第3話

最近はすこぶる元気に過ごしている。家の植物たちもすこぶる元気に成長している。関係あるのだろう、季節に。秋になったら物悲しくなり、冬になったら再び憂鬱になるのだろうか。できればこのままの性格でいたいのに。


他人に対して幻滅に続く幻滅、そこに度量を試され、時間経過を頼りに幻滅を補填していくのは、自分自身の底の浅さに幻滅しないための仮繕いだ。


停滞していたものを自分でも気づきながら見過ごしていたのは、とにかく気が進まず、やる気がしない。ところがほんの少しだけ疲労がとれて、ゆとりを持つと、これほど軽く物事を進めることができるのだと溜息がでてしまう。


アステールプラザ大ホールに忘れた携帯用の長靴を探しに、昼休憩に事務所へ行くも、届けはなく、無理を言ってホール内を探してもらうも、なく、仕事後、もしかしたら自転車置場にあるのではと、土砂降りの雨の中、サンダルで、びしょ濡れになり、着いてみるとやっぱりなく、時間ばかり無駄にした一日。


ところが今日の夜の時間は長く、やりたいことを存分に行えているのだから、時間を失くしたようでいて、実際は手に入れているという奇妙なことになっている。年に一度行われるベランダの排水口の掃除をなぜかしたからだろうか。


最近はつぶやくこともできなくなっている。お喋りばかりしているからだろうか。


最近物忘れが激しい。水筒をベンチに忘れ、携帯用の長靴をコンサートホールで忘れ、雨が降るというのに出かける際に傘を忘れ、仕方なくコンビニで買った傘をベンチの下に忘れ、雨が降っているのに新しく買った長靴を履くのを忘れる。


嫌な出来事があったわけではないが、うまく噛み合わないことが続き、予期しない結果があらわれ、物事のはかどっていない気がして悶々としていたが、段々に雲の迫ってくる鮮やかな夕焼け空を見て、ああ、今日は悪くない一日だとふと思い、終わりよければすべて良しと同じ作用で浄化された気がした。


ラジオでとある有名人の肩書が「元祖カープ女子」と紹介され、まったく意味のない言葉に眉をひそめて頭をかしげながら、言葉を置換して「元祖巨人老婆」などと考えてみれば、それこそ違う意味が出てしまうと苦笑する。昔からのファンを愚弄する言語に対する鈍感さこそ一過性の強い広島の大衆性だ。


格好つけると、格好悪くなり、良い人ぶると、良い人じゃなくなると今日気がついた。


今週は出勤間際に目覚める日が続いたのに、休みの日に限って出勤の一時間前に目を覚ます。


諦めないより、諦められる能力を持ちたい今日このごろは、映画館や劇場での飴玉の包み紙をひらく音や独り言、自転車レーンを平然と歩く市民等に対しておおいに諦めたい。目的を貫き通す妥協なき意志と同様に、柔軟に対応できる切り替えの強さも大切だ。


百の美点がなんの理由になるか、一の汚点が前景に陣取り、それ以外は全てその後景に隠れて見えなくなり、一つの対象は、どうにも解消できない自己の性質の言い訳になり、生贄として見定められて、他の対象を平穏に存在させるために捧げられる。


他人に対して恥を感じるのか、自分の内に恥を覚えるのか、明確な道徳心と、経験と理性から打ち出された自己の律を基準に、見極めなければならない。ただ優先すべきは、自分の中の恥だ。


両脇をおもいきり広げて肘を翼にして、前傾姿勢になり、尻をサドルにつけずに立ってママチャリをこぐ若い男の横を自転車で追い抜かす。見掛け倒しの速度の遅さだった。


悪魔というか、蛇みたいな人間が本当にいることを知る。


空はヘリコプターばかりが飛んでいる。


汗と汚れと疲れの化学反応による皮膚の発疹が真夏の到来を歓迎する。


年代に合った服装ではなく、十代から五十代まで似たような服装の女性が多いから、遠くから見分けがつかず、もはや制服と化している。


この人はどうして理解が乏しいのだろう、怒っているわけではない、咎めているわけでもないのに、こちらの言葉は意味を成さず、どれも裏返しに汲むばかりで、過剰な防衛反応がどれもモザイクに画面を写し取ってしまうのは、ひょっとしたら、家庭環境がそうさせているのだと、ふと自らを省みる。

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