その6

 翌々日、廃都市の市街地と2つの集落を調べ尽くした猪人間達は最後となるルコ達がいる集落へと殺到してきた。その数ちょうど60。それまで隊を2つに分けて昼夜後退で捜索に当たっていたが、最後の集落なので全ての猪人間を投入した形だ。

 猪人間達はルコ達にいる集落へ入ると、隊を5つに分け、一つを入り口に配置して、あとの4隊は集落へと入ってきた。そして、その内の一隊が幹線道路を使ってルコ達の方へ真っすぐ進んできた。

「いよいよ始まりましたね」

 瑠璃は何時になく緊張しているようだった。

「そうね」

 ルコも緊張しており、これからやる事に罪悪感みたいなものを感じていた。発案した時はそうでもなかったが、準備が進んでくるとそんなような感情が生まれてきていた。

 周辺地図では赤丸が急速に近付いて来てはいたが、幹線道路から直接は見えないような位置にいるために、お互い視認できないでいた。

「距離250で敵の前に躍り出て射撃開始します」

 瑠璃が戦闘モードの凛々しい口調で皆に声を掛けた。

 他の三人はそれに黙って頷き、銃を構えた。

「距離250、出撃します」

 マリー・ベルがそう言うと敵が視認できるように幹線道路へと車を移動させた。

 すると、すぐに照準画面には猪人間達が映し出された。

「射撃開始!」

 瑠璃の合図とともに、一斉に銃撃が始まった。

 1射目で3匹が葬り去られた。お約束どおり外したのはルコだけだった。どうにも射撃の腕が進歩しないようだ。

 ただ2射目以降は猪人間達は無理にこちらに向かってくる素振りを見せずにルコ達を取り逃がそうとしないように牽制すると共に、自らの安全も測っているような素振りを見せるようになり、建物の残骸などを盾にするようになった。

 しかし、ルコ達は構わず圧力を掛けるように前進していった。すると、前の敵はジリジリを下がり始めた。

 ただそれと同時に、交戦開始に気付いた他の隊の猪人間達は一斉にこちらの交戦地点へと向くるのが、周辺地図からすぐに分かった。

「ルコ様、準備は完了しています」

 マリー・ベルは決断を促すようにそう言ってきた。

「分かったわ。着火して頂戴」

 ルコは銃を撃ちまくりながらそう言った。しかし、今日も一発も当たっていなかった。

「はい、承りました」

 マリー・ベルはそう言うと何かをしたようだったが、特に周りの変化は見受けられなかった。

「このまま一気に中心部まで押し込むわよ!」

 ルコはそう言うと、他の三人とともに敵への銃撃を強めていった。

 猪人間達は為す術がなく集落の中心部へと後退していき、戦線崩壊の危機を迎えていた。しかし、形勢はあっけなく逆転した。北から2隊、南から1隊、そして、西から1隊と中心部を集結地点として一気に猪人間達が集まってきたからだ。そう残りの総勢57匹が全て集結してしまった形になった。

 誤算が生じたはずのルコ達はそれでも諦めずに中心部へと向かって前進をしていた。そして、銃撃を更に強めていった。

 強まる銃撃に牽制されるように一旦は猪人間達の動きが止まったが、集結した猪人間達はすぐに隊を3つに再編成して正面と南北から半包囲体制に置こうと動き出した。

 ルコ達はその動きになんら効果的な手を打つ事ができずにいて、一気に形勢は不利になった。そして、瞬く間に半包囲網が完成してしまった。

 猪人間達はこの期を逃さず一斉に攻撃に掛かった。

 しかし、その時、集落周辺で次々と爆音が響き渡り、何かが吹っ飛んでいた。そして、黒い煙が立ち込め、周辺が一気に炎に包まれた。また、強い嫌な臭いも漂い始めていた。先程のルコの指示がここでようやく姿を現した格好になった。

「みんな、防毒装置着用」

 ルコはそう言うと、自分の座席においてある酸素ボンベを背負い、防毒マスクを装着した。

 他の三人もルコと同じように酸素ボンベを背負ってから防毒マスクを装着した。

 車内の空気は汚染されないように何重にもフィルターと安全装置があったが、狹間からは多少大気が入ってきてしまうので、用心のための措置だった。

「配置について!反撃よ!」

 ルコがそう言うと、瑠璃は後部へ、遙華は作業区画の進行方向右へ、恵那は作業区画の進行方向左へ散っていき、ルコはそのまま前部区画に残った。四人はそれぞれ狹間の前に立ち、銃撃を開始した。

 車外は阿鼻叫喚となり地獄絵図と言った感じに変わっていた。猪人間達は最初燃え上がる紅蓮の炎に恐れおののいて混乱していたが、すぐに煙と臭いで動きが鈍っていった。

 ルコ達はすぐに煙で光学的に猪人間を捉える事が難しくなったので、各種センサーを総動員して生きている猪人間を赤い塊として表示するように切り替えた。そして、ルコ達はその赤い塊を照準画面を見ながら攻撃した。敵を撃っている感覚がない分、逆にとても嫌な気分になっていた。しかし、それを誰も口にはせずに黙って引き金を引き続けた。ここで敵を殲滅しないと自分たちの未来がないからだ。ただやぱりある種の罪悪感は感じざるを得なかった。

「敵、全滅の模様。直ちに撤収しますか?」

 マリー・ベルは火攻め開始後30分も経たない内に作戦終了の報を入れてきた。

 猪人間達は煙と臭いで簡単に動けなくなり、ある者はルコ達に射殺され、ある者は煙に巻かれて息絶えていた。

「ええ、直ちに撤収して」

 ルコはそう言うと、防毒マスクを外して力なく座席に腰を下ろした。大戦果だったが、喜び以上に虚しさが強くひどく疲れた戦いだった。

 他の三人も次々と戻ってきたが、何の言葉もかわさず、とても疲れたようにそれぞれの座席に静かに座っていった。

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