その2

 翌日、ルコは装甲車のメンテナンスを行おうとしていた。

「現在、修理点検工場は使用中です。また後日になさって下さい」

 杏がインカムを通じて素っ気なく言って通信を切った。

 したがって、この日のメンテナンスはできなかった。


 翌日、ルコは補給物資を得ようとしていた。

「現在、倉庫には何もありません」

 杏がインカムを通じて素っ気なくそう言って通信を切った。

 したがって、この日の補給はできなかった。


 翌日、ルコは再び装甲車のメンテナンスを行おうとしていた。

「現在、修理点検工場は使用中です。また後日になさって下さい」

 杏がインカムを通じて素っ気なく言って通信を切った。

 したがって、この日のメンテナンスはできなかった。


 翌日、ルコは再び補給物資を得ようとしていた。

「現在、倉庫には何もありません」

 杏がインカムを通じて素っ気なくそう言って通信を切った。

 したがって、この日の補給はできなかった。

「ルコ、いい加減気付くのじゃ!やつら、吾らに嫌がらせをしてるのじゃぞ!」

 遙華はこの5日間、相手の言う事を唯々諾々としているルコにズバッと言った。

 当然、ルコもその事に気付いてはいた。

「そうよ、ルコ!恩知らず共にガツンと言ってやらないと!」

 恵那は烈火のごとく怒っていた。恵那はこういう嫌がらせは最も嫌いな事だった。

「ルコ様、ここは断固として抗議するべきです」

 瑠璃も珍しくこの理不尽さに怒りを感じていた。

「まあまあ」

 ルコは何故かニッコリ微笑んでいた。

ルコにとっては実はこういう事は慣れっこだった記憶があったので、気にする必要はないと思っていた。また、今回の場合はこの都市抜消ぬけしを早々に立ち去る予定だったのでルコは相手の嫌がらせを気にもしなかった。更に言えば、戦闘能力の上ではどう贔屓目に見てもこちらの方が上だったのでいざとなれば強硬手段に訴える覚悟もあったので平然としていた。

 ただルコ以外の三人はこの理不尽さに対してはルコのように思っていなかったようだ。

「ルコ、主、このままでいいと思ってるんじゃなかろうなぁ」

 遙華は何故か微笑んでいるルコに詰め寄ってきた。

「そうよ、ルコ!あのバカどもにはっきりというべきよ!」

 恵那がやはり一番怒っていた。

「ルコ様!」

 瑠璃も瑠璃でルコに詰め寄ってきた。

 そんな三人を見て、何故かルコはニッコリと笑った。

 それを見た三人はルコが真剣に取り合っていないと感じ更に詰め寄ろうとしたが、

「良かったわ、みんな。元気になって」

とルコが嬉しそうに言ったので、一瞬三人は詰め寄るのをたじろいだ。そう、何を言い出しているのかが分からなかったからだ。

「戦闘の後、私を含めてみんな元気なかったじゃない。ある意味、廃都市の火攻めの戦闘後以上にみんな落ち込んでるように見えたからね」

 ルコはそう続けた。

 三人はルコの言葉を聞いて益々訳が分からなくなり、互いにどういう事なの?という感じで顔を見合わせた。

「でも、こうやって怒る事によって、完全に元気になったみたいだしね」

 ルコの言葉に三人はやられたと感じて、何かいたたまれない気持ちになったり、恥ずかしい感じになったりと複雑な思いをしていた。ただ次の瞬間、

「ルコ!」

「ルコ!」

「ルコ様!」

と遙華と恵那と瑠璃は同時にしてやれれたルコに対してメラメラと怒りのようなものを感じた。実際のところ、怒りとはちょっと違っていたが。

「ごめん、ごめん。弄ぶつもりではなかったのよ」

 ルコは慌てて三人を宥めに掛かった。

 三人はそう弄ばれたという感じが一番しっくり来ると感じた。つまり、ルコの言葉が火に油を注いだ感じになっていた。

「ルコ!」

「ルコ!」

「ルコ様!」

 三人は再びルコに詰め寄ってきた。

「あのぉ、そのぉ、申し訳ございませんでした」

 ルコは三人の迫力に平謝りする他なかった。

「で、どうするのじゃ?」

 遙華は迫力ある口調でルコに迫ってきた。

 どうするのじゃ?って何という顔をルコをしていた。

「今後、どうするのかよ!」

 恵那は圧倒するような口調でルコに迫ってきた。

「あ、はい、それはですね。やっぱり研究所の方へ向かおうと思うのです」

 ルコはあまりの圧力に手揉みをしながら丁寧語で答えた。理不尽から逃げ出す能力を身に着けていたが、この時は逃げ出せずにいた。というより、これは自分の身から出た錆のような気もしていた。

「それでまさか、妾達以外の皆様にお伺いを立てたりしませんよね」

 瑠璃は悪人のような微笑みを浮かべていった。お姫様が悪人面になると身の毛のよだつような感じがした。

「え、あのぉ、それはお話はさせて頂きますよ……」

 ルコはちょっとビビりながら話し始めたが、それを遙華が遮って、

「お話が通らなかったらどうするのじゃ?」

とまた幼女とは思えぬ迫力で迫ってきた。

「もちろん、それでも出発いたします」

 ルコは段々と汗だくになってきた。

「邪魔される事も考えられるわよね」

 一番怒っていた恵那がルコの顔に自分の顔を近付けて睨みつけてきた。

「強引にでも出発いたします」

 ルコはあまりの怖さに恵那から顔を背けてしまった。

「本当ですわね?」

 ルコが顔を背けた先に悪巧みの笑顔を浮かべた瑠璃が真正面から聞いてきた。

「はい、誓います!」

 ルコは思わず目を瞑ってしまったが、そう宣言した。

「そう」

 三人はハモるようにそう言うと、ニッコリと微笑んでいた。ようやく納得がいく回答が得られたのとルコの様子から大分反省したものと受け止めてこれ以上の意地悪を止めたのだった。

 ルコはようやく三人の追求が終わってホッとして、三人を怒らせるのは今後辞めようと心に固く誓うのだった。

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