13.拒絶
その1
次の日の朝食はまた雰囲気が重かった。口数はほとんどなくなり、四人は黙々と食べていた。
そんな中、ルコは他の三人を観察していた。三人共自分達の世界でも戦闘経験があり、戦闘後のメンタル面は強いと思っていたが、すぐに切り替えは難しいらしかった。特に、昨日みたいな戦い方はやはりダメージが大きいのだろうと思った。作戦を立てたルコでさえ、罪悪感を覚えていた。ただ、まともに戦っていたら酷い目にあっていたのは間違いがなかったのでその点では間違ってはいないとルコは思っていた。
そう考えると、むしろルコの方がメンタル面での回復は早かったと言える。これは元来の資質なのか、記憶が曖昧なせいで現実感覚が著しく薄いせいかは分からない。また、それがプラスに作用しているのか、マイナスに作用しているかも現時点では分からなかった。
朝食後はいつもなら射撃訓練をするのだが、ルコ以外は訓練を行わなかった。それについてルコは特に何も言わなかったが、自分の射撃の腕が全く上達する気配もないのには辟易していた。
昼食前に、本来は車の修理・交換部品として保管していたものを前日の火攻めで使用してしまったので、それらの物品と同時に食糧を補給した。
作業中はいつもの持ち場に就いてはいたが、朝食の時と雰囲気は変わらなかった。その様子を見て、さてはてどうしたものかとルコは思ったが結局は何もする事ができなかった。
そして、昼食も朝食と同じ雰囲気で終わってしまった。
ただ昼食後、この話をしない訳には行かないので、片付けが終わった後にルコは意を決して、今後の方針を話し合う場を設けた。場の雰囲気的にもそんな状態ではない事は重々承知していたが、襲撃があってからでは遅いのである。
「みんな、今後の方針を決めたいと思うんだけど」
ルコは初めにそう言った。
ルコの言葉を受けて、四人はいつものように作業区画でちゃぶ台を囲んだ。
ちゃぶ台にはいつものように周辺地図が表示された。都市
以上の事を一通り説明し終わると、
「おそらくこの都市には長くいられる可能性が高いと思うわ。ただ気を付けるのはやはり放浪種の事ね」
とルコは話の締めに掛かっていた。
「放浪種から逃げる事態に陥った場合、やはり北に逃げるのですか?」
瑠璃はルコにそう質問した。メンタル的にはまだ回復してはいないようだったが、ルコの気持ちを慮って口を開いたようだった。
「そうね、北に逃げる事になるかしら。ただ、村24を避けなくてはならないから一旦この川を渡ってから北上という形にしたほうがいいと思うわ」
ルコは西に流れる川を指で指しながら北上ルートを指でなぞった。
西に流れている川は都市から5kmほど離れており、都市
「北側の都市は2つ並んでいるようじゃが、今はどうなっているのじゃ?」
瑠璃に続いて遙華も口を開いて質問してきた。無論、遙華もルコの気持ちを慮っていた。
「都市
マリー・ベルはまずはそう答えた。
「なんじゃか、けったいな名前じゃな」
遙華はそう言った。これには他の三人もそう思っていた。
都市
「都市間が非常に近いため、2つの都市は共同で防衛網を構築していると推定されます」
マリー・ベルは続けて説明をした。
「防衛網じゃと?」
遙華は一気に怪訝そうな顔になった。当然、他の三人もこの言葉が引っ掛かった。
「6集団ほどの異世界の人達が共同で防衛網を構築していると推定されます」
マリー・ベルは重要な事をいつものように無機質な口調でいい、重要性を下げている感があった。
「それって、私達以外の異世界人達が住んでいるって事よね?」
ずうっと黙っていた恵那がいきなり声を上げた。上擦った声に他の三人は驚いた。恵那は明らかに冷静さを欠いていた。
「はい、そう申し上げています」
冷静さを欠いている恵那にマリー・ベルはあっさりとそう言った。いや、感情がないのでいつもどおりなのだが。
「それなら、今すぐ、合流するべきよ!」
恵那は喜々としてそう訴えた。ただやはり冷静さを欠いていた。
「ちょっと待って!」
ルコは冷静さを欠いている恵那を落ち着かせようとした。
「どうして?何を待つのよ!」
いつもならこういう絡み方をする娘ではないのに、恵那は問い詰めるようにルコに詰め寄った。思った以上に、メンタル的にまずい状態だったのは明らかだった。
「落ち着くのじゃ」
「落ち着いて下さい」
遙華と瑠璃は恵那の両脇から宥めるように言った。
二人を見て恵那は一旦問い詰めるような姿勢を止めた。
「一つ、重大な懸念があるのよ」
ルコは恵那が落ち着いたと見て話し始めた。ただ、他の三人は懸念という言葉に鋭く反応していた。
「他の異世界人たちとの接触は危険を伴う事のあるの。私が調べた範囲では、異世界人同士が相討つ事になった事例もあるから接触は慎重になるべきだと思うの」
ルコは続けて説明した。
「ルコ、ひどすぎる……」
恵那はわなわなと震えて呟くように言った。
「え?」
ルコは恵那の反応を見て愕然とした。瑠璃と遙華はびっくりして恵那の顔をまじまじと見た。
「どうしてその事を黙っていたのよ!そして、どうして今そんな事を言うのよ!ただ体よくあたしの言う事を聞きたくないだけでしょ!」
恵那は立ち上がって、そう叫び散らすと、自分のベットへと走り去ってしまった。
ルコには恵那が言ったような意図で発言した訳ではなかったし、普通の状態の恵那だったらもちろんこんな曲解はしないだろう。
「なんじゃろうなぁ、そのぉ……」
遙華は恵那の態度を見て言葉にならなかった。
「実際問題、この都市群は妾達を受け入れてくれるのでしょうか?過去起こったように同士討ちになったりしないのでしょうか?」
瑠璃はおっとりとした口調だが、今後の方針を決めるために毅然とした態度で聞いた。
「現在の体制になってからはないようです。ただし、6集団とも短期間にしかもこの2つ都市に転移してきた人達ですから外部集団と接触した場合の想定は難しいと推察されます」
マリー・ベルはそう答えた。
「さて、どうするべきかじゃのぉ……」
遙華はそう言いながら立ち上がった。そして、
「吾は少し一人で考えたいのじゃが、いいじゃろうか?」
と聞いてきた。
ルコは声に出さずに小さく頷いた。こんな事になってしまって済まない気持ちでいっぱいだった。
「すまんのじゃ、吾も自分の頭を冷やす必要があると思うのじゃよ」
遙華はそう言うと車の後部へと歩き出した。
遙華を見送った瑠璃は、しょんぼりしているルコを抱きしめた。
「大丈夫ですよ、ルコ様。妾も含めて、皆様、ルコ様の気持ちは分かっていらっしゃいますわよ」
瑠璃はルコをそう言って慰めた。
ルコは抱きしめられながらただただ申し訳ないと思っていた。
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