セリカの正体
次々に繰り出されるレミーの推理に、ディアナはただ感心していた。
「オーランド様が、ペンダントを探してて、自分がレーンにペンダントを売ったのがバレたら殺されると思って、レミーは王都にきたんだよね?」
「レーンのことも心配だったからな。ところでディアナ、俺がペンダントを売ってから、怪奇現象が起こらなかったか?」
「怪奇現象……そういえば、ペンダントを握り潰しちゃう前に、誰もいないのに女の人の悲鳴が聞こえてた」
「やっぱりな」
「なんでわかるの?」
「オーランド様がペンダントを探してだからだ。これは……ちょっとディアナには難しいかもしれない」
「言ってみて」
「多分さ、もともと蚕のペンダントにはセリカがいて、喋ってたんじゃないかと思う。ちょろい男だと、お触り禁止……えっと……まあなんだ、きれいなお姉さんと話すだけでもぞっこんに惚れ込むことがあるから、オーランド様はセリカに惚れてて、路地裏じゃよくあるんだけど……喧嘩して嫁さんに……この場合ペンダントだけど逃げられて、それで探してたんじゃないかな」
「娼婦なら知ってるわよ……あはは。レミーって面白い」
ディアナが笑うと、レミーは困ったような引き立った顔をしていた。
「男として情けない話なんだよ……女嫌いっていう噂があるオーランド様がペンダントが喋っただけでベタベタに惚れるとか想定外すぎるぞ……まあ、ディアナとしては男は美人が愛想笑いしただけで恋をする生き物で、その結果女を怒らせて喧嘩して逃げられて一人になる馬鹿が少なからずいる、ってことだけ覚えといてくれ。皇太子を返上して姫様になったら……ディアナは、レーンそっくりの、美人だし。虫の話さえしなければ」
「うん。レミーがいらないこと言うから、男って全員馬鹿だって覚えた」
「申し訳ありません皇太子殿下、いやディアナ姫」
「はあ……笑えたからいいよ。許す。でもなんで、レミーはそんなに不死の娘について詳しいの?」
「セリカってやつの特徴、前に聞いただろ」
「うん」
「前に、見たことがあるんだ。そっくりな女」
「えっ? レミー、平民だと思ってたけど、実は貴族だったりするの?」
「俺は平民だ。ゼントラムとノーデンの端境あたりに、不老長寿、不老不死に関わると思しきものを大量に集めていた形跡があるんだ。持ち主はパルタスっていう侯爵だけど、それは名義だけで、管理は教会がしていた。本当に色々あった。不死の娘に関わるらしいものもたくさん」
「なんでそんなこと知ってるの? 普通の平民なら絶対知らないよ、そんなこと」
「……それを盗賊の一味が狙ったんだ。俺はその盗賊に育てられてて、そこを狙う仕事にも入ってたから、だ」
「え……」
「まあ、その仕事が失敗して壊滅して、俺も死にかけたけど。レーンとディアナが助けてくれなきゃ、死んでたぜ。おれは盗みをしないと生きていけないような場所にいたけど、お前らのおかげでまともな場所に来れて、感謝してる」
レミーはそこに何があったのかディアナに説明した。
金銀財宝や宝石。そして、奇妙なものたち。
「女の死体があった。絹の娘を食った女って触れ込みだった……顔を見たけど、死体って感じじゃなかったな。時間が止まってる感じというか……確かに呼吸も脈もなかったけど、死体だったらもっと血の気がひいてると思う」
「直接、触ったの?」
「いや。ガラスの棺のなかだった。水が入ってて、女は黒いガウンみたいなのを着せられて、背中から羽根みたいになんかの管が繋がれてた。棺は銀色の教会の祭壇みたいなでかい台に置かれてた」
「そういえば、セリカには羽がはえてた」
「最初はなんともなかったんだが、おれがその女をながめてたら盗賊のうち誰かが背中にぶつかってきて、コケて棺か台にぶつかっちまったんだ。その時、変な声が聞こえた」
「変な声?」
「掠れたガラガラの声みたいな、でもその割には聞き取りやすい、変な男の声だった。『トウミンキショウシークエンスヲハツドウシマスカ?』って言った。黙らせようと盗賊の先輩が棺を殴りつけたら、突然宝物庫の中に赤い光がついて、『警報! 警報! 侵入者です!』ってヒステリックな女の声がして、次に男の声が『トウミンイジキノウ、残り1年、シジガナケレバ一年後、ジンドウテキカンテンよりキショウシークエンスヲハツドウシマス』と言った瞬間に警備の兵士が突入してきて、命からがら森まで逃げたってわけだ」
「そうだったんだ……」
意外すぎるレミーの過去に、ディアナはうなずくしかなかった。
物を盗んだり人を殺したらいけない、というあたりまえのことでレミーをディアナは怒ることもできたが、レミーがいなければ自分はきっとひどい目にあっていたし、セリカについて知ることもできなかった。
レミーを見逃すことで、ディアナは自分がちょっと悪い人間になった気がしたが、ひどいことなら蚕を今まで何匹も茹でてきた、ということを思い出してしまい、ディアナは何も言えなかった。
「生きてはないけど死んでもない、みたいな人間だったから、水につけられてたんだと思う。死んでたら、水から出して埋葬したと思うし」
「じゃあ、セリカが消えちゃったのは」
「本当に死んだか、もしかしたら生き返ったか」
「……死んじゃってたらいやだ」
「でも、生き返ってるかもしれない」
その後、二人で詳しい話をすると、セリカと絹の娘を食った女としてガラスの棺に納められていた人物の容姿は、ぴったり一致した。
気づけば、ディアナはボロボロと泣き出していた。
「レミー」
「何だ?」
「……もう一度、私の名前を呼んで。そしたら泣き止んで、頑張るから」
「ディアナ」
「……ありがとう」
「ディアナ、これから何をする?」
「そうだね……」
レミーの問いかけに、ディアナは決意を固めた。
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