その4
第2戦はその日の夜中、というより日が変わる寸前に開始された。
「猪人間が100体ほど急速に接近中です」
就寝している四人にマリー・ベルが急報を入れてきた。
この報に四人は飛び起きて作業区画へと駆け出した。
「マリー・ベル、この事を玲奈さんに知らせて」
ルコは駆け出しながらそう言った。
「はい、承りました」
マリー・ベルはそう答えてから、知らせたみたいだった。
作業区画に入ると、ルコはパジャマの上から装備を身に着けながら周辺地図で状況を確認していた。敵は4隊に別れていて、こちらを包囲しようとしている事は明白だった。
「こちらの位置を完全に把握していますね」
瑠璃は重大な事をいつものおっとりした口調で言った。
ルコ達は建物に潜伏しているつもりだったが、バレバレのようだった。
「マリー・ベル、建物から車を出して!」
ルコは瑠璃の言葉に即座にそう反応した。
「はい、承りました」
マリー・ベルはそう言うと車の移動を開始した。
「みんな、前部区画で迎撃するわよ」
ルコはそう言うと、前部区画に駆け出した。
その後を三人が追っていった。
「12時の方向、数25、距離400です」
前部区画に辿り着いた四人にマリー・ベルがそう報告してきた。
「射撃開始!」
瑠璃はすぐにそう号令すると、ルコ以外の三人が銃撃を開始した。
前方の敵の足が一時的に止まったが、すぐにこちらに向かってくる動きに変わった。余裕のない銃撃だったので、三人はうまく照準が定められなかった。緒戦は完全に押され気味だった。
「なんかすごい勢いね」
恵那は銃撃しながら苦戦しているようだった。
「ええ、そうですね。無視される存在から真っ先に叩き潰す存在へと格上げされたみたいですね」
瑠璃は珍しく冗談交じりにそう言った。苦戦している影響だろう。
「それは大変光栄な事じゃな」
遙華は苦笑しながら瑠璃にそう答えた。遙華も苦戦しているという認識があるのだろう。
「冗談言っている場合じゃないかもね」
恵那は好転しない戦況の中、そう言った。
「全くじゃ!」
遙華はそう言うと必死に敵の勢いを止めようとしていたが、敵はジリジリと近付いてきた。
ルコはじっと周辺地図を見ていた。このまま行くと完全な包囲下に置かれるのは時間の問題だった。
「微速前進!」
ルコはそう指示すると、2丁拳銃を取り出して、前に歩き出した。2丁目の拳銃は遙華からの借り物ではなく、実は都市
「1番から4番は私に任せて。5番は恵那、6番は瑠璃。遙華は作業区画へ行って」
とルコは次々と指示を出した。番号は狹間の番号で、1から4は前方で、5は左側の前方ドア、6は右側の前方ドアにある狹間だった。
ルコ以外の三人はようやくルコが次の手を打ったという顔をして、それぞれの場所へと移動していった。
「三人は側面に回り込んでくる敵に集中して。正面が薄くなったところを突破を図るわよ!」
ルコがそう言う頃には三人は既にそのような体制を取っていた。
三人の銃撃が無くなった正面の敵はチャンスとばかり一気にルコ達の車に突撃してきた。しかし、ここでもルコのゼロ距離射撃が火を吹いた。
嬉々として突っ込んできた猪人間達は何が起きたか認識する前になぎ倒せていた。
ルコの方は、倒れた敵の数の分だけ、車の速度を上げさせた。そして、ついには正面突破に成功した。
残された正面の敵は三方から包囲しようとした敵とルコ達の車の後方で合流したが、完全に包囲網は崩れ去ってしまっていた。
それを尻目に、ルコは車を加速させ、十字路を右折し、しばらく直線に進んだ後に十字路を更に右折し、都市
戦闘の主導権を握られた猪人間達はわらわらとルコ達を追っていくしか手がなく、縦列状態になっていった。それに対して、車両後部に移ったルコ以外の三人の銃撃がこれまた文字通り火を吹き、容易に近付けなくなっていた。
ただ猪人間達もただ撃たれ続けているだけではなく、近付けなくなったと感じた途端に隊を3つに分けて、それぞれ違う道を使ってルコ達を追った。
対応されたルコ達は追い込まれると思われたが、それも織り込み済みだった。ルコ達の車は橋を渡ると対岸で対峙した。この橋は都市
猪人間達がこの橋を渡るのを躊躇している間に、ルコ以外の三人は対岸からの狙撃を開始した。実に嫌な攻撃の仕方だった。
なぎ倒された仲間達を見て、猪人間達は対岸からの攻撃を潰そうと、橋を渡り始めたが、今度は渡っている最中にルコ以外の三人からの銃撃に晒された。それでも、数に勝る猪人間達達は犠牲を払いながらも対岸に渡る事ができたが、今度はルコのゼロ距離射撃の餌食になっていった。だが、それでもやはり数に勝る猪人間達達は尚も果敢にルコ達の車へと突撃していった。
ルコ達は猪人間の数が捌き切れなくなる前にあっさりとそこから離脱していった。
離脱して西2km先にある橋へ向かっていった。猪人間達は完全に後手に回り、翻弄されるがままの状態だった。
「玲奈達の援軍は到着するのじゃろうか?」
遙華は橋に向かう途中でポツリと呟いた。
「玲奈様達の部隊は村18に進軍中です」
マリー・ベルは残念な知らせをもたらした。
「薄情なやつじゃな!」
遙華はその報告を聞いて呆れて叫んだ。
「まあ、村の方の抑えに回ってくれるのならこれ以上の援軍はないという事よ」
ルコは期待していなかったので結構あっさりしていた。
「敵の攻勢に耐えきれない時はどう致します?」
瑠璃は尤もな事を聞いてきた。
「
ルコはそう答えた。
ルコ以外の三人は次の手まで考えているルコを見て安心したようだった。
車は追いすがる猪人間達達をよそに左折して一気に橋を渡り切った。そして、再び対岸に対峙する形になり、攻防の仕方も先程と全く一緒になっていた。
ルコ達がいつも使うループ状に動きながら敵に痛打を加えていく戦法だが、ルコのゼロ距離射撃が加わったのでより威力が増していた。猪人間達は今度の橋を渡り切り、ルコ達が再び川に沿って次の橋に向かった時には、すでに戦意を喪失して別ルートで撤退していった。
ルコ達の奮戦により、この戦いでの戦果は猪人間達は約100匹が戦闘不能に陥り、また、玲奈達の方は1台撃破されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます