その4
玲奈の部屋に通されて、ルコと遙華はソファに腰掛け、低いテーブルを挟んで向かい側に玲奈が座っていた。出されたお茶はそば茶だった。
「すみませんね。もう少し早くこうしてお話ししたかったのですが、色々と立て込んでしまいまして」
玲奈は落ち着いた感じでそう口を開いた。
「大変なところ、ありがとうございます」
ルコはそう言ったが、実のところ玲奈の本当の大変さを分かってはいなかった。
「実は一昨日、新たな人達がやってきましてね。それで遅くなってしまったのです」
玲奈は落ち着いて言っていたが、ルコと遙華はびっくりしていた。新たな人がやってきたと言う事を初めて聞いたからだった。
「結構頻繁に他の世界からやってくるのじゃろうか?」
遙華はそう聞いてみた。
「そうですね。頻繁かどうか分かりませんが、1,2週間に1回はそういう事がありますね」
「それはかなりの頻度じゃな」
遙華がそう断言したので、今度は玲奈の方が驚いていた。そして、
「あなた方はそういう場面に出会った事はありませんか?」
と逆に聞いてきた。
「ないのじゃ」
遙華は即答した。
「成る程……」
玲奈はルコと遙華がこの現象を珍しがる意味が分かった。
「異世界からこの世界にやってくる現象があるのなら、逆の現象もあると思うのですが、それはあるのでしょうか?」
ルコは玲奈に本題を聞いた。
「逆の現象は、公式には確認されていないようです。尤も確認のしようがないと言った方が正しいでしょう。向こうに行った人と連絡が取れれば確認ができるのですがね」
玲奈はルコにそう答えた。
「公式には確認されていないとの事ですが……」
ルコは公式にはという言葉に引っ掛かりを覚えたのでそう言った。
「そうです。『公式には』で、色々な文献に当たってみると、実はそうでもないのです」
玲奈は少しニッコリと笑ってそう言ってから、
「異世界移動に関してはかなりの研究が行われていたようですが、理論の確立までは程遠かったようです。私の専門は化学系だったので、この手の物理系には詳しくはないのですが、調べていく内に何件かの興味深い文献を発見しました。ファイルにまとめましたのでそちらにお渡しします」
と続けて説明して、ホログラム上で玲奈はルコにファイルを渡した。
ルコはポログラムでコピー完了と言う表示を確認した。
「専門がどうたら言っていたが、吾には分からないのじゃが」
遙華は首をひねりながらそう言った。
「ああ、遙華さんはこの世界に近い世界から来たのではないのですね」
玲奈は意外そうな顔をした。
「そうなんじゃ。吾はこの世界に来て戸惑うばかりじゃったが、ルコがいてくれたお陰で何とかなったのじゃ」
遙華はしみじみとそう答えた。
「成る程」
玲奈は唸るような感心したような口調でそう言った後、
「ルコさんは、この世界に近い世界から来たのですよね?」
と聞いてきた。
「多分そうなんですけど、研究所の文献は私には難しすぎて分かりませんでした」
ルコはちょっと済まなそうに言った。期待されすぎたという感じを受けたからだ。
「そうですね。ルコさんはまだお若いからこれから勉強していくといった感じですね」
玲奈はルコをまじまじ見ながら自分の認識を改めるようにそう言った。そして、
「他のお二人はどうなのでしょうか?」
と続けて聞いてきた。
「瑠璃と恵那は、この世界の事に関しては、吾以上にルコに頼りっきりってところじゃよ」
遙華はちょっと自分を持ち上げるように言った。
「そうなんですか……」
玲奈は遙華の言葉を聞いてかなり意外そうな顔をしてから、
「でも、よく生き残ってこられましたね」
と感心したように言った。
「それは私以外の戦闘能力が高かったからです」
「それはルコの指揮能力が高かったらじゃ」
ルコと遙華は同時にそう答えて、えっと顔をしてお互いの顔を見合わせて、
「それは違うわよ」
「それは違うのじゃ」
とまた同時にお互いの意見を否定していた。
それを見て、玲奈は思わず笑ってしまった。
ルコと遙華は玲奈に笑われてばつの悪そうな顔になり、口をつぐんだ。
「すみません。今のやり取りであなた方が何故生き残って来られたのかがよく分かりましたので、つい」
玲奈は笑うのを止めて真面目にそう言った。
ルコと遙華にとってはどういう事なのかさっぱり分からなかったので、お互いの顔を見合わせるばかりだった。
「あ、すみません。急ぎの用事が入っていまいました」
玲奈は急にそう言った。インカムから急報が入ったらしかった。そして、
「もう少しお話ししたかったのですが、すみません。また、機会を作りますので、その時また異世界移動の話をしましょう」
と続けた。
「分かりました。私達はこれで失礼します。ありがとうございました」
ルコはそう言うと、遙華と共に何の成果も得られずに玲奈の部屋を後にした。
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