その3

 一行が千代空港に着陸すると、機内で歓声が上がった。少なからず飛ぶ事に対しての不安感があったのだろう。ルコは飛行機が格納庫に入ると共に、玲奈に到着のメッセージを送った。尤も、ルコ達の行動は逐一玲奈にモニタできるようになっていたので報告の必要もなかった。

 飛行機が格納庫内で止まると、ルコ達は自分達の車へと乗り込んだ。そして、それとほぼ同時に飛行機の後部ハッチが開き始めた。

「ようこそ、皆様。歓迎しますぞ」

 ルコ達が前部区画の席に着いた時に、ビデオチャットが入った。映像には初老の男性が映し出されていたので、四人はびっくりした。

「わしは都市千代ちよの長老です。皆様を迎えに参りました」

 長老は尚も話を続けた。

 千代ちよから迎えが来ると聞いていたが、長老自ら来るとは思っても見なかった。ただ気になるのは、異世界人は女性ばかりと聞いていたのだが、目の前にいるのはどうみても男性だったので、四人はとても気になった。

「ああ、わしは異世界から来た人間ではないのでな。この世界で生まれた人間ですぞ」

 長老は四人の怪訝そうな顔から察したのか自ら説明してくれた。

「この世界の人類は滅んだと聞きましたが……」

 ルコはまだ驚きを隠せないでいた。

「その認識は間違っていませんぞ。わしの祖母は二人とも異世界人でしたし、曾祖母の内の二人も異世界人でしたので。つまり、純血という観点で言えば、前人類はこの世界にもう存在しない事になりますし、わしも異世界人の血縁の方が圧倒的に多いですぞ」

 長老は更にそう説明した。

「つまり、別種の人類という事ですか?」

 ルコの驚きは更に増していた。

「簡単に言ってしまえば、そういう事になりますな」

 長老から特に憐憫さは感じられなかった。ただあるがままを受け入れているとも取れた。

 そんな長老を見て、四人は顔を見合わせながら戸惑っていた。

「まあ、色々聞きたい事があるだろうが、それは道すがらという事で」

 長老は柔和な表情で次の行動へとルコ達を促した。

 ルコ達の車は長老と話している内に飛行機の中から出ていた。

「まあ、そうじゃな」

 遙華が気を取り直すようにそう言うと、

「ひこうきのまりぃ、世話になったのじゃ」

と飛行機のマリー・ベルにお礼の挨拶をした。

「そうですね。とてもいい旅でした。ありがとうございます」

 瑠璃も遙華に続いて礼を言った。

「うん、とても面白かったわ。機会があったらまた乗せてね」

 恵那も瑠璃に続いて別れの挨拶をした。

 挨拶をし終わった三人はルコの方を見た。

 ルコは三人の視線を一身に受けて、え?私?という顔をした。ただ、機械に話し掛けるのはルコにはちょっと照れる感覚があったが、じっと見られているので、

「ええっと、ありがとう。お達者に」

と最後に訳の分からない言葉を付け加えてしまった。

「皆様、こちらこそありがとうございました。この後の道中、お気を付け下さいませ」

 飛行機のマリー・ベルはそう返礼してきた。

 ルコ以外の三人は素直に頷いたが、ルコはまともな挨拶をしてきた飛行機のマリー・ベルに負けた気がしていた。

「それでは、我らは出発するとしますぞ。付いてきて下され」

 長老がそう言うと、一行は出発した。

 長老を乗せた車に、ルコが続き、その後に護衛と思われる一台の車が続いた。

 一行はすんなりと空港を出て、北に直線距離で13kmにある都市千代ちよへと向かった。

「空港にも人が常駐しているのですね」

 ルコは空港を出るとそう口を開いた。空港に人が残っているようだったからだ。

「はい。一つの都市だけですと、防衛が難しいので、支城の様な感じで活用しておりますぞ。それに、今回、ルコさん達が空路を開通させてくれたお陰で、戦略的にも大変重要な空港都市としての機能が加わりましたぞ」

 長老はほくほく顔でそう答えてきた。

 そのほくほく顔と玲奈から返ってきた「万事順調、なにより」というメッセージを見て、ルコは苦々しく思った。今回の全面的な支援は鶴亀つるかめ千代ちよ間の航路実験が主眼ではないかと感じたからだ。まあ、ルコが感じただけではなく、本当にその通りだったので身も蓋もない話になってしまうのだが。

 とは言え、ルコ達の目的の手助けになってのでWin-Winの関係という事でよしとしようかとも考えた。お互いの空港もめでたい名前だし。

「空港都市以外にも支城はあるのでしょうか?」

 瑠璃は長老に質問した。

「ええ。都市千代ちよから北東に直線距離で約13kmのところに、支城都市があります」

「やはり、そうですか……」

 瑠璃は何故だか答えを予想していたようだった。

「猪人間の村の配置はどうなっているのじゃ?」

 今度は遙華が聞いた。

「空港都市の南西に直線距離で約7kmの地点と、支城都市の北にやはり直線距離で約6kmの地点に数百規模の村がありますぞ」

「西の方は?」

「ありません」

「となると、都市千代ちよに対しては直接的な脅威はないのじゃな。位置的にはいいところじゃな」

「今のところはそういう事になりますぞ。ただ、南方向に100km行きますと、猪人間の密度がどんどん高くなっていきますぞ」

「高くなるってどのくらい?」

 恵那がそう質問した。

「村というより、町、いや、都市と言うべきか、中には万単位の集団も存在するという事ですぞ」

「うげっ」

 恵那は露骨に嫌な顔をした。恵那だけではなく、他の三人もそんな顔をしていた。

 そんな中を突破してスパコンの元に辿り着けるのかという不安がルコを襲っていた。

「さてと、川向こうが都市千代ちよですぞ」

 長老がそう言うと、川向こうに都市が見えてきた。

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