その3

 ルコ達は都市に入った時に渡った時の橋ではなく、川の支流が合流する地点に近い橋を渡って都市から出た。支流は南の方から流れていったが、本流はここから方向を変わっていて北東方向から流れていた。道は一旦川沿いから離れて東へと続いていた。また、橋を渡ると森林地帯へと変わっていき、両側の木々の密度が一気に上がっていった。この辺は他の都市の外側と変わりはなかった。

 車は東へと向かい、左カーブが見えてきた。不安を抱えての出発だったが、その不安が予想もしなかった形ですぐに現れたのはこの時だった。

「監視装置に反応。進路上に猪人間が存在すると推定されます。数は24」

 マリー・ベルが急報を知らせてきた。

 この報を聞いた四人は一様にここでかよという苦悩した表情を浮かべた。

 前方展望画面の上に表示されていた周辺地図に猪人間の位置が赤丸で表示されてた。

「戦闘準備!」

 瑠璃の凛々しい声が車内に響き、四人は座席から立ち上がって戦闘準備をした。

 車はそのまま左カーブを曲がり、北東方向に伸びる直線路に入った。

 猪人間達はこちらにどんどん近付いてきており、この先の右カーブへと向かってきていた。

 車は尚も進み、左カーブと右カーブのちょうど中間地点に先程の大きな川へと合流する支流を渡る橋があり、その橋を通過した。

 猪人間達はちょうど右カーブに差し掛かったところだ。すぐにお互いが視認できる位置関係になろうとしていた。

「マリー・ベル、停止!」

 ルコがそう言うと、

「はい、承りました」

と声が帰ってきて車は急停止した。

 そして、次の瞬間、猪人間達が右カーブを曲がり切って、直線路に入ってきた。

 瑠璃は射撃用画面でそれを視認すると、一息置いてから、

「射撃開始!」

と叫んだ。

 四人は一斉に銃撃を開始した。第1射目はルコ以外の三人は命中させ、3匹を葬り去った。距離は250、ルコには遠すぎる距離だった。そして、第2射目。倒された仲間を見た猪人間は素早く左右に分かれて森の中に消えたため、瑠璃・遙華・恵那が外した。

「くそっ、奴ら素早すぎるのじゃ!」

 遙華は忌々しそうに叫んでいた。続けざま撃つが木が邪魔して当たらなかった。

「ルコ様、やりましたわね」

「凄いわよ、ルコ」

 ルコの両隣の瑠璃と恵那はルコを祝福していた。実は2射目でルコは1匹を見事に倒していた。本当は森に素早く逃げた隣を狙っていたのだが、ルコの銃撃に飛び込む形で見事に急所を貫かえた猪人間が倒れていた。手練だったために災いした事故みたいなものだった。

「なんじゃと!やったな、ルコ」

 遙華はすぐに気付かなかったので遅れて祝福していたが、一番喜んでいた。

 しかし、ルコの銃撃を最後に森に隠れた猪人間達を倒す事ができなかった。しかも、こちらに確実に近付いて来ていた。

「マリー・ベル、橋の後方200mまで急速後退!」

 ルコはそう指示した。

「はい、承りました」

 マリー・ベルはそう言うと車を後退させた。

「成る程なのじゃ!」

 遙華は感心したように言った。

 橋の両側には森がないため、こちらに来るためには橋を渡り無防備になるしかなかった。

 四人は銃を構えてじっとその瞬間を待った。

 やがて猪人間達は森を抜け、橋の欄干に飛び乗った。そして、欄干を飛び降りた。

「なんじゃと!」

 遙華が驚愕の声を上げたのは、欄干を飛び降りた方向が逆だったからだ。

 猪人間達は橋の方へ降りたのではなく、川の方へ降りた。そして、橋の縁を両手で掴み、そこを伝ってこちらに向かってきていた。これではこちらからは射撃ができなかった。

「なんてムチャムチャな身体能力を持っているのよ!」

 恵那はあまりの無茶振りに驚きの声を上げた。

「曲がり角まで急速後退。距離をとって」

 ルコは距離を詰められる前にそう指示を出した。

「はい、承りました」

 マリー・ベルはそう言うとカーブまで車を後退させた。

 しかし、このままではジリ貧だった。敵が森の中を移動するので上手く視認できずに接近を許してしまっていた。

「マリー・ベル、照準画面を光学から熱探知の画像に切り替えられる?」

 ルコはマリー・ベルにそう聞いた。

「可能です。切り替えますか?」

「お願い!」

 ルコがそう言うと、照準画面が熱探知の画面に切り替わった。

「みんな、赤い塊が猪人間よ」

 ルコは三人にそう知らせた。

「ぼんやり見えますが、輪郭から猪人間だと分かりますわ」

 瑠璃は橋から上がって森のなかに消えていく猪人間を見てそう言った。

「凄いのじゃ!凄すぎるのじゃ!」

 遙華は目の前の光景にものすごく感動していた。

「木はどうなったの?」

 恵那は目を白黒させていたが、興味を持ったようだった。

「聞きたい事は後で聞くから今は目の前の事に集中して!」

 ルコは遙華と恵那に呆れてしまった。この切羽詰まった状況で余裕がありすぎだと思った。

「距離250でまた一斉射撃しますわよ」

 瑠璃の方は集中していたので、ルコは安心した。

 瑠璃の一言で遙華と恵那は左の敵に集中し、ルコと瑠璃は右の敵に集中した。

 猪人間達は見え見えだという事に気付かずに近付いてきた。

「射撃開始!」

 瑠璃は距離250でそう指示を出した。

 四人は一斉に銃撃を浴びせた。左右で2体ずつが倒れたが、また、仲間の異変に気付いた残りの猪人間達は森の奥へと入っていった。森の奥へと入られると複数の木が物理的な邪魔をして完全に盾代わりになってしまった。

 話の筋には関係ないことなのだが、右の2体はいずれも瑠璃が倒していた。

「なんて奴らなのじゃ!すぐに対応してくるのじゃ!」

 遙華は忌々しそうに悪態をついていた。

「マリー・ベル、都市まで後退!」

 ルコはこれまでと思い、そう指示を出した。

「はい、承りました」

 マリー・ベルはそう言うと車を後退させた

「流石ですね、ルコ様。向こうも素早い対応ですけど、こちらは更に上を行っているようですわね」

 瑠璃はいつものおっとり口調に戻ってルコに笑い掛けた。

「そんなに褒めないでよ。今は押されまくって逃げ出しているところよ」

 ルコは謙遜でそう言っている訳ではなかった。それより今後予想される激戦に少しでも優位に立ちたい一心での判断だった。

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