その9

 その翌日、白の転移点からルコ達4人のそれぞれの世界の座標が11個の数字として計算された結果がスパコンによって出力された。ただ、計算時間が思ったより長く、26時間ほど掛かっていた。その後、早速黒の転移点の計算を開始したが、予定の出発時間までに終わらない可能性も出てきていた。

 そのまた翌日は、梅雨の合間の晴れ間という感じの天気でよく晴れていた。ルコ達は出発に備えて少し早い昼食を取っていたが、前日の懸念通り、計算がまだ終わっていなかったので白と黒の計算結果が一致するかどうかの判定ができないでいた。

「まあ、今は楽しく食事を取る事にしましょう。これがみんなで取る最後の食事になるかもしれないしね」

 ルコは気を取り直すようにそう言った。

「仮に計算結果が出ないうちに出発しても離れた位置から知る事ができるのじゃろ?」

 遙華はルコに確認してきた。

「ええ、大丈夫よ」

 ルコはそう答えた。

 今朝、スパコンとネットワークの接続作業が終了し、スパコンの端末まで行かなくてもこの車から計算状況が確認できる事を確認していた。

「なら、安心じゃな」

 遙華はそう言ったが、今一な雰囲気だった。

 計算結果は気になるが、それは大した問題ではなかった。もしかしたら、今日でお別れになるかもしれないという事が現実に近付いている今、寂しさもあってどうも会話が弾まなかった。寂しさのあまりか、食事の方もあまり喉が通らなかった。ただ、今後の事を考えて、四人は流し込むように食事を摂っていた。それがまた更に寂しさを増大させていた。

 そんな寂しさの中、食事が終わり、12時まで中途半端な時間が残された。四人は完全に沈黙してしまい、場の雰囲気が重苦しくなると同時に寂しさが更に増大していった。いっその事、このままこの世界に残ろうかという言葉が4人の誰もが喉まで出掛かっていたが、その都度、その言葉を飲み込んだ。これまでの議論を否定する事になるし、仮に4人ともここで天寿を全うする事ができてもお互いの寿命の大きな違いから不幸になる事が明らかだったからだ。

 時計を確認すると、12時3分前だった。3分前だったが、場の雰囲気もこんな感じだったのでルコは出発の合図を出そうとした時、

「皆様、計算結果が出ました。ご確認下さい」

とマリー・ベルが報告してきた。

 4人の目が計算結果を映し出している前方の画面に向けられた。

「えっと、これはどう解釈したらいいのかしら?」

 ルコはもの凄い数の数字の羅列に困惑した。

 計算結果は、各自のそれぞれの世界にいた場所の座標を11個の数字で表されており、数字は意図的に整数にされており、全てが100桁というとんでもない代物だった。

「失礼しました。今から各値の差を表示致します」

 マリー・ベルはそう言うと、とんでもない数の数字の羅列から一気にシンプルになった数字の羅列に切り替えた。

「ぱっと見た感じだと、一番大きい数字が16だけど、これはかなり一致していると考えていいのかしら?」

 ルコはマリー・ベルにそう聞いた。

「はい、仰るとおり、一般的には一致という結果になるかと推察されます」

 マリー・ベルの言い方は完全だった。確かに100桁の計算値の内の誤差が2桁なので一致と言ってもいいのだが、何故100桁全ての数字を表しているのかに計算結果の意図があり、その最後の1、2桁の精度がどれほど意味があるものかを考える必要があったが、理論がよく分からないため、それを考える事はできなかった。

「ルコ、12時過ぎちゃったよ」

 恵那は心配そうにルコに告げた。

「そうね。案2に沿って、南下しましょう」

 ルコはそう言うと、車が動き出した。

「ルコ様、計算結果が一致したと思っていいのでしょうか?」

 瑠璃は不安そうな顔をしていた。

「一般的にはそうなんだけど、16の差って大きいのかな?」

 ルコはどうにも断定する事ができないでいた。南下を指示したのも間違いだったかもしれなかった。

「吾ももっとこう……0ばかりが並ぶんじゃないかと思っていたのじゃ」

 遙華も奥歯に物が挟まるったような感じを持っていた。

「それって、もしかしたら出現時間が違うって事じゃないのかな?」

 恵那はそう指摘した。

 この指摘に対して、ルコはかなりびっくりした。確かに、入力値を決める時、時間を決めかねていたので予測の中央値を使った事を思い出したからだ。

「そうかもしれんのじゃ。いつどこに黒点が現れる事で、それが分かるのかもしれないのじゃ」

 遙華はいち早く恵那の指摘に同意した。

「確かにそうかもしれないわね。入力した地点に現れ、20時ではない時間に出現したら自分達の世界に戻れるかもしれないわね」

 ルコがそう言うと、全員が今日でお別れだという決意を固めると共に、寂しさも覚えた。

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