第56話

カブのポタージュの飲み始めに電話がかかってくる、タイミングは良くないが、悪いわけではない、エンジンの始動した直後ではなく、ある程度走ってからのサービスエリアで、次に進む為の補給にはちょうどいい、小雪が吹雪く今日は、劇的な情緒で心が震える。


木の葉は散って雪が舞う、積もることなく地表を乾かして消える寒波にも、公園の子供達は季節知らずに野球をしている、ボールは仲間内に転がる、足で蹴ろうと、ラケットを振ろうと、ルールの異なるベースボールであろうと、熱気は半袖短パンに空気を装う。


いつまでも咲き続ける花はないけれど、冷え込むはるか前から開くこの極楽鳥花は、止まることなくまだ新たな花弁を立てている。暑さにも寒さにも強く、かつ弱らないこのたくましさは、後退して枯れた過去も含めて、常に憧れ倣う姿として目に映っている。


口の閉じきらないのは、連日の笑いにあるから、肉体の疲れが抜けた今は、順調に従って健全にいる、だからつい口弁は走ってしまいがちで、黙りきれない体力の発動は他の人にはうるさい、ただ、気分と自分は喜ばしいのだ。


飲み屋で新年に会う、飲み人、ただちに注文した梅津の燗に、甘海老の醤油漬けが、轟く、新年の挨拶はほどほどに、何を口走っているかもわからない飲んだくれた会話になる、酒と酒か、今年はより人と結びついてくれるか。


初めて創作の醍醐味を知る年末年始は、理想とする像へ近づく天国のようで、酒を断ってこその本物を手繰り寄せた、基礎の積み重ねが弱さを打ち消し、平然のままで源泉を掘り当てた、もっとやる、今年はもっと鼻息荒く。


今までにない形かもしれない、いや、飛んだ手に捏ねあげられた土塊が騒いだこともあった、私生活からしか生み出せないか、そう思い込んだ範囲の狭さは、むしろ不得意だったと思うほど、自由に想像して物語を、それこそ創作の味だと、やっと気づけたようだ。


自分で自分に泣くなんて、ばかな話だ、けれど活かす道を数年ぶりに実感して、命について考えてしまう、きっとこれしかない、そんな生き方を選んでいながら、疑っていた、年末からの時間が確かな足取りを覚えさせた、この感慨はすぐに去ってしまうが、また追いかけて求めて行こう。


わざと下手なイラストを年賀状に入れる、ほんの一手間を知らせるように、機械に印刷されるだけでない拙い印を残す、疑いなく甘えだろう、素朴よりも策略がまずく差し込まれる、自分の評価が下がるだけの、たわいない挨拶でしかない。


ミスもおだても二時間で消化される、悔しく惜しい事だ、あれだけ感極まって腰を落ち着け、良作を鑑賞した直後のようにしんみりしていたが、今は叙情も感傷のかけらもない、これでよく、これしかないが、寂しさの一抹はある。


スピリチュアルな内容を単に胡散臭いなどとは思わない、一時のめりこむ時があったから、それより見るべきところは、近しい人が自分に勧めてくれた事実だ、同じ画家を好むつながりに、姉弟のような親しみがあるからだろう。


連休の去るのが惜しくてたまらない、昨年も似た気持ちだったか、日常と同じ時の尺を持つ一週間はどこよりも遠い旅行をさせたように、自分を変えた、隠れていた姿が顕れて、よりもっと力を注ぎたい、しかし明日から奪われる、けれど去ることはないと、固く閉じこめる。


燃料はいくらでもあると思いそうになる、昼の弁当二個分で、二回のカフェ滞在と同じ価格だから、はしごしそうになる、高い食を口にすることの多かった昨年だから、ランチめぐりをやめて、夜につぎ込むだろうか、別に決まりはない、好きに変更すればいい。


一人欠けた慌ただしさにかまけて、文は止まっていた、ニュースで早早伝えられていた大寒波は、おちついた昼前に到来した、雪が細かに空を覆い、一斉に駆け出す、のんびりするゆとりの時のリズムの変化だ。


雪に小走りする犬のように、急に電車に乗りたくなる、音楽に記憶をはめこむべく、数年前の雪歩きを思い浮かべる、新しい土地を探りに行くように雪山を窓から見に行こう、今日もだいぶ寒いが停車駅の風は気分を一新させるだろう。


梢を這う電球が寒さをより一段とさせる、電球色の店内はガラス張りのファサードに鉄筋コンクリートとタイルで肉付けされ、内に飾られる枯れ木同様寒寒しい、ポップアートもさらに血の気をひかせ、拙くてもあたたかみのあるデザインを欲してしまう。


今回は手応えを感じている、などと思えば毎度のことで、始まりからして多大な評価を下している、ところが世間は水面の底にあり、逆さの査定で無言が貫かれている、ならば今回も同じことだろうか、しかし結果は過ぎてみないとわからない、それでもやはり、手応えを感じている。


どこかで見たことのある男だ、珈琲を一杯、たしか同じ場所で目にしたのだ、口はみな気軽に開かれて交流する、それはたやすいことだろうか、歩く、進む、喋る、なんでもない行為が誰かにとって難しいこととなる、そんなことはいつ気づいたか、知っててできないことだ。


息を吹きかけてわざわざ曇らせる、そうでなくても寒さが笑えないほど視界をぼやかせる、ならば望み通り、などと常套句として考えまで同じに続く、こんな時はスネアとドラムにピアノがのり、やや軽快な叙情で若かりし頃の音楽熱がフィーバーする。


多産多消、有無をいわない実行を、口に唱えた自己仮定は嘘で塗り固められ、メッキも剥げないほどこびりつく、多寡を問わずに文字に宿らせて、会話は人を聞き、穴に向けて隠し事を述べ讃え続ける、自分をフィルターに世界を濾過し続けるのみだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る