17.傲慢

その1

 ルコ達を含む4グループは都市仲区ちゅくを脱出した後、直線で東に128kmある都市抜消ぬけしに辿り着いていた。途中、1000m級の峠を越えなくてはならなかったのは車にとって厳しかった。しかし、猪人間達の仲区ちゅくからの追撃がなかった事と、道中、放浪種に遭遇しなかった事で平穏だったと言えた。

 移動中、ルコ達四人は寛菜を始め、多くの人を助けられなかった自分達の不甲斐なさと良心の呵責に時間を追う事に苛まれ始め、それはどんどん精神的に追い詰められる結果となっていた。そう言った事もあり、休憩と称して四人は自分のベットに引き篭もるように一人っきりになっていた。それは大規模戦闘の後に必ず来る鬱の時間のようになっていた。

「皆様、都市抜消ぬけしに到着しました」

 マリー・ベルは都市の中央に達して停止して四人にそう言った。

 しかし、四人は誰も答えなかった。ベットにいたからといって四人とも寝てはいなかった。むしろ、一睡もせずに虚ろな目で閉まっているベットのシャッターを見ているという共通点さえ四人にはあった。そして、ただただ疲れて、何もする気になれないという点も共通認識だった。

「ルコさん、これからは秩序に従ってもらいます。仲区ちゅくのように勝手な行動は現に謹んでもらいますから。これからは先達である私、杏が全てを取り仕切りますので、命令には従ってもらいます。また、何かやる場合は必ず私の許可を得て下さい。以上です」

 杏はインカムを通じて一方的にそう宣言してきた。

 仲区ちゅくにいた時とは打って変わってものすごく強気に出てきたのは景と順のグループとも話がついていたせいだろうと推察が簡単についた。

「何が以上じゃ!異常な事を言っているのはそっちじゃろ!」

 遙華は杏の宣言を聞いてシャッターを開けてベットから飛び出してきた。

「何様のつもりよ!助けてもらっておいて!」

 恵那もシャッターを開けて怒鳴り声を上げて、ベットから降りてきた。

 瑠璃は何も言わずにベットから降りてきたが、怒っているのは確かだった。

 しかし、ルコは何の反応も示さなかった。それどころか、ベットから出てくる気配さえなかった。

「おい、ルコ、どうしたのじゃ?奴らに何か言い返してほしいのじゃ」

 遙華はそう言いながらルコのベットのシャッターをコンコン叩いた。ただ、ルコが出てこなかったので怒りのテンションが急激に下がっていった。

「そうよ。ルコ、いつもみたいに何か気の利いた事で言い返しなさいよ」

 恵那の方はまだ怒りが持続しているようだった。

「あのぉ、ルコ様、大丈夫ですか?」

 瑠璃の方はすっかり怒りを忘れたように、出てこないルコの心配をしていた。

 まさに三者三様だったが、ようやくルコはシャッターを開けた。

「ルコ」

「ルコ!」

「ルコ様?」

 三人はベットの隅で膝を抱えてうずくまっているルコの顔を覗き込むように迫った。思いは三者三様だったが。

「仕切ってくれるというのならむしろ有り難く思うわよ」

 ルコは杏に対して怒りを覚えなかった。むしろ、本当に面倒事を引き受けてくれてありがたいと思っていた。

「ルコ、主……」

「ルコ、それでいいの?」

「ルコ様、お人が良すぎるのでは?」

 覇気のないルコを見た三人は平常心に戻っていった。

「マリー・ベル、周辺地図を出して」

 ルコはマリー・ベルにそう言うと、ルコのベットの壁に周辺地図を表示させた。そして、

「見てのとおり、都市抜消ぬけしの周辺には猪人間の村がないわ。というより、都市仲区ちゅくの近くにあった村26が一番東で、村28が北限みたいなのよ。現にここまでの道中に猪人間の村は一つもなかった事だし、この都市は安全と言えるわ」

と地図を使って説明をした。

「それは分かるんじゃが、主導権を渡していいんじゃろうか?」

 遙華は消極的にだが異議を唱えた。

「あいつら、戦闘では役に立たなさそうだし、あたしは反対よ」

 恵那は尤もな事を言って反対した。あまりこのような事を言わない恵那が珍しくこういう事を言うという事は、今回は杏のやりようにかなり腹を立てているようだった。

「彼らは味方だし、そんなに心配する事はないと思うけど」

 ルコは他の三人とは違って能天気だったかもしれない。

「ルコ様、お人が良すぎですわ」

 瑠璃はちょっと呆れるようにルコに言った。

「そう?」

 ルコは瑠璃に言われた事を受け流すようにそう言ってから、

「でも、仲区ちゅくでの戦いでの彼女達の扱い方が酷かったのは事実だし、それで今度は彼女達が自衛手段としてああ言ったのかもね」

と三人を説得するように言った。

「ルコ、主、なぁ……」

 今度は遙華が呆れてしまった。

「それはあいつらに任せておいても碌な事にならないからでしょ!それはちゃんと自覚させておくべきよ!」

 恵那はいつになく強硬だった。

「まあまあ、色々あるけど、味方同士で喧嘩しても仕方がないしね」

 ルコは恵那を宥めた。ただ、恵那の言う事は間違っていないどころか、正しかったのだが、ルコは波風を立たない選択をした。

「それはそうなんだけど……」

 恵那はルコに対して怒っているわけではないので、気が削がれてしまった。

「それでは、今はお言葉に甘えて休憩させていただきましょう」

 ルコは三人を説き伏せるというより呆れさせて、事を丸く収めたのでニッコリと笑ってそう言った。

 ルコにとってはグループ間の調整役で苦労する心配があったのでこうした対応をしたが、他の三人は他のグループからイチャモンを付けられる事を心配していた。

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