その5

 決断しない事を決断した結果は、夕暮れに一つの答えが出た形となった。

「敵、北東方向へ移動していきます」

 マリー・ベルはルコ達が備えていた別方向に移動した事を報告してきた。

 対岸にいた猪人間達は何の前触れもなく北東方向へと引いていった。やがて、こちらのセンサーの探知外となって地図からその様子が消えた。

 決断しなかった事が幸運に繋がったのだろうか?とルコは訝しげに思った。

「助かったのでしょうか?」

 瑠璃は地図を見ながらそう言った。信じられないという顔をしていた。

「明日また再戦という事じゃな」

 遙華は少し安心したように言った。

「それじゃあ、今日はこれで終わりって事よね」

 恵那は安心したように体を伸びをした。

「どうかしましたか?ルコ様」

 瑠璃はずっと黙っているルコを心配した。

 ルコは先程の3案をずっと考えていて、最後には決断を欠いて結局このままが一番いいのではという結論の繰り返しを何度も何度もやっていた。考えを巡らせながら思考不能の状態に陥っていたのだった。そして、敵の行動は全く予想していなかった方向への移動が疲れた頭に更に混乱をもたらしていた。

「ルコ様、少し休みましょう」

 瑠璃はルコの事が心配で抱きしめてしまった。

 ルコは瑠璃に抱きしめられた事で思考が止まり、ようやく思考の無限ループから抜け出せた。

「そうそう、休もうよ!」

 恵那は笑顔で後ろからルコを瑠璃ごと抱きしめてきた。

 ルコは驚いた顔をしたが、ようやく笑顔になってきた。

「もう、恵那様ったら」

 瑠璃はいつものおっとりした口調でそう言ったが、ルコを一人占めできなくなったのでちょっと不満だった。

「主ら一体何をしているのじゃ」

 遙華は三人の様子を見て微笑んでいた。そして、

「何にしても休憩が必要じゃな。吾等には敵が動くまで選択権がない状況なのじゃからどんな事にも対応できるように休める時に休むのじゃ」

とちょっと真面目な口調で言った。

「そうね、休憩しましょう」

 ルコは三人にそう言うと、

「マリー・ベル、車を川に近付けて」

と指示を出した。

「はい、承りました」

 マリー・ベルはそう言うと車を動かし始めた。

「という事は、湯浴みができるの?」

 恵那は目を輝かせながらそう聞いた。

「それは流石に和みすぎでしょ!」

 ルコがそうツッコミを入れると皆で笑い合った。

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