2.着方指南

その1

 15日前の事である。


 何でこんなに周りが暗いのだろうか?

 周りから音が聞こえない。漆黒の闇というものだろうか?

 あ、でも前が明るくなってきた。

 というより、眩しくて目が開けてられない。


 そう感じると、両手をクロスさせて光を遮って目を守ろうとした。

 すると、どこか違う空間に放り出された感じがし、眩しさが無くなった。


 何だったんだろうか?


 先程の眩しさのおかげでまだ目の焦点が定まらず、周りが白く薄らぼんやりとしていた。


 人がいる?1、2、3人かな?


 焦点が合ってきてしばらくすると、どんな人物がいるのかがわかってきた。

 

 他の3人も状況が同じで、他人を確認できた時点で口々に、


「ここはどこじゃ?」

「何なの?」

「はてはて、面妖な事が起こりましたわね」

などと話し始めていた。


 え?!裸の女の子が3人!


 ただ一人だけギョッとした顔で声もあげられず、他の三人から目を逸らせずに私はガン見していた。


 一人は黒髪でいわゆるお姫様カットのおっとりとした美少女であり、もう一人は金髪捲毛で少しミステリアスな笑顔を浮かべているエルフ耳を持った美少女で、最後の一人は銀髪サラサラストレートの幼女だった。三人は一糸纏わず生まれたままの姿をしており、どこも隠さずに自然体で、固まっている私をを見ていた。


「ここはどこじゃ?これはどういう事じゃ?」

 幼女は私達三人に聞いてきた。その口調は四人の中で一番年長のようだった。

 というより、爺さんみたいだ。だが、声は舌足らずの可愛い声で何ともギャップが激しかった。


 なんかちょっと癒やされるかも……。


「あたしにも分からないわよ。眩しいと思ったらここに移動していたから」

 エルフ耳の彼女がそう言った。


 その耳は本物なのだろうか?


「なんだか不思議な感じでしたわね」

 黒髪少女はおっとりとしていてどこか他人事のように言った。


「しかし、主ら変わった姿形をしておるのぉ」

 幼女は私達三人を交互に見つめながら言った。


「それはあたしのセリフでもあるわよ」

 エルフ少女が笑顔でそう言った。笑顔はミステリアスな表情だったが、口調は人懐っこかった。


 そうそう、私も幼女とエルフはとても変わった姿形をしていると思ったわよ。


「そうですわね、なんか違う世界に来たみたいですわね」

 黒髪少女は大変な事が起きているという認識が欠けているるような感じでおっとりとした口調で言った。多分四人の中ではこの少女が一番落ち着いていた。


「違う世界?そうか、吾の世界では、闇に飲まれて違う世界に連れて行かれるという伝説があるのじゃが、まさか吾にそのような事が起きるとは不思議なもんじゃな」

 幼女は納得したように言った。どうやら現状を素直に受け入れているようだった。


「あたしの世界ではそんな話はないわ」

 エルフ少女はそう言ったが、現状に対する悲壮感とかには無縁そうだった。元々明るい性格なのかもしれない。


「妾の世界では神隠しとか言って、急に人がいなくなる話がありますわ」

 黒髪少女は相変わらずおっとりして、大変な事を言っていた。


「主、大丈夫なのか?」

 幼女は無言で固まっている私に声を掛けてきた。


 「大丈夫?」はこちらのセリフでは?

 ここは悲鳴をあげるところだと思うけど……。

 でも、これはこれでハーレムみたいでいいかもしれない。


 黒髪少女は華奢な体つきをしていたが、胸は意外とあった。

 エルフ少女は黒髪少女よりやや背が高く、胸は1回り小さかったが均整の取れた体つきをしていた。

 2人共とても美しい容姿をしていた。

 幼女は小学生くらいの背丈で、胸は膨らみ始めたばかりと言った感じだった。


 まずい、目が離せない。

 こんなにガン見していたらただのスケベだと思われてしまう。


「同性でもそんなに見つめられるとなんだか恥ずかしいわね」

 エルフ少女は恥じらうように顔を少し赤らめ、胸と前を手で隠した。


「いや、普通はもっと、こう……」

と言い掛けたところで、私は首を傾げて、

「同性?」

と唸るように言った。


「妾達より立派なお胸をお持ちですのに、おかしいですわね」

 黒髪美少女は少し誂うように私に言った。


「立派な胸?」


 彼女たちは何を言っているんだろうか?

