その2

 都市機能ダウンの原因を突き止めるまで次の日の朝まで掛かった。そして、分かった事は復旧まで最低でも1ヶ月掛かるという事だった。

 ルコ達は前日に川のそばまで移動していたので、水の確保には問題がなかったが、食糧の確保は都市機能の復旧まで在庫のみで対応する他なかった。そして、もう一つの問題が監視システムがダウンしているために、村18を監視できないだけではなく、都市内に侵入されても容易に発見できないという事だった。更に三日後から本格的な雪が続くという天気予報も問題を深刻なものにしていた。

 ルコ達は今後の方針を決めるために、朝食後、作業区画で作戦会議をしていた。

「やっぱり、基本方針は別の都市に移動するという事になるのかしら?」

 ルコはちゃぶ台に映し出された周辺地図を眺めながらそう言った。

「一ヶ月後、きっちりと工場とやらが動けばいいのじゃが、それも保証がないのじゃろ?」

 遙華は困ったようにそう言った。

「しかも、その間は監視装置無しですからね。危険が大きいかもしれませんね」

 瑠璃はいつものおっとり口調で言ったが、表情は曇りがちだった。

「移動するとしたらどこの都市になるの?」

 恵那はそう聞いた。

「都市幌豊ほろとよはやはり無理と見るべきね。周りの猪人間の密度は高いし、都市内に入っても身動きが取れなくなりそうだし……」

 ルコは歯切れの悪い口調だった。

 都市幌豊ほろとよはここから直線で西に16kmの位置にあった。猪人間の最大拠点である村18は絶対避ける必要があるので、この傍を通るルートは除外される。村18の西に村19があり、別のルートを通れば、この村の傍を通る事になり、そのルートは村16と17の傍も通過する必要があった。こちらもあまり通りたくないルートだった。また、仮に都市内に入れてもルコが言ったとおり身動きが取れなくなる恐れがあった。

空別からべつの状況は?」

 ルコは一応マリー・ベルに聞いてみた。

「都市内に入る猪人間の数は減りましたが、斥候を出す村は逆に増えていると推察されます」

 マリー・ベルはそう答えた。

「となると、この都市湯澤ゆざわってところになるの?」

 恵那は更にそう聞いてきた。

「消去法になるがそうなるじゃろな」

 遙華は少し諦めに似た口調でそう答えた。

 都市湯澤ゆざわはここから直線で北東に20kmの位置にあった。幸いそこに至るまでには障害となる猪人間の村はなかった。

「ここに行くのには何か問題があるの?」

 恵那は素朴な疑問をぶつけてきた。

「都市に入る事は恐らく問題にならないと思いますが、問題は都市の周りの猪人間の村の位置ですわ」

 瑠璃はそう話し始めてから、

「このように綺麗に三方を囲まれています。ここで戦うとなるとかなり不利ですわね」

と地図を指差しながら説明した。村々には例のごとく北東方向から順に20から22の番号が付けられた。

「でも、ここで戦うのも不利よね。監視装置なしなんだから敵の発見が遅れるわよ」

 恵那は素直に現状の問題点をそう言った。

 この言葉を聞いたルコは尤もだという顔をして、

「そうね、恵那の言うとおりね」

と言った。どうやら考えがまとまったようだった。そして、

「都市湯澤ゆざわに向かいましょう。包囲されているとは言え、織内おるない幌豊ほろとよよりマシだし、監視装置がある分、ここよりマシだと考えられるわ」

と意を決したように言った。

 確かに織内おるないでは四方をガッチリ固められた上に後詰のような位置に村があったのに比べて湯澤ゆざわはマシだった。況してや幌豊ほろとよとは比較にならないほどだった。

「まあ、そういう事になるじゃろうなぁ……」

 遙華は歯切れの悪い口調だが、一応賛成らしかった。

「どちらがましかと言いいますと、都市湯澤ゆざわの方がまあ、ましですね」

 瑠璃はいつものおっとりした口調だったが、こちらも歯切れが悪かった。

 二人は何かしら不安を感じていたからこの様になっていた。

「でも、ここにいても事態の改善は見られないと思うわ」

 恵那は珍しくこの場を仕切っていた。

「確かにそのとおりじゃな、吾も恵那とルコの意見に賛成なのじゃ」

「妾も同じく賛成しますわ」

 遙華と瑠璃は恵那に言われて決心したようだった。

「それじゃあ、移動の準備に取り掛かりましょう」

 ルコはそう言うと立ち上がり、他の三人も頷いて立ち上がった。

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