冬が暗い、用事の奪う時間が多い、もう眠る時刻だ。


不満が煙雲として立ち昇り、雷鳴を痺れさせて相手に突撃出来たら、この世に存在できないだろうか、それはない、内に陰刻する自己主張は、価値観の模像を投げられずに彫り込む、わずかな提起もはばかられる環境は、本当に水に合わない。


不満と憤懣で毎日愚痴を呟いて、どこに詩情があるのか、叙情が旅情か酌量に、壮大な想像の果てを飛翔することはない、見上げて指さし文句を唱える、聞くも嫌なつまらん自意識の汚物を、その繰り返し、それを肥料と光に水を与えれば、芽が出るはずもない。


不幸といえるか、席巻がやってきた、状況を吟味する、固執か曝しか、生き延びるとは、ルールは誰に適合するか、閉じこめる為の仕組みは、散らばったあとにどのような効果を放つか、耐える他ない、ただその向きをどちらに、考えに考える。


ピーマンの肉詰めはきめ細かい、まるで魚肉ソーセージの密度だ、料理に目が向いていたのは数年前か、にわかに家の植物をゴミに放り込む映像が流れる、具体的な動画が二十代の喫煙習慣を手繰り寄せる、やめるか、今度は行えそうだ。


コーヒー豆を決めて数える作曲家がいた、几帳面よりも当時の高価を量ってのことだろう、節分の豆も似たものか、蝋燭のように火は着かないが、滋味たっぷりの恵みは肉にも野菜にもなる、ギャラリーに行くよう弁当を食べた、爪楊枝一つ一つ吟味するごとく、あらためて料理という表現にイメージが流れた。


とあるゴミ処理場を見て、これ大丈夫、と思う人、とある古典を読んで、やべぇぇこと言っていたから、と驚く人、めまいがする、調律の狂ったオルガノンだろ、すげぇぇ言葉の使い方だ、などと思うのが間違っているか、いや、正誤ではない、ただ、慣用句は儀礼の形式を持ち得る信用があるだけ。


寒さに引きこもった生活に、以前の自分を省みる頭の働きのせいか、行動に昔からの影響が波及している、それが思わぬ実態を現出している、頽唐に近い青春の凋みは、殷賑な生の回顧を伸ばす、重ね合わせる日記の心境に、唯一残った計画の一人が見つめている。


カーテンから差し込む光が江戸川の生活を幻想させる、六畳二間の並んだ四枚の窓ガラスは、いつも光に満ちて内面を思っていた、一向に進まない文字に背を当てて、他人の作品ばかり覗き込んでいた、今も同じ、多少は侵食して物語は描けても、栄養を失って頭は逃れる、朗読したり、スケッチしたり。


早く冬が去って欲しいと耳に聞けば、もういまさら二月をせきたてる気分にならない、朝と晩に身を縮こめても、対処は懐炉に託されて、体を守る術が毎日をどうにかしている、昼の長さは気分を開かせる、光だけでもずいぶんと晴れやかにいる。


頭が働いて動きを確かめる、身近の成長をうれしく思い、ねたみを離れた人に覚えもする、常に気をつけないといけない驕りに目を据え、それがまかり通った職場をあきらめる、くだらない相手に気は向かないが、なぜそうでない方に傾くか、自他の関心に目が置かれる。


シャッターのこもれびが音ばかり目にとめる、過去の仕事と以前の旅行の重複は、結局私的内容しか押し出せない性分に結論づける、取材時間のない言い訳は、本当であって嘘でもある、分野に悲観せず、その領域で放とうと決まる。


知ったかぶった生意気は、装いだけで中身はない、知識は雑誌からもらい、好みは友人の評価に寄りすがる、いったいどのように自分を保ってきたか、芯のない青春は揺り動かされてばかりだった、過去の趣味が今によみがえり、ようやく表現の意味を飲み込んでいる。


朝の寒さにうながされる頃に、かじかんだ指は忍び寄る足下の冷気に構えて、白い吐息と変哲のない単語で描写する、ヒールの高いドレープが柔らかな闊歩に通り、掃除のモップが順順に下ばきしていく、輝きはすでに春となり、凍えながら食べた大陸の包子が湯気を立てる。


他人の口からケチばかりつけていると、自身に気づけない、声にして発音するか、頭に閉じこめておくか、その差は有無とはいえ、この世の最上とも思える知性のうずきは、唖然とする内容をこきおろしている、とはいえ黙ること、その一歩がだいぶ位置を変える。


肉味噌を畜生の狭間に、ヒステリックな笑いがストレスに噴出する、対人の闘いは無言と溜息と、物を放る馬力で食らわす、こめかみから握り拳が怒張する、緊迫感に体は強ばるが、フレッシュな感情として喜びはつき上がる。


競合することなく耳を向ける、言葉に固まった郷愁は、なんと汚らしい音のぶつかり合いに澄まされるか、顔も気分も冷え切っている、喋る意味合いについてマナーはくさくさする、鼻歌が何のシグナルになっているのか、決まりに縛られて真面目に生きる他ない。

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