第68話

休憩する他ない時間に、無理強いをする、時はまだ夕方で、ずいぶんと長い一日を送ってきたようだ、休日に回るところはほぼ入り揃い、すでに夜を迎えて家に落ち着いて居てもよいはず、そんな気分で広場のベンチに座り、携帯電話の勧誘の軽口を近くに聞く。


丸眼鏡、藻屑の髪の毛、むっちゃ、ガチで、利口な口利きとそれらを目耳にして、どんな反応を覚えるか、暇な時間に、こんな時に全世界は貝紐で繋がっているようで、いとも簡単に断裂される、あれをしたいが気が向かない、だから他人のナンパな文句を聞いている。


この爽快な晴れ間にどうして下を向くのか、暑いとはいえまだまだ熱にはかわいさがある、それにしめっぽさもない、ところが人工の風は心が迷ったように冷気を吐き、常習の温度は外気を触らずに設定される、慣例の習いがここにある、常に今は疑われる。


目は鋭く、痒く、周囲に裏返る、焦り、苛立ち、我慢が利かない、代わりの笑いはすこぶる軽薄で、他人の不幸を餌にしているよう、晴天、仕事始めの鮮度、眩い笑顔で親しむつもりが、狙い撃つような攻撃性だけがいやにむき出している。


夜に斑点と血に惆悵する、自覚するより先に現れる症状の怖さは、わかった振りして今になってわかる、改善はどのように、適切な処置はいかに、診てもらう事を拒んだら、助けは自身で見つけなければならない、可哀想にと同時に、より多く睡眠を得られたらと願う。


嬌声にランドセルは結びつかない、タイルの階段を灰の靴下がのぼり、うしろ姿は焼けつく日に当たる、汗が上着に染み出て、温度差でめまいを起こす小魚の酩酊だ、麦わら帽子がとにかく合う日は、寒い地下で売られていた何着ものアロハシャツの滞りにかたまる。


くしゃみを連続して考える、ぎっくりするほどではないが首は打撃された、目覚ます記憶のない寝坊だ、朝の光景はどうもにぎにぎしく、取り残されたように時間があく、これくらいでいいのだろう、くつろぎとは異なるダレのようだから、柔らかい出勤となっている。


引き寄せ合ったものだろうか、事物の関係を哲学書から引き合いにすれば、美学の漢字通り英語のファッションよりも、仏語のモードが関連し合う、近代の発展と共に歩んだ形態の変遷は、そのまま意識が形になっている、服飾の生まれは性別を異にして、変容は少なく見える方に多いらしい。


容赦できなければ、どんな相手だって噛みついてくる、常日頃に見ている姿を自分に置き換えられると、怒りが浮く、完璧は存在しないがそう願われると、馬鹿さ加減に頭がくるう、そんな感情に燃える時こそ非は我にあり、反省の前に言い訳ばかり連射されてしまう。


弱気な時は、緑の落ち葉でさえ恐るべし、返答なしが多くの答えとなって襲ってくる、依存する条件は去ってしまえば成り立たないと、できあがった仕組みの崩壊を築きあげる、けれど朝に連絡が来れば、杞憂とわかっていたその言葉がようやく意味を持たせてくれる。


オフカラーで動きはスローになりそうだ、鼻をかいた衝動で首に一撃が加わり、朝から固定された視界の中で、魍魎が社内の噂に進取なモードをとりいれる、選ぶ職種をおそらく間違えたのだろう、色調の明るい目線は臭いがどうも好きらしい。


ご明察なんて言われるシーンがあったか、生活に、単語にふられて脳の酔うことがある、首の痛みにつられて光輝なる暑さにマスクが蒸れて、陽気なメランコリックにとげとげしくなる、目の前を石に見て見ず、見ないという見るの行為が下を向いて去っていく。


機嫌の取り方が話される、考えた事がない、自他でも、頭で行為をした事がない、むしろその概念を持った事がない、温泉に入ったり海を見たり、アップテンポの音楽を聴いたり、わかるようでわからない事だ、すこし小鳥が囀ったり、好きな交響曲に心が奪われたり、盗るのではなく、慰められるだけだ。


先週までのキーボードの連打は途絶えてしまった、一区切りの場面にその後の未熟が出てしまい、シーンは想像されずに破片が散らばるまま、それらを手繰り寄せて組み立てるとは知りながら、動けずにいるのは、何がせいだろうか、おそらく材料が足りていない、なにより集める努力がない。


夢うつつに今日を訊かれ、のんびり過ごすと答えていながら、朝にそうできない、さらに眠ろうとするものの、昨夜が早かったせいで体は醒めてしまう、何もしないは難しい、読書だけにとどめて声を大きくすると、想念がふらつき、衝迫にかられて汗はにじみ出てくる。


しがなさを自認しながら、よそよそしさだけに包まれているとしたら、気でも狂ったかのようだ、右手をあげたと指摘され、左手をあげていると憤慨する、近い事だろうか、ところがそれこそ正しい姿と考え方で、たばこが臭いように、内と外が違っているからこそ成り立っている。


情報一つでは興味はそこそこにとどまる、けれど続いてもう一つ飛び込んでくると、今のタイミングに欠かせない前兆として見えてしまう、仮想の店でしかほとんど買わない時分に、手にとって入れる珍しさは、勘の実質をのちのちに知らせるだろう。


暮らしの中にいくらも友情や博愛は気にならないが、有名な映画から記憶をほじくられ、音楽と共に先生が笑顔で歌い踊れば、感動は光彩の渦に躍って体を包む、次に来るのは恥ずかしさ、それも徳やモラルを前に下向くような、そんな寸暇の思い巡りだ。


マンションに挟まれた入道雲を目にして、ふと立って紙片をさぐると、ポケットには見あたらない、やましい内容はないもののすこしばかり恥じらう中身ならば、身の回りを歩いてさがすも、見つからない、まあいいやと戻ってみると、雲はさらに爆発している。


日陰の内にいて、どうしてこうも明るいのだろう、振り返る屋内は満面に浴びていて、ダンボールさえも神神しい風貌を持つ、赤茶のレンガであっても反照は弱まらず、白でなくてもタイルの光沢が強く照らす、夏の二桁をようやく越えた、暑い温度の昼下がりだ。

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