第15話

目移りは変わらず、興味の向くままに本へ手を伸ばす、それも数冊に渡る物も少なくなく、この調子ではどれも読み切る前に終わってしまいそうなどと、気にせず続けると、年末に巻を終えるのがちらほら、尺の長さは今に合わないが、悪いペースではないらしい。


しみじみと息を吸い、ふかぶかと考え込む、腹部に軽い痛みがあり、少し眠たい、無視されるのが辛いことだと気づくのは、様様を見ずに至ったあとか、遅いようで、早くあるのは、何かの格言か、たかが月をまたぐだけなのに、世間の区切りに自分も重なる。


カスタードクリームならばと、下品な想像を当てはめるここ数日の朝に、一晩でたっぷり熟成された青いのを奥から出そうと、かめば、右の目の脇が間欠泉のようにさわぎ、さらっとしない汁があぶくと溢れる、人体は不思議だ、知っているが、間違って出たな。


毎日は毎日だと、年末年始を意識しての総括などしたくないくせに、帰省前の今年の最後のパソコンの前で、扇情的な言葉をついつい並べている、別段つぶやくことを持たないのに、そんな時に無理して文章を書けば、来年は何何などとたわごとが出てくるだろう、目的があるなら、臭く出てしまうものだ。


いまだかつてないほど、出勤が忌み嫌われる、年末年始が楽しかったからか、日常が恐るべき日日になってしまうからだろうか、それとも人生に攻め込む気概でも得たのか、何にしろ、小さなことにくさくさしているらしい。


仕事初め、年始の神社の朝の寒さに凍え、気取って一人本を読み震えたせいか、夜には喉が痛み、一週間ぶりの労働で全身がこむら返りして、寒気もするから、脹脛の肉離れに怯え、我が虚弱に頭を垂れる。


夢にも雨風は吹き荒れていた、昨晩は嵐だった、ぬるい空気に触れて時候を口にすると、春一番みたいだったと、たしかに、気候の揺れは大きいからおかしいと思わないが、澄んだ空に雲が動いて、夕刻になるとコートを羽織る、やっと真冬だろうか。


今日も続く春の日だ、雨はなくも湿気は少しありそうで、動いて体の発汗と臭いに湿って、そういえば加齢による体臭に言われたことを思い出す、香水に消すか、洗剤を漂わせるか、髪も体も、ごまかしが多くなっていくのだろう。


夢で舞台に出た、おかしな話だ、大名らしき人の前で、台本を手にして台詞を言う、ところが自分の出番の前に、見知らぬ婆さんが隣で共演していて、とぼけてさんざんに間違える、親近感が湧くほどに、そこでついつい間違いを指摘していた。


目的地へ向かう為に、経路を調べ、調べ、怯え、悩んでとても行けそうに思えず、布団に入って恐れていた、その記憶を思い出すように、調べて、気落ちして、判断がつかなくなる、気力が出ない、なら、その後に達した地点も同様だろうか。


大窓の前の席で上を向き、目薬をさす、外の青空と無機質な色のビルに、白い天井と電球色が一体となり、この動作が瞬時によみがえらせる、まだか、もうか、十日前くらいの制限の少ない生活に、まったく、昨夜は無駄な時を過ごした。


たった一日だけの蝶が横断歩道を闊歩する、そうしていい、そうあって欲しい、蝉よりも長く待って彩られた時間は、かたまることのないさなぎを超して、たった一日の衣装にもえる、この日だけは、その年月の自信を見せびらかそう。


ロッテリアという二階から世界を見下ろす、強化の為の斜めの線が入ったガラス窓から、この街の流行の行き交いを見る、着物、スーツ、猫背、蟹股、女同士の腕組、目につく人はわりと多く、矯正箇所も無数にある、さて自分は、試しにそっと、交差点を歩かせる。


日暮れに明日を考える、連休がただ終わるのが辛いわけじゃない、仕事も職場も望みはしないけれど、今こうして考える自分の頭の存在、たった一日の休みでは取り戻せない自分自身が、また失われてしまうのが、あまりにも惜しいのだ。


数日うろつかれた迷妄は、たった一瞬の邂逅で消滅する、あたかも多大な準備によってこれが導き出されたように、ふっと現れて洗い流してしまう、杞憂、煩悶、回転、こんな日日をいつまでも続けるのが、すぐ使いたくなる結論の言葉だろう。


雫が一滴垂れてくる、それをどう見るか、風呂あがりか、雨あがりか、それとも日照りの中の待ちに待った飛来か、どれだけ求めていただろうか、確かめの二滴に喜びが満ちる。


必ず毎日言う口癖は、今日は早く寝よう、言葉通りになることもないわけではない、たまには早い、それがやけに夢を見る、まるで惰眠のように、そこで暗澹に珍しく取り憑かれる、いびつだが綺麗なまなこに、あまりに純化された歌声に引きつらせる。


名作映画の上映後に、二つの楽曲を知った、作品内容を形容する名を持ったそれぞれは、性格は異なれど、同様の色合いを持つ、片方だけでなく、両方を賞味できるだろうか、欲深さに少し省みるも、無理ではないと、ちょっとした会話にほころぶ。


およそ予測はできていたが、見事な凪となっている、この退屈をいかにも料理できる中に、風味を殺ぐ黒焦げがいたなら、どれほどの貴重が汚されただろう、ないものは考えず、好きに時間を使わせてもらおう。


一本の違い、グーグルをたよりに見過ごして次に乗れば、なく、乗り換えに着いた途端に行ってしまう、この寒さに二十分か、いつも以上に苛立つ、年始の凍えを覚えているからだ、それで待つ、笑って捨てるにはまだ早く、繰り返し集合体を恨めしく思う。

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