第93話

雨はファゴットのタンギングに運行していく、グレーのデンマーク軍のコートにイミテーションの長靴を履き、濡れそぼった者者の丸い背を路面電車に観る、音楽はコーカサスにも流れた、ハンガリーの曲は草原と山脈を連結させる、冬の社会主義のように。


ウィルスよりも雪間近の雨が街から心を掃き捨てるか、今日は自宅がきっといい、過酷な環境に我が身を置くのはいかがか、苦行僧をわざわざする人も少なかろう、手足はかじかんで水滴はより動作を奪う、だからこそ心が冴え広がる。


かじかんだ手に電球色が当たる、末梢は凍え死んだようで、大袈裟な芝居が一人張り付く、こんな日に移動するなんて、そんな旅行の感慨が一途によぎる心地は、音楽が何より走らせている、東欧はいいところだ、また行きたいなどと思わぬくらい、寒暖差が室内をぼやかす。


軍のコートを着て偉容まで着飾ったか、目は細り心は大胆よりも傲慢に足をあげて組み込む、まるで人を蹴散らさんと、その内側にどのような感傷があるかは別として、ひとまず表面だけで判断しよう、きっとこいつは悪い奴、当てはまることだろう。


青い才能に打ちひしがれる、壁と言うべきか、これは自分には無理だ、そんな理由で終えることはできる、歳による幻惑だろうか、失われた感性の違いでもある、その時時の人間で作る他にない、慰めは経験で口にされても、事実はなんら変わらない。


シリアスな物語を経て、ナイーブに自身を鑑みたあとに、ラジオはくだらない話をしている、公共電波にのせられないエロワード、すばらしい昼下がりだ、しかつめらしい形相は瓦解する、たとえわずかであっても、ユーモアとコメディはこんな時こそ真面目にうれしい。


シェアが妥当だ、なんて思わないとしても、慣れが動揺を沈めているのに、不安はひたひた足下を濡らしている、傲慢に暴慢をいかに経てきたか、心の内だけに、成り上がりもないくせに鼻だけは直立して、地面を見誤る、謙虚な姿勢をいつまでも、足りないよりも不足と思って。


しなやかさ、日日に欲する油のやわらかさだ、つややかさ、あまり理解していない単語の響きにもともとなかった水気を思う、男に鮮麗な時代など貼れるか、白い肌の赤みの血管人物だけだろう、青いのは血流だけでない、陰湿な心も黴色に染まっている。


腹が精緻に運動している、昨日のハラペーニョに反応して、二週間は続いたであろう岩石は、雨に流れて吐き出された、汚い話だ、そんな隣で見せつけのように動くものあり、ため息はこんな時に出る、不自然のような自然だ。


コメディはそんなに好きではないのに、意味の少ない発言だ、今日の夜を楽しみに待っている、単純なエンターテイメント欲として、企画はヨーロッパだ、烏丸なイメージも間違って追ってくる、日曜の朝にも人形が出ていた、喜劇だろうと悲劇だろうと、質がまず現れる。


仮想空間にモブの単語を知ったから、動画の最中にフラッシュする市井の効果を理解する、主人公とあと他他か、作品は書き進める内容とリンクして、固定された性質に及ぶ、逸脱こそ主役か、視点は誰に沿って映される。


モブではないモスか、暗い蝶蝶ではない、足先から冷えてくる、テレビラジオのショッピングで紹介されていた、一人用のデスクコタツを、それらが各席にカモフラージュのように配備されたら、骨と皮で人生を過ごす者を寄せ付けるだろうに、しかし少数派か、何にしろ足が寒い。


誰かが来たらどうしよう、客入りの悪いホールを、分散させるボランティアの意気といえば、証拠のいらない嘘になる、とはいえ同じ支払いなら、自由に選んでもかまわないはず、こんなに空いているのだから、一度の不正が肝を肥やす、また次回もその行為と、座席の質を重視する。


練るのは構想ではなく、授業のコマ割りに計画されている、抜けたところに何を埋めるか、延長によるドミノ倒しに、シフト管理好みがパズルしていく、結果的に破綻した学業もあったが、今はどうにかこなしている、違いは無理がなく、義務と趣味の差によるか。


爆弾の杞憂とカイロの情勢は、数年前の進路を阻んだ、心配する者の手によって、彷彿させた旅程は約二年前の開始から日数を分母に数えられる、百度に近い疑いによって、肺の痛みや咳の回数など、味覚の透明は聞かなくなったとしても、痰や鼻水が破裂して脅かす。


結末がどれであったか、不通に考える、もしかしたら気にくわなかったのかも、一時の分断に省みる、わからない、気づけない振る舞いで気を悪くさせたことはないはずがない、とはいえ完璧はないのだから、迷惑にならないと踏まえて道を歩き、消えたのなら、それまでだったと位置づける他ない。


まともに頭は働いていると思われる今朝は、マスクや膝掛けなど、持っていく物を忘れている気になる、ところがそれを見越した自分は準備を終えていた、酔いの回った睡眠に腹痛ばかり夢にして、酒は残っていないと動いているが、どうも違っているらしい。


真ん中分けばかり見る、うなじから刈り上げて、セットしやすい分断は虫のようだ、髪を羽根にどこへ飛んで行くのか、開かれることはないとしても、調子の良さを保った朝の景色に、ぶつくさ目がしばたたいて、腹のカイロに温められる。


休日に敗北した気分で帰る、もう一歩と考えた足先は進まず、地団駄してカレーを食べて終える、けれどおいしかった、毅然とかっこんで体勢を整えるつもりが、帰路の体力を補給するのみ、これは酒のせい、それしか逃げ道はない。


市中心部と違い、郊外のショッピングモールは一段と親切な気がする、格好は目抜き通りと似ていて、フランチャイズカフェに集う人の系統は似るようでも、浮き足がどことなく純朴に感じる、たぶん気のせいではない、感受が鈍った今日だからこそ、本物に思える。

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