第39話

持ち帰りして外のベンチで飲んだ回数は百に届くか、店内で飲むのはこれで二回目だ、以前と異なり値段は内外統一されたから、これからはテーブルを前に尻をおろしてもいいだろう、やはりこのコーヒーと人が好きだから、二つある店を気分に揺らして通っていこう。


休日の過ごし方はもはや平日の業務となっている、小説を朗読して、映画館へ行き、昼ご飯を食べてからコーヒー屋でその感想を書き、酒を飲んで午前の感想を、それからスパークリングかイタリアンか、ただ異なるのは、その中に創造が常に心を弾ませている。


みな自分の体調が好きだろうか、記録をつけてグラフにしたいわけでもないが、今日の午前はまだ頭痛が残っていても、午後の活動は実りがある、昨日よりも良い調子だ、などと、まるでアスリートだろうか、健康が尽きる時まで、おもしろくもない自身の体を気にするだろう。


気に入った店に入るのに遠慮はいらない、それが対人といかないのは、相手が売上を必要とする商売ではないからか、今日の窓は雨粒で点描されている、昨日と違う景色を前に、まるで心に涙がこぼれたようだと、まったく関係ない文がつく。


なぜ餃子には狼狽えるのか、これが将棋の駒だと難なく入れるのに、同じカウンター並びでもバルという名がつくと、怯えてしまう、フレンチイタリアン、トルコにヴェトナム、どんな料理店でも行けるが、皮に包まれた料理には怖じ気つく。


四連休の三日目、人と人の話が耳に入る、ここは初めてですか、広島の人ですか、ついはにかんで会話は止まってしまうが、別の人も、宮島ですか、おりづるタワーなんか、という話題もあり、移動し辛い世の中だが、やはり連休はちゃんとある。


酒を飲まない一日もいいものだ、連休となるとそんな余裕が持てるらしく、昼間に家にいて、どっぷり昼寝もできた、近所のクレープ屋で口を動かしつつ、今日のアニメ映画で観たような少女を間近にみて、なごむほどのどかな夕刻は静かにしている。


クツとズボンの隙間にかきくうきゃくだ、番人の猫は芝生に四匹寝転がっていて、あとあとカニクリームコロッケを狙いにくると思いきや、眠いらしい、首は無傷で、わずかなすその合間をつついてくる、一、二、三四、つながって数知れない、かか。


ただ作業場所と夕飯を求めてのバスターミナルではなく、約一時間の移動だ、都内に住んでいた頃は週末ごとにそんな移動をしていたが、住む所を選ぶといかに時間と金を失わずにすむか、バスを待つ呼吸にふと思う。


ホールが良いのか、目を閉じてのチューニングにいつもと違う映像が浮かぶ、小鳥が水滴として歌うわけではないが、一つ一つの波紋が瑞瑞しく澄んで広がっていく、この清冽な美しさに、体調自身にも信頼がおける。


細部に集中できる状態は珍しい、そうではなく、演奏会そのものがなかったのだ、とはいえ退勤後に来るのと異なり、四連休最終日の寝坊のあととなれば、体は頗る元気だからだろう、眠気を寄せ付けない午後の開放感だ。


窓外の景色は音楽と手をつないで意気をあげて走っていく、旅行への追憶と欲情は一斉に吹き上がり、明日にはおそらく再び閉じこもってしまうだろうが、いまさら映画を好む今の自分に、目をレンズとした視覚への偏執をつけるようだ、高速道路を走る、ただそれだけの効果は強い。


アーケードに置かれたベンチで作業する、単に腰を休ませる為のイスではなく、思考の足場となる浮きだ、証拠としてのコーヒーを置き、毎度のごとく違う土地で目を注がせると、ちょっとした隙に大雨となっている、こんな振り返りがたまらない。


新鮮はすべてを堪忍させるだろう、大衆食堂らしい中でバンダナとマスクをする女性達のおしゃべりは、ふと自分の職場を思い起こさせる、二重がやけにとまる最近、この目が人の良いお節介を生むと、昔の本屋の同僚の明るい声が通る。


やはり食べ過ぎはよくないと、あらためて思い知る本日の書き数だ、酒に任せてばかりいたが、飲まなくてもけっこう出ている、もしかしたら意図せぬ虚言でしかなく、ただ酔っていたいだけの口実だったか、自分で自分の調書をとるように、するつもりなくはいたようだ。


説教は妥当だろう、和を乱す者は正さなければならない、善し悪しを抜きにして、調整が働くのは必然だろう、反発は何もなく、ただ柔らかく抜け穴を見つけて埋めていくか、こういうぶつかりを厭うことはなく、すこしばかり反省するのみだ。


人の心なんてものが何かわからないにしても、映画で感情を目の前にされると、成長を本当の意味で知った気にされる、年を経て背が伸びるのと異なり、いつまでも変化は起きないと思うほど、ほだされやすくなった情感は、夜のひとこまに心配する。


増長が悪癖を広げていき、免疫はようやく塞ぎ始めた、数個の発動ではなく、全体に浸透させて代表を立てている、それは各人の会話の端端にあり、火事らしい話題を提供したのだと、哀れみと戸惑いを持って知らせてくれる。


内外から説かれた、抱えて慰めるのではなく、諭すべく叱ってくれるのだから、良い相手と巡り会わせた、恥じらう単語も口にするのは、互いにはばからない日常のおかげか、馬鹿は生まれ変わりを待たねばならないが、虫のように硬直でもない。


厚顔で陣地取りに挑む、線引きを伸ばしていくやり口は、領土問題で放送される領海侵入と同様、相手の出方しだいではそのまま活動を続ける、とはいえ警告が与えられたなら、いったんは退いて、次なる動きと機会を思案する。

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