8.初体験

その1

 この世界に来てもう20日余りになりました。


 暗闇からこの世界に放り出された時、どうなるかと思いましたが、ルコ様を始め、遙華様に、恵那様のお陰でなんとかここまで生き延びていますわ。

 しかし、この世界に来て、妾も随分色々な初体験をさせて頂きましたわ。


 まずは、ルコ様に服の着方を教えて頂いた時の事はとても印象的な出来事でしたわ。


「じゃあ、次は靴下ね」

 ルコ様は鏡の前から自分の着替えがあるところに戻って、紺色の長いものを手に取りましたわ。


 ルコ様の言葉を聞いた妾達3人も鏡の前からそれぞれの着替えが置いてある場所に戻って長いものを手に取りましたわ。


 これはとても細長いものですわね。

 何なんでしょうかね、これは?


「これはこうやって足に履きます」

 ルコ様はそう言うと長いものを足に履いて見せてくれましたわ。


 ああ、これはこの世界の足袋なのですね。

 でも、何だか、ルコ様はずっと緊張なさっている感じが致しますわ、どうしてでしょう?


 この長いものは膝上まであり、ルコ様の太ももの一部まで覆っていましたわ。


 とてもかわいらしく、艶めかしく感じますわね、ただの足袋ですのに。

 不思議ですわね。


「靴下とは足袋の事じゃな?にしてもずいぶんと長い足袋じゃな」

 遙華様はそう言って長い足袋をお履きましたわ。


 遙華様も妾と同じ事を感じていましたのね。


「そうね、あたしの世界でもこんな長いのはないかも」

 恵那様もそう仰りましたわ。


「妾もこんなのは初めてですわ」

 妾も履いてみましたけど、ちょっとびっくりしましたわ。


 不思議な感覚ですわ。


 妾達3人が履き終わったのを確認なさったルコ様は、

「じゃあ、今度はキャミね」

と仰って、白い布を手に取りましたわ。そして、

「これは上から着ます」

と丁寧に仰ると、ルコ様はその布を頭から被って着てみせてくれましたわ。


 まだ、緊張さなっている感じはありますが、段々とお慣れになった感じもしますわね。

 でも、実際に来て見せていただけるのは、とてもわかり易い事なのですね。

 手伝っても頂けますし、ルコ様はとても親切な方ですわ。


「ああ、肌着ね」

 恵那様は結構あっさりとそう仰って、白い肌着をルコ様と同じように着ましたわ。


 その隣で妾は白い肌着を同じように着ましたところ、

「これも肌触りがとてもいいですわね」

とうっとりしてしまいましたわ。


「そうね、この世界の下着はなんかいいわね」

 恵那様は嬉しそうにそう仰っていましたわ。


 本当に恵那様に言うとおりですわ。

 可愛くて肌触りもいいですわね。

 なんて素敵なのでしょう!


「なんじゃ、吾のはまたちょっと違うのじゃな……」

 遙華様はそう仰るとちょっと不満そうに肌着を身に付けていらっしゃいました。


 あらあら、遙華様はまたお拗ねになるのかしら?


「まあ、これはこれでありじゃな」

 遙華様は今度は特に文句はないようでしたわ。


 ちょっと安心しましたわ。


「次は、スカートね」

 ルコ様はそう仰ると、茶色のひらひらした布をお手に取りましたわ。


「すかぁ?このひらひらか?」

 遙華様はそう仰ると怪訝そうにその布をお手に取りましたわ。

 恵那様も妾も同じような顔をしていましたわ。


 これまでの着物も妙でしたが、これもまた妙なものですわね。


 ルコはこの茶色の布をじっと見て、何だか困ったようなお顔をなさっていましたわ。色々と調べているような感じでしたわ。ルコ様はこの布をぐるっとお回しになりながら何かを探しているようでしたわ。すると、表情が変わり、目的のものを探し当てたようでしたわ。


「スカートのウエスト部分にホックがあるので、それを外して下のファスナーを開けて、下から履きます」

 ルコ様はそう仰ると、仰った手順通りに布に足を通してお履きになりました。そして、

「後は、ファスナーを閉じてホックを留めます」

と丁寧な一連の説明をしながら、布を腰に巻き付けましたわ。


 正確には妾にはそう見えましたわ。


「すかぁ?ふぁ?ほぉく?なんだかちんぷんかんぷんじゃな」

 遙華様は当惑していましたわ。

 勿論、妾も遙華様と同じでしたわ。


「うん、さっきから気になっていたのだけど、ルコの言葉が時々よく分からないわ」

 恵那様は遙華様に同調しなさいましたわ。


 そうですわね。ルコ様は時々変な発音をしていますわね。

 ルコ様の世界の言葉なのでしょうか?


「え?」

 ルコ様は妾達3人の反応が意外と感じていらっしゃったのか、戸惑っていましたわ。


「例えば、この腰巻きをすかぁと言ったりして、吾には聞き慣れない言葉じゃから、よく分からないのじゃ」

 遙華様は戸惑っている理由をルコに説明なさりましたわ。


「そうそう、ふぁとかほぉとか言われても聞き慣れない言葉だからなんかよく分からないわ」

 恵那様もそう指摘なさっていましたわ。

 妾もお二人の言葉に同意しましたわ。


「えっと、私の話している言葉は通じているよね?」

 ルコ様は更に混乱なさっている様子でしたわ。


「ええ、今言っている事は通じてますわ。ただ時々聞き慣れない言葉が聞こえてくるので、妾達、戸惑っていますの」

 妾はルコ様の問いにそう答えましたわ。


 ルコ様は首を傾げてちょっと考え込みましたわ。そして、しばらくしてから、

「ん?腰巻き?」

と呟くようにルコは仰いました。


「これの事じゃな」

 遙華様はルコ様が腰に巻いた布と同じものを持ち上げて仰いましたわ。


「これは?」

 ルコ様は肌着を引っ張って妾達3人に聞いてきましたわ。


「肌着」

 恵那様は即座にそうお答えになりましたわ。


「これは?」

 ルコ様は今度は長い足袋を指差しましたわ。


「長い足袋ですわ」

 今度は妾が答えましたわ。


 ルコ様は一連のやり取りでハッとした表情をなさいましたわ。どうやら疑問が解けたらしいですわ。


「これは、ス・カ・ー・トと言います」

 ルコ様は妾のそばに寄りながら、妾の茶色いひらひらした布を指差しましたわ。


「すかーと?妙な響きな名前じゃな」

 遙華様はご自分のスカートをまじまじ見ながら仰いましたわ。


「それからそのスカートを履くために、えっと、留め金で通じるのかな?」

 ルコ様は留め金を指差しながらそう仰ると、妾達3人の表情を伺うように見ましたわ。


 妾達3人はそれを聞いて頷きましたわ。


「この留め金を外して、下の長い留め金をこの引手を下に下げて開けます。そして、スカートを履いて、今度は逆に引手を上げて、留め金を留めます」

 ルコ様はそう仰いましたわ。


 妾達3人はうんうんと頷いて、スカートをご説明の手順通りに履きましたわ。


 ルコ様はお気遣いのできる方なのですね。

 更に分かりやすくなりました。

 本当に素晴らしい方ですわ。

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