第18話
気がかりだった香りを突き止める、フェイクが名を知らせ、評価のトップが性情を合わせる、刻印された文字の意味を辿るように、翻訳された言葉から伝うように、これでどうなったわけでもないが、実態を少しだけ把握しただろう。
デパ地下の遅いセールに、弁当に固唾を飲んでいるその隣に、突然出現する、飲み比べた後の視界に、打つ鼓動に即される、一度でやめず、立って指を当てて考えると、声が、見ると漬物、欲しい物は違うのだ、呑気な気分でかけて、笑みの中に帰宅する。
向かいにできた天の川、運命だけを目にしたら、何のやら、しかしちょっとずらせば、ガラス張りが透ける、前の店舗はカーテンに隠されていた、今度もそうなるか、美に関する所だから、このまま見えたほうがいいと、太陽を気にする。
落語が言ってた、内臓が悪いと夢を見る、最近よく見る、疲れているだろうと早く寝につくも、早起きして、本を読む始末、夢がもろもろ、ラジオが言っていた、まくらが睡眠の質を決める、食べる時間、飲む時間、どれも反逆する、質を高めるべきか、まあいいや。
幅がなく、選択肢もなく、壁にあたる光と、焦げ茶と奥の格子、それに砂丘の曲線と、それらを袈裟斬る斜め影、手前にぼんぼりが揺れる、内から生まれるものがない時は、空白の中にあって、見えるものをただ書くだけだ。
あ、と、ぴで伸ばされる口笛の響きは、極めて痒く、薬は好きではないが、頼らないとおさまりはしない、地獄のペスのように、皮膚にまつわる病は根が深い、ならば自然療法のようにと、泡立てず、垢擦りで擦ることにする、裏目にならないといいが。
上空の舞台袖からやってきた、三角定規の光の舞台に、おそらく初めてだろうか、昨日までのコートでは暑いからか、梨のつぶてで春が飛来してきた、白目ではないちゅんちゅんが、とんとんとんとついばむ、二から三と、息を飲み、青空が下に音を立てている。
見慣れて目に入らない電信柱が赤い矢印を下に指す、もはや上着は一枚脱ぎ捨てた、身内のラジオで砂漠が話され、コーランのように上下する節回しが空気を揺らめかす、和と米とは異なるポップな歌声に、影のキャラバンが赤い砂の上で思い出される。
まるでアクアリウムのように空気が透けている、太陽に照らされて、火山とも工業とも異なる蒸気が噴出していて、エアコンの風に流されている、コルジリネ、ストレリチア、アンスリウムが、アヌビアスナナ、すべて光のせいだ。
トイレの角の蜘蛛は、春を待ちきれずに出たよりも、どこからか間違えて生まれたよう、もう一週間くらいになるか、糸で張るよりも動くのが性情のようでも、移動はわずか数センチのみ、もはや息絶えているようで、さわらずに見る、いつか活動するだろうか。
割と時候には鋭いと思っているが、午前の雨が止み、コンサート会場そばの長い行列を眺め過ぎ、晴れた川辺を歩いていると、ジョウビタキらしき小鳥が梢にとまる、そんな時候かと写真におさめて過ぎると、五羽のうずくまる鳩が木の根に、知っていたが、変わらないなぁ。
空いている座席に着こうと横切ると、目に入らなかった雨傘に足が引っかかる、尻をつけると白いマスクの持ち主が隣で、まるで体内の悪菌を吐き出すような風船の溜息をつく、はぁ、つまらないことだ、おかげでこの席に座ることは良くないと、教わったところで別へ移る。
新しい感性を求めて足を運び、映像から新奇な言葉と反応に強い拒否感を覚えて、体からの抵抗にある種のストレスがあるも、これこそ求めていたものだと、どうにか長所を見出すように視点を置く、今はこれでも、あとあとに落ち着いて、見えてくるものがあるのだから。
少し暖かくなったから、映画前の夕飯を川辺でとることにする、穴子と海老の巻き物を、橋の袂の長椅子に座って食べる、公園は工事していて通れないから、緑まで降りずに滅多に無い位置で、この街の建造物を眺めながら口を動かし、なかなか悪くないと独り言つ。
南向きのベランダの窓から、優雅なカーテンが裾を広げている、一番がいつかわからないが、砂さえ疑る暖かさが目の縁を擦らせる、昨年もらったストールを鏡の前にするも、仕方がわからず、自分で自分の首を締めて、やけに焦ってしまう。
使いすぎか、回復たらずか、それとも神経のちくせきか、眠気がおおく、しばたたきもそこそこにある、昔は年寄りを軽んずるようにいたが、今は自分も花にある、それでもマスクは使わずと、手洗いだけでなんとかする構えにある。
おそらく外は天気がいいだろう、外光は一直線に窓から射していて、全開にして、空気の通りに目を閉じて感じたくなる、しかし、何に怯えて閉じ籠もるか、砂嵐を避けるように、陽が踊る連休二日目に、黴が生えそうだ。
妥協は計算の基にある、これにこれだけ、あれにあれだけ、ふらふらする頭で考えることなく、目の先の眠気に誘われて判断する、おそらくこれでいいにしても、少し後ろめたさが、残る前に落ち、朝の遅さに納得する。
シーズンの始まった上映に通うべく、朝の路面電車に待つ、日中の温もりに比べて朝はやはり冷え、それでいて目のうずきもある、射し込む光に照らされながら、たいてい宿題に手をつけるようにそわそわしているが、今日はない、さあ、どうしよう。
マスクと前髪の向かい合う席に並ぶ、それに睡眠とスマホが加わる、対面の車窓に顔を据える人もいるが多くはもさく感じる、外面は内面と一致するだろう、どうしたって着飾ったとしても、借物のように身繕いが浮いてしまう、朝はそんな大気の中にある。
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