その3
その三日後、ルコ達はやむを得ず玲奈達の戦闘に参加した。その理由の一つとしては、猪人間が逃げる場合、都市
猪人間の数約2000に対して、玲奈達は40台の車両で西側に対峙する形になった。ルコ達は1台で、北側に位置していた。
「吾らは全く期待されていないのじゃな」
遙華は吐き捨てるように言った。
インカムからたまに聞こえてくるルコ達への評判はあまり芳しくなかった。
「まあ、全く期待されていない方がこちらとしても好都合じゃない?」
ルコはにこやかにそう言った。
「ルコ、あたし達の会話は聞かれているの?」
恵那がルコにそう聞いてきた。
「いいえ、この車内のみよ」
「能ある鷹は爪を隠すですわね。今回はあまり目立たないほうが確かによろしいと思いますわ」
瑠璃はルコのやり方に賛同した。
四人がそんな会話をしている間に戦端が開かれた。数で押そうとする猪人間に対して、玲奈達は爆弾を投げつけるなど、優れた武器を用いる事で対抗していた。激しい戦闘が繰り広がられ、一進一退と言った感じだろうが、武器の性能の差で猪人間の犠牲者数の方がはるかに大きくなっていった。
「さて、戦いが始まったのじゃが、吾らは何をすればいいのじゃ?」
遙華はルコに素朴な疑問をぶつけてきた。
「そうね、遊撃隊として参加してくれと言われているけど、具体的な事は何も言われてないのよね」
ルコはまるで他人事のように言った。
「それはそうかもしれませんが、何もやらないという訳には行かないと思いますわ。その方が返って悪目立ちしますし」
瑠璃はいつものおっとりとした口調でそう言った。
「それもそうなんだけど、私達だけではあの大軍に何かしようとしても明らかに無理があるわ。ここはじっくりと観察する方がいいと思うのよ」
ルコがそう言うと、四人で前方の敵を思い思いで観察し始めた。
「あれ、何?」
恵那が何かを見つけたらしく、指差したものを拡大投影させた。
「動物の皮のようじゃが?」
遙華は恵那の指差したものを見てそう言った。
それは何やら柵が建てられており、まるで外から見えないように皮で覆いがかけられているように見えた。
「これ、敵の本陣ですわね」
瑠璃は自分の経験上からすぐにそう結論を下した。
「本陣?!」
瑠璃の言葉に瑠璃以外の三人がハモった。
「ええ。間違いないでしょう。敵はこれまで以上に組織だったものと言えると思います。武器性能が遥かに勝るこちらの攻撃と互角に戦っているのがその証拠と言えましょう」
瑠璃は続けて現状の説明をした。やはり、この辺は一軍を指揮した事のある経験からだろう。
ルコは自分より年下なのに自分より経験豊富な瑠璃を改めて尊敬した。これは遙華も恵那も同じように思っていた。
「さて、じゃあ、あれを狙撃しましょうか」
ルコは瑠璃の一連の説明からそう決断した。
「でも、あの覆いで中が見えないよ」
恵那がそう指摘してきた。
「敵の指揮系統を圧迫すればいいだけですので、必ずしも当てる必要はありませんわ」
瑠璃が恵那の指摘にそう答えた。
「敵はこちらに気付いていると思うのじゃが」
今度は遙華が指摘してきた。
「そうね、間違いなく気付いていると思うわ。マリー・ベル、別働隊がこちらに向かってきている様子はない?」
ルコは遙華の指摘に頷いてからマリー・ベルに尋ねた。
「現在、こちらに接近してきている猪人間は存在しません」
「戦力的には大した事がないと判断されているみたいね」
「それはそれで、こちらに有利に働きますね」
ルコは苦笑していたが、瑠璃はそう指摘した。確かにこちらに有利になれば、後は大した問題ではない事だった。
「どのくらい近付けばいい?」
ルコは三人に聞いた。無論、ルコは狙撃に参加する気はなかった。参加するだけ、無駄だったからだ。
「人を撃つわけではないので、500で十分だと思います」
瑠璃がそう答えた。
「吾もそれで十分じゃ」
「あたしは500でも当てられるけどね」
遙華と恵那も瑠璃に同意した。
「マリー・ベル、500までゆっくりと近付いて。敵が向かってきたら全力で逃げるわよ」
ルコはそう指示を出した。
「はい、承りました」
マリー・ベルはそう答えると、車をゆっくりと敵の本陣に近付けていった。
ルコ以外の三人は銃を構えてその時を待った。ルコは三人の後ろで邪魔しないようにしていた。ルコが参加しない事は既に暗黙の了解になっていた。撃っても当たらないので無駄を省くのが一番適切な行為だとの認識が完全に浸透していた。
「距離500です」
マリー・ベルがそう言うと、車が停車した。敵がこちらに向かってくる気配は全く無かった。
「射撃開始!」
瑠璃の号令とともに、ルコ以外の三人が銃撃を開始し、容赦なく撃ちまくった。
弾は次々と覆いに着弾し、覆いを撃ち抜いていった。
覆いの中にいた猪人間達が慌てて逃げ出していくのが映像に映っていた。作戦は成功のようだった。
三人は弾倉が空になるまで撃ち続けたが、敵が反撃してくる様子はなく、また、もう覆いの中から出てくる猪人間もいなかった。
「安全圏まで撤退!」
ルコはすぐにそう判断すると、車は急速に後退していった。
この時のルコ達は知らなかったが、この攻撃による指揮系統の崩壊により猪人間達の戦線は一時的に大混乱して大損害が出ていた。ただ、まだ決着が着くほどのものではなかった。
損害は玲奈達が2台撃破され、猪人間が約500匹が死傷により戦闘不能になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます