第8話

くだらない計画をしている、世俗的で、生まれ育った世間の慣習からいまだ離れられず、クリスマス、今はいい、ハロウィン、もう馴染めない、ホワイトデー、そんな歳じゃない、などと思わず、もらってもいないのに、あげたくて、昼休憩に買いに行き、人を探して配れば、ちょっとした反省の後、悪くない。


本だか、映画だか、なんだかわからないが、酒と女と博打が、男の好色三セットのように扱われているが、酒は好きで毎日飲むが、博打も女も、てんで生活にないから、どうも世間で言われる三セットが信じられない空言のように聞こえるが、自分に当てはまらないからといって、信用しないわけにもいかない。


仕事の六日目、何をそんなに疲弊しているのか、仕事が少なく、体を強張らせることもなく、だからこそ、緩んだ時間の進みが靄のように頭部を掠めて、何の根拠の倦怠が、何もいわれなどない、悩み、そんなものでも欲しいくらい、単なる疲労、それが全人生をつまらなく見せて、パイプ椅子に座り、呼吸も。


朝と夜、どちらが好ましいか、朝の空気、光、音、それらは生命の喜びを指で摘むように目覚めさせ、頼りない潔さもものともしない、強靭な遠吠えを呼び覚ますが、夜の時間、これは空気よりも継起が実態で酸素を埋め、活力を呼び覚まし、眠気を超えた、悪さを持った夜更かしが、欲望を好き勝手にさせる。


朝、職場の入り口にいると、お香の薫りがするので、なんだろう、白檀だろうか、薫りの特徴を知らないのに、言葉の響きだけで、この落ち着いた、芳しい、気品のある薫香をあてはめて、ふと向こうの寺の墓場からだろうかと考えると、眩しい朝の光に、頭は記憶が蘇り、ちょっと涼しい、インドの朝が帰る。


梅の花が咲き出した頃から、職場のラジオで、微笑がえしがかかるのを待っている、入社して、毎日耳を付き合わせざろうえない、大衆的な局だが、二年前に微笑がえし、三度か四度か、当時の心情が無理に食いついて思い出を保持してしまい、それから毎年、この古い曲に、春を待つ、桜よりも、春の訪れを。


自分の中の悪に気づいたところで、一体どうしようというのだ、どうする気もない、意識するのは、徹底で、半端はよくない、失礼にあたる、だから、嫌う相手から、嫌っているというシグナルを受けて、好きな人から好きな態度と笑顔を思わずもらったように、そのふてくされた声の調子に、つい嬉しくなる。


午前の雨、西にも北にも霞がかかり、もやっと蒸れる初春の大気の中、新幹線どおりのとおく向こうに見えるのは、白い団地群で、あんなのがあったのかと、ぽっと浮かぶようで、住まいのマンションの高階から観る景色も、ちょっと様変わりして、頭の中に蒸れる、変わったようで、変わっていない、雨の中。


受け売り、そればかりを夜にべらべら話すが、言葉はもつれて、順序をなさず、一週間の連勤の疲れによるものと言い訳しようにも、昨日は休みで、予定も少なく家で仮眠を二度したから、単に、物覚えの悪さと、抽象する力がないのだろうか、それで話す内容は、概念の有無で魅力的になるのではないことだ。


天気も良いし、遠くの雲も雄大だ、空気は冷たく、暖房器具がないと体は冷えるが、晴れ間があると、例え陽が直接体に当たらなくても、頼りたい気は薄れ、羽織り物で体を温め、気分は、良い、だから、やるせない気持ちがあり、連休二日目、心身共に復活しているから、昨日のメジロが頭を去り、沸沸する。


明確な病気がある、衝動買い、これは誰もが持っている持病かもしれないが、この病気を、病気だと自覚するのは、アマゾンでの本、香水のサンプル、ワンクリックでアタック、ではなく、スーパーで半額のシールを集めて、あれも、これも、ではなく、白いスパティフィラムの元気な鉢に、食指が動く時だ。


他人が気にしても、それほど大した事ではないのに、自分の中では、その小さな事が、意識の中で巨大な物として占められていて、触るんじゃなかった、体調を整えれば良かった、もっと寝れば、とはいえ、もう遅い、仕方がない、そう、小さな事から、諦めが肝心だと、鏡の前で、仕様がなく頬をへこます。


何も考えずにいなかったようで、予期していた宴の享楽、着慣れない服装による高揚、風、春、花、どれも気にしていない、昔は好きだった野球のように、今は桜も気にかからない、けれど、人と多く会話した余韻で、次の日は、朝から夕方まで笑顔が絶えず、なんだか良いなぁと思っていたら、夜は暗澹、苦。


目の辺りに発疹があり、一ヶ月前からの症状で、ちょっと増えてきたから、午後の仕事を休み、皮膚科へ行き、あとの時間は休みらしく過ごそうと思うも、動かない、眠い、なので仮眠してから、映画を観て、気分良くなり、帰り道、視点を借り、空を見上げて、星があり、自転車をこぎ、花も動きも良かった。


春が伸びる、マンションの間から見える太田川の河川敷に、長々と葉桜が並び、何の新緑だ、楠木の入れ替えか、柳の垂れ下がりか、イチョウの梢からは、幾つもの小さい葉っぱが伸びて、まるで緑の、小さな、無数の貝殻が生えるようで、朝は寒く、昼は暖かく、春が長く、つつじ、ハナミズキがまじり咲く。


何度も書いている、簡単とは言わないが、身近に思っていたことが離れてしまい、手をつけにくくなる、それは、ひさしぶりに両親へ電話するように、かけてしまえばたやすく、話し、終われば、やっぱりと思うように、なんでもない腰の重さは、いったいどこからか、だから、なんでもいいから、起こそうと。


夢を見ないから、夢に見ないのだろうかと、仕事場で作業しながら、前は業務に関する内容が現れていたのにと、考えながら手を動かし、ふと、テーブルに置かれた画集、壁に貼られた美術館のポスター、テーブル下に隠れた幾つもの本に、慣れたのだ、もう忘れたのだと思ったら、その晩、事務所の女性が。


疲れが溜まっている、寝不足が溜まっている、だから早く寝よう、そう思うもそう早くなく、かといって遅くもなく、なんとか週末の夜の突き抜けと誘惑に目を瞑り、日付を過ぎる前に寝床につくも、入らない、花粉症か、それもあるが、違う、衣替えした夜着か、布団か、そう、気温が体を起こす、寝るなと。


今年からの花粉症と共に過ぎる日日は早く、変わらず、暖かいよりも、熱く、汗がにじみ、マンサク、ハナミズキが開いていき、下を見ればシバザクラも、ビオラやパンジーは花壇のどこでもひらひらして、チューリップはもう頭がとれてしまい、早く、早く、鼻が通ってくれれば、湿気が帰り、あせもだろう。


マーチングバンドが頭を描く、軽快に、クラリネットを高く、やや内的な恐怖を震わせながら、雨の中を、強くない、湿気の強い、春の中の初夏の陽気の、7月上旬の汗と、連休前の、それに慣れない日本人らしい出荷の荷物をそれぞれが両手に抱えて、募る募る疲れが、陽気に人と戦わせて、顔は沈みがちに。

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