第14話

何の居残りか、続きをしようと布団に座ったが最後、次は部屋の明かりの暗い明け方に目覚め、前日は昼寝もしたのに、何をそんなに欲しているのか、それは午前、午後も残り、せっかくの鑑賞も明滅して、自律神経の狂うほどの偏頭痛が半日居座る。


まるで教科書を読みに行く展覧会だと知っているから、準備をするも、腰が重く、なかなか家から抜けない、昼寝してからどうにか出ると、平日の半分の速度で自転車は進み、メジロが飛び回る短い山の坂道を登って入れば、文章と適合する具合の良さで頭は働く。


有り余った体力が暴走しているようだ、前日の夜の断食が効いて、午前は丸パン二個だけで酸欠のようにいながら、昼の弁当に火が点いて、もはや目が見えないくらい動き回り、迸るエンジンに汗をかかせて、これは冷静ではないなと手綱を締めるも、案の定間違いが。


すべては時と所に決まることなど、今さら思いついたわけではないが、耳に入って愉快と思えないことを、いったいいつまで喋り続けるのだろう、疑いなく、死ぬまでだろう、便所で一人吐いてくれたらと思うことが、自分も同じ不味さで感染っている。


聞くともなしにラジオに耳をかたむけながら、水筒に口をあてて飲もうとすると、居酒屋で寅さんのパロディがしつこく演じられて、危ういと思った時には気管に水があたり、じりじり膨れ上がって咳き込み、下手したら息ができずに死ぬかも、そんな笑いを苦しんで浮かべながら、耳は変わらず聞いている。


昨晩は追憶のためにカフェへ行き、荒涼とした自然に中の電球色のパブの集いを思い出す、外の寒さは同じだけれど、色と違って内も冷たい、けれどアイリッシュ音楽が進めばしぜん熱を帯びて、体は忘れ、今朝の一段の寒さに囲む暖かさが、余韻として残っている。


他人だけでなく、身近な人にもぎすぎすした態度をとってしまうのは、この寒さのせいだろうか、暖気の落ち込んだ深とした中で、温もるはずの音楽を聴いたのに、つま先の冷えが却って心身を強張らせている、葉の落ちた枝のように棘棘しく人に接して、昔の自分のようだと、ギシギシと傷んだ体を動かす。


骨格の荒みのとれないまま朝の出勤で、ネットが繋がらない、それは在庫も、顧客も、伝票も、送り状にもつながらない、とはいえ自分には対岸の火事、煙を出さずに燃えているのは事務の中、てんやわんやの身動きのできない中、経験と義務により、すぐに出来る範囲で血が通い、忙しながらも楽しんでいる。


あまりに時間がある、経過しない、やることはやり、観るものは観て、書くべきことは書いているのに、余暇が広がっている、散歩なんてできるほどに、そして見つけた飲み比べが加わり、一体何だ、幸福はここにあるのか、すべてが親しく、うまく回っている、これは酔いだけか、違うだろう、全て自分だ。


週明けなのに筋肉痛に縛られていて、空気のゴムの中で動くような具合の悪さだ、何をした、何をしてもいない、それが体を疲れさすのか、止まったらいけない赤身の魚のようにか、そんなはずはない、寒さと、着慣れぬコートだ。


何に泣いて、どのように笑おうか、みずから生み出した環境を嘆き、顰み、見まいとしながら、これで良いと踏まえる、間違ってはおらず、先先はそこだろう、それでもすくまり、もつれていると、弱った人が傍に、元気は内から出にくい、人から引きだしてもらうのだ。


作られた品ばかり触れることは、決して悪いとは思わない、ただ、生きた人間と会って知り、その経緯の持つ大きな力の配慮に、偶然らしき糸の張り巡らされ方に、結果に至るまでの必然が見えている、この不思議でそのまま感得できる経験に、生きた影響の強さを思い知る。


二日続けての長い眠りなのに、なぜか体は重く、不思議に考えながら朝の自転車をこぐと、天から左腕に白いペンキが墜落する、くそ、とはいえもう仕方ない、ついていないよりも、運があるべきなどと、心にもない見方をするから、ほら、昼には凄まじい悪寒、午後には目眩、寄って診れば、インフルエンザ。


頭とプライベートはすでに戻っていたが、ようやく職場へ復帰した、とはいえたったの五日間だ、ただそれだけで悲しいほどに体力は落ちて、ひいひい言っている、昨日の続きで湿気が多く、寒くない、終わった本日の業務を後ろに、少し風のある外へ出て空気を吸えば、さあ出直そうと新鮮な気持ちになる。


繰り返されるのはまずいものばかりで、日日の出来事はつくづくこんなので組まれているのだと、同じようにみずから反吐がついてくる、孤独は決して賑やかではないが、それほど汚れたところでもないから、逃れられない、逃れてはいけない対象を、飽きずに背ける。


エネルギーは仮止めでも放散する、苛立たしげな態度は体力がないからではない、やたら腹を立てるのだ、次に向かう名前が抑制を解こうとするのか、流れるように燃えよう、そんな気分を文章世界にこめて。


またこの季節のストーブの臭い、燃料はわからずも黒く、煙を思い起こさせる、それにはコンクリートやレンガの冷たさが付随していて、剥げた漆喰がいくらも染み込ませない、心の暖かさは寒さの中に温もる、慎ましいやりとりに、バスのエンジンと車窓の音が流れる。


キャベツを食べるウニを見た、動画でぽりぽり黒いイガグリが食んでいる、それが身になるらしい、そういえば、きゅうりを食べるプレコもいた、縞の入った体高はごりごり削り、水槽一杯に緑の糞を散らかしていた、懐かしい、などと思い、ダンボール一杯のみかんを見ると、何か食べているかも、いや、黴。


舟を待つ、別に実際に待つわけではない、何を待とうが何だってかまわない、土でも風でも、苦味でも、外の寒さと衣類の暖かさに落差されて、瞑りそうになりながら座って待つ、何だってかまわない、何か、こう、動く用事であれば。


先週インフルエンザで少なからず奪われたばかりなのに、喉の風邪か、病源が違うとはいえ、なんだか損したみたいだ、骨の治りかけに再び折るように、身も懐も年末に枯れてしまい、一年のつけが留めるようだ、ゆっくり休もう。

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