その4
都市
そんな都市の様子だったが、ルコ達は都市の防衛状況よりもっと知りたい事があったので、都市に入ると一番高い建物の最上階へと傾れ込むように向かった。
「どうじゃ、瑠璃。主の故郷と同じじゃろうか?」
遙華は瑠璃にそう聞いた。
ただ、瑠璃の方は珍しくガラスに貼り付くように外を見ていて、答える余裕すらない様子だった。
そんな瑠璃の様子を見て他の三人は瑠璃が答えるのをじっと待つ事とした。
瑠璃はしばらく風景の位置を何度も見返して自分の記憶と照らし合わせていた。
「瑠璃、あなた……」
ルコは瑠璃を見てびっくりした。目から涙がこぼれ落ちていたからだ。
それに気付いた遙華と恵那もちょっと狼狽えていた。
「え、あ、すみません……」
瑠璃はルコに声を掛けられてからしばらくしてそう言った後、
「まさか妾自身が涙を流すとは思いませんでした」
と意外な事を言って涙を拭った。そして、
「山々の位置などからして、妾の故郷に間違いはありません」
と断言するように言った。
「そう……」
ルコはただそう言った。本当は良かったねと言うべきところかもしれないが、瑠璃の様子からしてその言葉はふさわしいとは思えなかったので、そう言わなかった。
遙華と恵那も瑠璃にどう声を掛けていいか分からないと言った感じだった。
「異世界に来て、自分の故郷に帰る事はもうないと思っていました。しかし、
瑠璃はいつもよりゆっくりとしみじみと語るように言った。
「うんうん」
遙華は瑠璃の故郷が恋しいと言う気持ちに同意しながら瑠璃の背中を優しく叩いた。
「そっか、そんな事を聞くと、あたしも自分の故郷が恋しく感じるわね」
恵那はこの世界で自分の故郷を見た二人を羨ましく感じた。
「恵那、主の故郷はどんなところじゃ?」
遙華が恵那に聞いた。
「うーん。もっと暑くて、前にいた
恵那は説明しがたいようにそう答えた。
「ここからどのくらい離れているのじゃ?」
「分からないわよ」
恵那はちょっと笑いながらそう言った。
「たぶん軽く1000km以上はあると思うわよ」
ルコはそう言った。
「あたしの故郷の位置が分かるの?」
「どの島かは正確には分からないけど、たぶんこの辺だと思うわ」
ルコはホログラムで出した地図の南の島々を指で囲みながらそう答えた。
「やっぱり、ルコって凄いわね。そんな事も分かっちゃうんだ」
恵那は自分の故郷の島々を拡大させながら、その形をまじまじと見詰めていた。
「なんじゃか、どれくらい離れているのか、よく分からんのじゃ」
遙華は恵那の隣で地図を見ながらそう言った。
「ええっと、恵那、ちょっとごめんね」
ルコはそう言って、地図を元に戻して、
「今、いる
ルコは地図を次々と指差しながら説明した。
「そうなのじゃな。それだったら、もの凄い遠いのじゃな、恵那の故郷は」
遙華はびっくりと感心したような表情をしていた。
「そうね、とても遠いね。でも、これで分かった」
恵那はちょっともったいぶるようにしてから、
「
と得心したように言った。
「という事は、じゃ、恵那の故郷はこんなに南にあるのじゃからとても暑いところだという事になるのじゃな」
遙華は遙華で得心したように言った。
「うん。遙華が来たら溶けちゃうくらい暑いかもしれないね」
恵那は笑いながらそう言った。
遙華はその言葉を聞いて、ぐうの音も出なかった。この
「ルコ、主の故郷はどの辺なのじゃ?」
遙華は恵那が優勢になった話題を切り替えるようにルコの話に持って行った。
「たぶんこの辺」
ルコは指差しながらそう言った。
「ふーん。超高速計算機ってやつがあるところは?」
恵那は遙華の話題替えを気にする素振りも見せずにそう聞いてきた。
「それはここね」
ルコは今度は位置がはっきりしていたので、自信を持って指差した。
「わりとルコの故郷とは近いのじゃな」
遙華は位置関係を見てなんとなくそう言った。
「そうね。計算機のところへ行ったついでにちょっと寄れるわね」
恵那はとびっきりの笑顔でそう言った。
「そうね」
ルコは恵那とは対照的に意外と無表情だった。
「どうしたのじゃ?ルコ、主は自分の故郷を見たくないのじゃろうか?」
遙華はルコの無表情を見て驚いて聞いてきた。
「うーん、どうだろう?私の住んでいたところは特徴的な地形がある訳ではないので、行ってもこの位置かなぐらいしか分からないじゃないかな。都市の中心部から離れているから多分森林地帯だろうし、街並みはこっちの世界とは大分違うしね」
ルコは理由をそう説明した。ルコには三人が持っている故郷の概念が薄い事と記憶の曖昧さがこのような淡泊さを表しているのかもしれない。
「でも、行ったら行ったで感慨深くなるんじゃないのかな?」
恵那はルコの気持ちがちょっと分からないといった感じだった。
「うーん、どうだろうね」
ルコは同意しておけば、特に問題がなかった事だったが、記憶の曖昧さからか、何か引っ掛かりを覚えており、思わず本音が出てしまった。
「ルコ、主を見ていると、たまに本当に自分の世界に帰るのを躊躇っているように感じるのじゃが、気のせいなのじゃろうか?」
遙華はルコのその態度を見逃さずに、核心を突いてきた。
ルコは遙華の言葉に大いに驚き、そして、戸惑っていた。当たらずも遠からずといった感じを覚えたからだ。
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