その4

「食えない奴らのじゃ!」

 遙華は忌々しそうにそう言った。

 ルコ達は都市|別斗(べつと)に戻り、万全の構えで迎撃しようと待機していたが、猪人間達は橋を渡ってくる気配は全く無かった。ルコ達が別斗(べつと)に戻るのに使った橋の南側にもう一つあるのだが、その南側に位置して動こうとしなかった。まるで都市内で戦うのは不利だという事を知っており、ルコ達の誘いに乗ってこないのはそのためのようだ。

 膠着事態から数時間が過ぎ、ルコ達は車内搭載のお手伝いドローンが持ってきたブロック状の栄養補助食品を摂りながら事態の推移を見守っていた。

 敵を誘い込もうと、都市内の奥へ入る動きをした事があったが、猪人間達には全く動きがなかった。逆にルコ達が南側の橋の近くに進出しても全く動きがなかった。まるでこちらの意図を完全に把握しているようだった。

「動くに動けなくなりましたね」

 瑠璃はずっと沈黙しているルコに声を掛けた。

 ルコは敵の意図を掴みかねていた。これは他の三人も同様だった。

 後続の部隊があるのならとっくの昔に到着しているだろうし、それを待っている気配もない。もし、後続部隊があるのなら残り16匹でも手に余っているので、逃げられる場所に落ち延びていく他なかった。また、別方向から来る場合も考えられたが、猪人間達に遠くの仲間と連携する能力があるかは疑問だった。

「手詰まりってところね。先に手を出した方が不利な状況ね」

 ルコは諦めに似た口調でそう言った。

「やっぱり、都市外に出たのが悪かったの?」

 恵那は何だか申し訳なさそうに聞いてきた。こんな事態に陥った責任を感じていたのだろう。

「ああ、それはないわね。あの時、都市に出るのが遅れたり、留まっていたら奇襲を受けていてもっと酷い事になっていた可能性が高いわ。あの時に都市を出たからこそ、五分とは言えないけど、何とか戦えている状況になっているのよ」

 ルコは恵那にそう説明した。特に庇っている様子はなく、事実を言っているだけだった。

「恵那、主、珍しく気にしているのじゃな?」

 遙華はちょっとからかうように言った。

「それはそうじゃない!」

 恵那はちょっと怒ったように言った。

「恵那様、現状はこうですが、元々戦力差があったのですから、こうして膠着状態になっているという事はとりあえず都市外に出たのは良かった事なのですよ。問題はむしろこの膠着状態が今後どちらに有利に展開して行くかですわ」

 瑠璃もルコの意見と同意しており、最後に意味深な事を言った。

「全くそのとおりね」

 ルコは瑠璃の言葉を聞いて更に考える必要性に迫られた。

 不利を承知で打って出る事を考えてみたが、わざわざ状況を悪くする必要性を感じられなかったので、ルコはこの選択肢は止める事にした。

 次に、都市に戻ってきた時に使った橋を使って逃げ出す事を考えてみたが、最悪、いやほぼ確実に後ろから追い付かれて叩きのめされるのは想像するに固くなかったので、これもダメだとルコは思った。

 最後に、敵とは違う方向に逃げ出す事を考えた。三つの中で成功する可能性が一番高いが、都市を出た後、路頭に迷う可能性が高いと言うよりも確実に路頭にまようと考えられた。また、ルコはこれもダメだと思った。

 結論としては、このまま膠着状態を続けるという決断を欠いたものになってしまった。

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