第26話

雨あがりの大気が目に染み込む、ラジオの予報に従って室内のサンスベリアを出すも、晴れているが曇り空だ、乾燥を好むと知っているが、喉に優しい涼気も悪くないのではと、ぼんやりした陽を受けるとさか頭に、目を細める。


一日と二日では習慣はえらく異なる、もちろん続きの休みの方が気も体も癒えて、作業だって少なからず進んでいく、ところが週明けこそなによりも病んでおり、体はなめらかながら重く、笑みなど漏れない無愛想が滞っている、肉体を動かす、ただその差なのに。


酸素と水で燃焼させる、あと透き通る明るい陽射しを浴びて、光合成はできなくても意欲が育まれる、心配よりも行動を、身近な肉体で試すことなく、儘に動くから、いわば元気があるということなのだ。


もはや春の布団ではないのだろうか、額に汗を浮かばせるほど夜中に蒸れるものの、朝方には水気がどこにもない、冷や汗や赤っ恥のようなものか、体はわからない、そんな知ったような言葉がつぶやかれるのは、よくわかる。


愚痴なんかではなく、生き抜くことへの不安と意気込みなどがところどころでこぼれる毎日の中で、茶器に入れた酒の間隔を見誤り、倒してしまう、牛乳、水、ソース、なんでも良くないが、特に酒をこぼすのは、辛いものだ。


図書館から除籍された本が届く、フランスの古典戯曲だ、新訳なら文庫でいくつかあるが、全集となるとネットには少ない、古い本屋にいるのだろうか、追い出された書物が安くない値で再び旅する、悪くないことだ。


ひがめが目にしみる、媚び、諂い、優しさはどんな衣装にも化けられる、人を弱くしたければ、どこまでも助けてあげればいい、強くあることが必要だなんて誰も言っていない、そんなだから、鏡の中で向こうを見るようだ。


こんなに眠ってばかりいて、大丈夫なのだろうかと思う、多くの人々は余儀なく籠もらされて、いや、進んでそうする者もいようが、大した影響のない自分も、仮の発症を怖れて整えるも、生むものは少ない、はたして、こんなに眠ってばかりいて、本当にいいのだろうか。


ラジオで巣ごもりなんて単語が頻発すれば、自宅での餃子作りもそうらしい、辞書で調べればその意味はたしかにある、とはいえ忖度同様、使う気にならない、集団感染も外国語に換えられて、いずれカタナカで紙面に書かれたり、ならせめて英語以外をたのみたくなる。


いやらしい統計がある、ミスにおいて人の言うには、最近は多いから、そんな忠言を真に受けないのは、毎日の記録が確かだから、所詮こんなものだろう、熱意などまるであてにならない中で、微動だにせず、おそらく、良くも悪くもない、一時の突風のようなものだ。


冬場のロゼッタはこんもりしている、大地は力強い、雑草だって懸命に生きているんだ、そんな途方もないことを考えれば、深刻なことだろう、花は開く前の黄色い蕾で、来週にはあるだろう、関係性、ただそれだけで、見る目は変わる。


貧しさに極まる気分に落ち込んだ昨夜、ブレーカーが落ちたように自覚して、他人に対してあたりちらす、慰めや気遣いが欲しいなどと、たわ言で表される貧弱にのめり込んで、生きる意味について母に問う息子の話が思い出され、当てはめた、元に戻った今は、昨日の頬を張ってやりたい。


平時より二時間遅れて起床する、今年初めてか、珍しい、そう思って計算すると、二時間遅れて就寝している、春だから、というより、昨夜の食が腹に残って活動させたからだろう、損も得もない、ただの休日のずれだ。


私服でいる間は平日にわずか五分でも、髪の毛を整えて衣を着飾る、ところが休日とあっては、後ろに流すだけで、もっさり溶け込むスニーカーの浮く出で立ちだ、特定と不特定多数の差によるのか、用はベンチとスーパーだけ、風の強さが汚れを気にするも、マスクにまかせてひげを隠すことはしない。


川辺の木立に騒いでしまう、おそらく一年振りにもならないのだろうが、酒飲み場をハシゴするように川岸と公園を転転として、こだわりが薄れていく、移り変わりに合わせるように、その時時で何をしたいか、それはその瞬間に最もわかるのだと、羽虫と静けさの塊のなかで知らされる。


橋での邂逅が、人との触れ合いを禁じる時期に訪れる、似ているから、それはきっと関係ないだろう、男には届かない感度の早さで感づいて、目だけの挨拶を一瞬だけ交わす、人が良いのを知っていた、白ではないマスクに少し奪われて、晩春がほっと息をつく。


まさにクタクタになっている、先、先先週末を教訓にして土日を動いたが、筋肉は柔軟に衰える、咳や寒気は気にならないが、全身こむらがえりするのではと、以前の連休明けのギクシャクが、どうも予見されてしまう今日の働きだ。


同じ植物であっても、草花と樹木では相手が違う、花弁の尖った花を前に、水やりの頻度を考えるも、わからない、ランプアイとポリプテルスか、どちらも親しんだことがあると思いだし、今季は少し目を向けてみよう。


兎の耳でも掴んで持ち上げている気でいたら、引っこ抜く形になってしまった、がっちり土は固まっていると思ったら、まるで毛根の抜けた玉葱のようだ、鉢の縁に寄りかかるとんがりは、土を換えろと言っているので、明日の休みに応答しよう。


今年は先走りがなかった、植え替えがないとはいえ、五月の連休を境に気温は一段変わるだろうと踏んでいた通り、週間予報の下限は外出を許可している、水を沢山与えてから、窓辺に吊り下げる、部屋は片付き、玄関はみずみずしく。

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