第13話

風邪と酒に酔っ払い、休日を半日の記憶で過ごしてしまった、幾ら飲んだからといって、十二時間も眠れるものか、それでも朝は寝足りない、欲張り、疲れ、多く夢が重ねられ、配達する親爺もどこかで会って親近感が、現実とごた混ぜとなり、実感は区別を持たず、やけに視界がぼやけるから、今日は眼鏡を。


悪魔のような人、というよりも、まさしくそれそのものと思える人間は確かに存在していて、とある人にとっては支えてあげたくてたまらない代物なのだ、そんな人物がいないと、なんと一日は晴れやかなことか、自分自身を悪く曇らせてしかたない者、それが見当たらない今日は、天気も清々しく喜んでいる。


一概に断定できない妙があって、ソナタでは萎み、発光せず、塩辛い音が朽ち木のようにぎしぎし鳴っていたが、そこに鳥がとまって平和を口ずさむと、なんと驚くべき存在感が歌われることか、一面は多面であり、この差異がとても、面白さを呈している。


弁当二個に五十円足らず、まごまごしていたら、次でいいですよと、では明日にはと言いながら、休憩の終わりに寄ってみると、誰もおらず、待っても来ず、奥へ進んで座敷を見ると、二人の娘っ子は稽古か、公演か、声をかけると慌てて受け取り、後にして、足らずで良かったと笑みに安らぐ。


悪魔も人の子、石の裏に潜む厚顔を恥じるように白いマスクをして、デビルも風邪かと、ひいてもひかなくても変わらない動きに苛立ちつつ、気の利かなさに台車を投げれば、上手にヒットして、罪悪感が、仕打ちに対してしばしの反省を。


そんなに特別なことではない、見慣れる、見飽きるでもない、職場からの景色の中で、まず若い女性の着物が通り、次に年配が、それから老婆が、きっと何かの催しが近くであったのだろう、昨日からの冷涼と太陽の中で、一際珍しく、そして眩しく映る。


始まった今シーズンへと向かい、テーマ曲となったシベリウスは流さず、代わりにチャイコフスキーに、求めるものは似たものとなり、薄着では行かない時季だから、光が眩しく、一つの形式として行動は定まるのだろう。


まるでインド旅行をするように、公演と公演の繋がる時間を気にして、入場して訊ね、席を確保してまた訊ね、それから館内放送でようやくほっとする、不正確なことはないとわかっていても、塗り重ねることでほっと固まるのだ。


忙しさは何の為に、週の始まり、心身共に身軽に動く、そんな快活さはなく、久し振りの雨と暖気に、やけに臭いが鼻につき、良い時間を過ごして植物を顧みれば、紅葉と思っていたのは枯れで、またか、できないことはしてはならない、ではなく、やらないといけない。


朝のパン忘れ、出勤前に細心を欠いたまま家を出たわけ、朝のメールがじんわりした自信をもたらす、何か成果をあげたわけではないが、ただの自分が評価されたようで、澁澤を好む人からなら、多分悪くない、実を結ぼう。


寝が足りないと体は訴えているようで、いざ眠ってみれば夢ばかり、一年を通してもほとんど見ることのない世界が、どうして近頃はこうも増えたのか、日頃に夢を見るからか、会った人の影響か、とにかく寒さがつのっているから、深さが自分を見せてくれるのか。


白璧を老人が小さく歩いていく、情感はすでに廃れてしまい、一体何に気をとめて浮かんだのか、外はもう暗くなり、昔に猫を助ける為に大人達が奮闘した店の壁の穴を、二人の小さな子供が物語を描く、いくら想像豊かでも、自己犠牲としての黒い四角には思い至りはしないだろう。


便意を堪えること二時間弱、そわそわ動いていたのはこれだけが理由になるだろう、コンビニのトイレに入り、用を足すと抜ける緊張に、ふと見上げて、考えられる最もプライベートな場所は便所だと話し合ったのを思い出し、明るく暗い電球に宇宙の深さを見る。


朝は仕事がはかどらない、体と頭の元気な午前は悪くない動きをするのに、文章を書くとなると地べたを這いずり回るように進まず、時間を無意義に使っているようで、腹が立ち、絞り出すように酒を飲み、調子が良い時の四倍もの時間を浪費して、ふて寝してみれば、かけたぶんだけの成果は、見当たらない。


数年ぶりにシャワーを浴びずに眠り、朝に入り、そのまま髪のセットをしようとすると、普段とは異なる生活パターンに一輪挿しが落ちて割れ、思い出が消える、それからパンを食べようとすると、最近買ったキッチンマットに蜂蜜をこぼす、まったくどうして、そう思うコップの置き方に、原因が見てとれた。


クラフトテープが落ちて、長机にカツンとぶつかった時に、はっと思い出す、書かなくては、ところがその内容はまだ持たず、目的も向かう先もない、ただただ前に仕組まれたシステムが作動しているだけで、冬の入口に浮動する、何かの綿毛のようにはっきりしていない。


別に嫌な事があったわけじゃない、おそらく酔いのせいだろう、何かに陶酔していたい気分が現実を蹴散らしたくも、張り付いた肉体のようにそうもいかず、北風が冷たくとも少しでも外に出て、通りの動きを感じながら消えていく空を見る、そんな一瞬が、たやすく得られる薬のように心身に作用する。


真夜中に腹の警鐘が強い打音で響き、目が覚めると、やり場のない腹痛が走り、トイレに座ると、一、二、三と繰り返し巡り、五臓六腑を荒らされるようで、サウナよりも早く多い汗がすべてを濡らし、明日は駄目だと考えつつ、視界がぼやけ、一、二、三と、硬、軟、水と流れて、はたとおさまる。


エレベーターが12階へ行ってしまう間に、振り返って外の公園を見ると、てんとう虫の赤い遊具を中心に沢山の葉がこぼれた秋模様が流れている、近頃は木木の自然に目をあてていないなぁぁ、すっと、上がった10階から遠くの山を眺めて、意気は戻って芯に響いた。


好き嫌いですべてを判断している、理解はしていないが、納得はしている、それでも言い分は浮かぶ、肥えた体だけで判別できない、それに鈍さと、弱さと、ずる賢さが見えるから、屁のように臭く、ぶつぶつした独り言に我慢ならないのだろう。

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