奪還作戦会議

「私は、これからセリカの体を手に入れる」


 ディアナは宣言した。


「よしきた。どうするんだ?」


「パルタスって侯爵は、レミーと会う前に私のところに来てた。私の支持者だって言ってたけど……かなり……ひどい人だった」


「そうか。じゃあ、倒しても問題ないんだな?」


「うん。むしろ、私が皇太子だなんておかしな状況になるきっかけになったのがパルタスよ。一回ひっぱたきたいくらい。でもパルタスは私を利用しようとしているから、彼に近づきたいって言えば、すぐ近づけると思う。だから、もう一回、あの屋敷に突入してくれる? レミー」


「いいぜ。次こそドジは踏まない」




「だったら、その警備がめちゃくちゃになれば、貴族たちも無事ではいられないよね?」


「しかも、皇太子がいる時に賊に襲われたとなれば、メンツは丸潰れだぜ」


「まさか皇太子自身が自分の身を危険に晒す上に後ろ盾を潰すとは思わないだろうから、うまくやればレーン皇太子反対派も潰せますぞ」


 ブレナン先生の言葉に、レーンはにやりと笑う。


「だったら、レーン皇太子に反発する派閥と関係がある人間を集めて、彼らに襲撃をやらせるんだ。裏社会とも関係のある貴族は多いし、娼婦を身請けしまくって皇太子は裏社会の元締の一部から反発を買っている。そんな奴と、娼婦を買う貴族が仲良くしているから、そのチンピラたちが皇太子を襲ったとなれば、いくら奴らが否定してもシラを切っているだけだと思われるだけだ」


「そ、そうなんだ……裏社会の、元締」


「立派に見えるかもしれんが、連中は弱いやつからかっぱらうことしか考えないろくでなし。ビビることはないぜ。礼儀正しくして仁義通せば、そこらのチンピラより安全」


「そ、そうなんだ」


「あとディアナが身請けした女は、安いのだけが売り、って感じじゃん?」


「うん。そういう扱い受けてる子がいるのが嫌で、ひどい場所にいる子から優先的に雇ってる」


「ディアナにはそのつもりはなかったと思うけど、新興の集団が作った花街つぶしになってたんだよ。古株は一等地に教育した高級娼婦しょうふがいるから無傷だけど、ノーデンで自動織機じどうしょっきが開発されて、自分で作った布が売れなくなって生活できなくなった娘たちが身売りした先は、ディアナに引き抜かれて、ほぼつぶれかけ」


「いや、セリカはわかってたと思う」


「セリカが?」


 レミーはピンと来ていないようだった。


「娼婦を買えって言ったのはセリカだったし、セリカはレミーの話からして、オーランド様のところにいたし、いろんなことを知っていたから……もしかして、自動織機じどうしょっきのアイデアを出したのは、セリカ?」


 ディアナがつぶやくと、レミーは「そういうことか」と目を見開く。


「オーランド様……蚕にとりついていたセリカの美声にべた惚れなのかと思ったら、知的な女が好みだったのか……ディアナと絹の娘たち見てると忘れるけど、普通の女って文字読めないし、殴られたくないから旦那の言うこと聞き続けたりとか、逆に物知らずすぎて旦那にひどい目に遭わされ続けてるわな……でも路地裏で生き抜く女って、だいたい旦那と喧嘩して余裕で勝ってるんだよな……」


 ディアナにはよくわからなかったが、レミーはなにかをさとったようだった。


「レミー、裏社会に詳しいね。そういう人たちと関わりがあるの?」


 ディアナの言葉に、あっさりとレミーはうなずいた。


「俺は盗賊の使いっ走りだった。だから色々と人脈があるんだ。しかも、使いっ走りの中でも、手紙や金も託されたからな。手紙を捨てない上に金を持ち逃げしない、ってくらいには信頼されてたし、飛脚時代にも昔馴染みに仕事を頼まれたりしたから、運び屋としての信頼はある。俺が声をかければ、動くやつはいるだろうな」


「それ、レミーが私を襲うってこと?」


「いや、ただこう言うんだ。ノーデンの例の教会に皇太子殿下がお出ましになる時に、宝物庫の鍵が開かれる、と」


「え?」


「俺が昔従ってた盗賊のお頭は、盗賊の中でも有力な奴だった。お頭を超える盗みをすれば盗賊の中での名が上がるんだよ」


 レーンは言葉を切る。


「だから、お頭が失敗して殺されたノーデンの教会での盗みが成功すれば、そいつは盗賊の王ってわけなんだ」


「レミーと仲がよくて良かったのか悪かったのか、もはや分かりませんな」


 ブレナンの呆れ声。


「良かったよ。少なくとも、世界を変える知識を持つセリカと、また会える」


「……ディアナ様のポニーテールを切り落としたのがナオミ様のわがままなら、教会へセリカ殿を救出しに行くのもディアナ様のわがままではありませんか」


「それは……」


 ブレナンの正論に、ディアナは言うべき言葉が見当たらなかった。


「どうせ、この世界はわがままなやつしかいないんだ」


 だが、レミーはブレナンを切って捨てる。


「声がでかくて力が強いやつのわがままが一番通る。だからな、俺としてはディアナに、力を持っていて欲しい。そして、お前のわがままで自分らしく生きられなくなるやつがいないように、ディアナのわがままは【誰もが自分らしくいられる世界を作る】であってほしい」


「うん。わかった」


「そう、ディアナ様がお考えでしたら」


 ブレナンが折れたところで、レミーが「で、ここで相談だ」と話を変える。


「盗賊が失敗したときには、俺たちの計画はおじゃんだ。だが、せめてディアナの名前を奪った連中の顔はつぶしたい。だから、絹を一反欲しい」

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