レミーの贈り物、正体判明
レミーにセリカは幽霊なのか、と聞かれ、ディアナはびっくりした。
「悪魔じゃないっていうのは本当だと思う……本人が、そう言ってたから」
「いや、そうじゃなくて、本当に死んでるのかって話だ」
「どういう事……?」
「蚕のペンダントの話を聞いたときに、俺は聖伝を思い出したんだ」
「旧世界の人間は悪魔を呼び起こし、様々な
ブレナンから聞いたことを、ディアナは頑張って思い出した。
「それもあるが、その後だ」
「地上が氷に包まれる前、人間は
「まあそうだな。だが、本当のことは、その後に書いてあるんだ」
「どういうこと?」
「──不死の娘が現れたことだ」
レミーは大きく深呼吸し、語る。
「神が
「うん。ブレナン先生から聞いたよ」
「これさ、人間の娘だとはどこにも書いてないし、誰も人間の娘たちが不死を授かったとは言ってないんだよ」
「そう言われてみれば……」
「ディアナのボディーガードをして、娼婦たちの仕事場に行って、俺がレミーに贈ったペンダントが化けた蛾があったじゃん。で、その蛾は、死んだと思ったら幼虫に戻って、また大人になるって言ってたじゃん」
「うん。普通の蛾なら一年も生きられないし、不思議だなって……」
レーンと自分を、レミーが区別してくれた。
こんな扱いがほしくて、ずっと頑張ってきたのだ。
ディアナの目から、温かい涙があふれ出した。
「ディアナ? 大丈夫か?」
「……レミー、ありがとう。ディアナとして扱ってくれて」
「あたりめえよ。病弱天使と虫捕り野郎をどーやったら間違えられるってんだ」
「ありがと」
荒っぽい言葉遣いだが、その雑ささえもディアナには嬉しかった」
「あとさ、ペンダントを潰してから動き出したってディアナは言ってたじゃん」
「うん」
レミーは、真剣な顔で言った。
「ディアナの蛾のペンダントは──不死の娘だと思う」
「教会の絹の布は、彼女が授かった絹糸でできてる……ってことは
ディアナは混乱して、よくわからないことを言ってしまった。
「いや。それはないと思う。糸を作るところを見せてもらったけど、いくつかの繭をまとめて茹でて、ぜんぶより合わせて糸にしてただろ。だから、昔の絹を教会が持ってるだけだと思う」
「そ、そうだよね。でも、どうしてそれがセリカにつながるの?」
「悪い人間によって神の祝福は台無しになった、と聖伝は伝えてるんだ」
「ある女が、老いないその娘の一人に
悪魔、という言葉にディアナはセリカを思い出した。
「そして、その女は罰を受けました。彼女の死体は永遠に腐ることなく、その魂は天国にも地獄にも行くことなく、今も彷徨っているのです、っていうのが聖伝の終わりの言葉だろ?」
「うん」
「首落とされても生きてた鶏を知ってる。天国にも地獄にも行ってないって、単に死んでなかったんじゃないか」
「えっ……?」
ディアナは、レミーの言葉がよくわからなかった。
「どうも不死の娘、っていうのは俺があの蛾を見る限り、死んだら時間を巻き戻して、生きている状態に戻るから死なないっぽいんだ。寿命で死んだら若返るけど」
「うん」
「でさ、蛾のペンダントの時点でも、多分不死の娘は、生きてた」
「どういうこと?」
「不死の娘を食べた女がいただろ。食べ物って、腹に入ったらあとは……うん。察してくれ。生きてないだろ」
「下品な話やめてよ、ねえ」
「仕方ねえんだよ……ここで、不死の蚕は時間を操ることで死なない、と仮定すると辻褄が合うんだ。女の腹の中で、自分の体が傷ついていない状態で自分の時間を止めて、同時に周りの、時間が流れている存在からの影響を防ぐようにしたら、理屈の上だけど、不死の娘がうん……なんでもない、になってないことと、作り物みたいに固かったことに説明がつく」
「なるほどね」
「で、ディアナがペンダントを握りつぶせた、ってことは多分、蛾か女の方に、何か変化があって、止めていた時間が動き出したちょうどそのときにディアナが木から落ちた、ってことだと思う」
「
ディアナがレミーを褒めると、レミーは動揺したような、感動したような、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「もう、会えないと分かっていても、レーンそっくりだな、ディアナ」
ほろり、とレミーの目から涙が一粒こぼれ落ちた。
レミーは拳で涙をぬぐい、話を続ける。
「あも、ディアナの話と、ノーデン次期……今はもう亡くなった前代から身分を継いで領主になってるオーランド様の行動からして、セリカはペンダントにとりついてて、ペンダントが動き出していない時点でも、しゃべれてる」
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