12.苦悩

その1

 火攻めの日の夜、猪人間の村を大きく迂回して都市位日いびに入った。

 都市に入ると少し遅い夕食を摂った。位日いびの道中でもそうだったが、ルコ達四人は口数が少なく、それは夕食でも変わらなかった。またいつもならはしゃぐシャワーも何日か振りだと言うのに、淡々と終わらせ、どこか冷めた雰囲気さえあった。そして、四人は早々に自分たちのベットへと消えていった。

 ルコはベットの上で何度も寝返りを打っており、なかなか寝付けないでいた。多分1時間ぐらいそうやっていた。

「マリー・ベル……」

 ルコはそう声を掛けた。

「はい、ご用件は何でしょうか?」

「なんか寝付けなくて……。みんなの様子もちょっとおかしかったし……」

「他の皆様も寝付けないご様子です」

「そうなんだ……」

「映ぞ……」

「それはいいから」

 ルコはマリー・ベルが全部言う前にそれを遮断した。

 この世界に来た初日の夜に眠れない事を話した時に、三人の寝ている様子、つまり、寝顔の映像を見せられた事があったので、またそれをやられたらたまらないと思ったので、すぐに遮断した。全く覗きの趣味は……ない……の……よとルコは固く思っていた。

「やはりみんなの様子がおかしかったからね……」

「申し訳ございません、わたくしには人の感情を推定する事はできません」

 今度はマリー・ベルの方がルコが何か言おうとした事を遮ってはそう断言した。

 それを聞いたルコはAIに聞くべき事ではなかったと思った。

「やはり、みんな、今回の件で消耗していると思うの……」

「消耗とはどういった状況を指すのでしょうか?」

 マリー・ベルは話の腰を折るように一々口を挟んできた。

「えっと、つまり、精神的に参っているという意味よ」

「どうして精神的に参っているのでしょうか?その原因は何でしょうか?」

 マリー・ベルはやけに突っ込んできた。

「今回の戦いでよ。いや、それだけではないわね。これまでの戦いと言った方が正しいわね」

 ルコは考えをまとめるように言った。

「ちょっとお待ち下さい。現在整理しております」

 マリー・ベルはそう言うと何やらやっているような感じがした。

「整理中って何やってるの?」

「はい、皆様と会話がスムーズにできるように、学習しております」

 マリー・ベルのこの言葉を聞いて成る程とルコは思った。

「失礼致しました。皆様、戦いが嫌になったという理解でよろしいのでしょうか?」

「簡単に言うとそういう事になるわね」

「しかし、戦わないと皆様が不幸になりますよね?」

「そうね」

 ルコはいつもと違ってやたら突っかかってくるなあと感じながらもそう答えた。

「なら何故戦いをお嫌いになるのでしょうか?」

「ああ、戦うのは元々嫌いよ。多分私以外の三人も同じ気持ちだと思うわ。戦うと自分たちが傷つくし、相手も殺さなくてはならないしね。ましてや今回みたいに大量に殺さなくてはならないのは敵でも嫌なものなのよ」

 ルコが長々と説明すると、マリー・ベルが沈黙した。しばらく沈黙が続いたので、

「あのぉ、マリー・ベルさん……」

と遠慮勝ちに声を掛けてみた。

「失礼致しました。また学習機能をフル稼働させて分析していました。しかし、過去にそう言った発言をなさった方々は存在しましたが、その方々は全て猪人間達に拉致されて、現在とても不幸な目にあっています」

「そうなの……」

 ルコは何とも言えない絶望感みたいな感じを受け取ったような気がした。

「はい、これは事実です。ただ不思議なのはそのような考えをしているルコ様達はこうして生き残っておられます」

「ええ、まあ、たまたまね」

 そう答えながら、ルコは今度はAIにも不思議と言われてしまったので妙な気持ちになった。

「ルコ様達のデータを分析すると偶然の結果とは言い難い結果となっております」

「はぁ?」

 ルコは褒められているの貶されているのか区別がつかず間抜けな表情を浮かべていた。

「何よりも特異な点は1ヶ月あまりで8回の戦闘を経験している事が挙げられます」

 文字にするとマリー・ベルは熱く語っているようだが、これまでずっと無機質ないつもの口調で冷静(?)そのものだった。

「別に経験したくてしている訳ではないわよ」

 ルコの方はそうツッコミを入れた。

「しかも、都市間を戦闘無しで移動するという事もおやりになっています」

 マリー・ベルは自分の主張を続けた。AIの癖にツッコミを無視しやがったとルコは思った。

「で、結局、マリー・ベルの結論は?」

 ルコはいい加減話を聞くのが嫌になってきた。これまでの生き残れたのは本当に偶然だと思っていたからだ。だから、もうまとめに入って終わりにして欲しかった。

「すみません、まだ結論が出ておりません。それだけルコ様達は興味深いサンプルと言えます」

「散々話して、私達をサンプル呼ばわりとは……」

 ルコはやれやれという表情になった。実際、AIの本音なんだろうなと思った。ただし、本音というものが存在すればの話なのだが。

「AIの学習効果に付き合っていただける人は殆ど皆無ですので、大変貴重なお時間を拝借して申し訳ございませんでした」

 マリー・ベルは何だかルコの願っている方向とは違う方向でまとめに入っていた。

「ああ、もういいわ。その学習やら分析やらは空いた時間でやてくれる?」

「はい、承りました」

 マリー・ベルは心做しか残念そうだった。

「えっと、話を元に戻しましょう」

 ルコはそうは言ったが、

「あれ?何の話だったか……」

と何を言い出そうとしたのかすっかり忘れてしまった。

「お忘れになったのでしょうか?」

「誰のせいじゃ!」

「皆様が消耗なさっているという話ではなかったでしょうか?」

 なんかこうなってくるとルコはマリー・ベルは意図的にやっているとしか思えなかった。覚えているのなら最初から言えよと思った。

「そう消耗の話だったわね。皆がこの世界で消耗し尽くす前に前の自分達の世界に戻るべきだと思ったのよ」

 ルコはなるべく平静を保とうとして話した。AIに怒っても無駄という呪文を思い浮かべながら。

「どういった方法でご帰還なさるのですか?」

「それを聞こうとしたのよ!」

 ルコはやっぱりマリー・ベルは意図的にやっていると断定したくなった。しかし、話が進まなかった。

「はい、承りました。ただし、わたくしが参照できるデータベースにはその方法は記載がありません。もっと専門的なデータベースにアクセスできる場所へ行く必要があると推察されます」

 マリー・ベルはようやくいつもの調子に戻ってきたようだ。

「その場所は?」

「この島では、一つは都市幌豊ほろとよで、もう一つはここから直線で東北東200kmにある都市知羽しりぱにあるとの記録がございます」

「そう。でも、2つとも簡単には行けそうにないところね」

 ルコはそう言いながらがっかりしてしまった。

 しかし、何で1対1で話すとこんな変な展開にいつもなるんだろうとルコは思った。他の三人も1対1で話す時は苦労しているのかなと思うと少しおかしくなった。

 こうして気分転換ができたルコは深い眠りへと落ちていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る