 胸ってどういう事?


 私は不思議な顔をして自分の胸を見た。

 すると、眼下には確かに大きく膨らんだ胸があった。


 あれ?私って、男だったよね?

 なんか、ちょっと記憶が曖昧になっているような……。


 私は自分の性別に自信が無くなっていた。


「いつまでも裸でいる訳にいかないのじゃ。風邪をひく前に服を着るのじゃ!」

 幼女は胸の話題になって急に声を荒げた。


 まあ、まだまだぺったんこだものね。


「服と言っても……」

 エルフ少女は辺りを見渡した。

 それに釣られるように、私達他の三人も同様に辺りを見渡した。


 私達四人はこの時初めて冷静に周りを見た。

 ここは白い壁と白い天井に囲まれ、床はフローリングの十畳ぐらいの部屋になっており、私達以外、他の人は存在しなかった。部屋の隅に長テーブルがあり、その上に服らしきものがあり、その隣にスタンドミラーが立っていた。


「あれ、服かしら?」

 エルフ少女が長テーブルの方に歩き出した。

 それに釣られて、私達他の三人も長テーブルの方へ歩き出した。


 ただし、黒髪少女、エルフ少女と幼女はまっすぐ長テーブルの前に立ったが、私はスタンドミラーの前に立ち、自分の姿を鏡に映した。勿論、自分の姿が気になったからだった。

 鏡にはゆるふわストレートの黒髪の少女がいた。髪は他の3人が胸を覆うくらいの長さがあったが、自分だけは肩に掛かる程度だった。ただ、皆に指摘されたように四人の中で一番大きな胸を有していた。


 私、性別と容姿が変わっているよね、たぶん。なんか記憶に自信がないけど……。


 私は鏡の自分を上から下まで隈なく見ながら困ったような嬉しいような不思議な感覚を持った。


 綺麗で大きな胸。

 歩く度にちょっと揺れたよね。

 股間の方はなくなっているし……。

 うーん……。


 私は困惑はしていたが、悲壮感とはまるで縁がなかった。


 割と美少女で良かったわ、スタイルもいいし。


 鏡の姿を見て何だか嬉しさが増してきたようだった。

 この辺は我ながら適応力が高い証拠かもしれない。


 長テーブルの方は透明なビニール袋に服が入っており、人数分である四つ載っていた。そして、ビニール部の上に和紙があり、それにそれぞれの名前が書いてあった。


 それを見て、幼女が、

「そう言えば、お互い、自己紹介がまだじゃったな」

と言うと、3人の方に向き直って、

「吾は遙華(ようか)じゃ、よろしく頼むのじゃ」

と言った。


 続いてその隣りにいたエルフ少女が、

「あたしは恵菜(えな)だよ、よろしくね」

と続き、その隣りにいた黒髪少女が、

「妾は瑠璃(るり)ですわ。よろしくお願い申し上げますわ」

と続いた。


 最後に私がすぐに続いて名乗りを上げる筈だったが、私は名乗りを上げずにスタンドミラーから長テーブルの方へゆっくりと歩いていった。そして、テーブルの上にある自分の名前を見て先程より更に困った顔をした。


 高杉薫子(たかすぎかおるこ)?

 なんかちょっと違うような、合っているような…‥


 適応力が高いと先程は感じたが、それは間違いだった。この名前の書かれた和紙をじっと見つめたまま困惑が広がっていた。


「主の名は?」

 遙華は名乗ろうとしない私に促すように言った。

 瑠璃と恵菜は私をじっと見ていて、名乗りを待っていた。


「私の名前は高杉薫子よ」

 違和感を持ちながら私はとりあえず自分の名前らしきものを名乗った。この時、耳に聞こえてくる声は女の子の声だと初めてはっきり認識できた。また、話し方も何だか女の子になっていた。


「吾等と違ってずいぶんと長い名前だな」

 遙華は不思議そうな顔をした。

 瑠璃と恵菜も同じような顔をしていた。


「えっ、だって名字も名乗ったから」

 私は逆に三人に対して不思議に思った。


 私って、何か変?


「ルコ、名字ってなんじゃ?」

 遙華は不思議そうな顔と興味深そうな顔をした。

 瑠璃と恵菜は同じく興味深そうに私をじっと見ていた。


「ルコ?」

 私はそう言って、「ルコ」って何という顔をした。


「名前が長いからじゃ。それより名字とは何じゃ?」

「え、ああ、名字って、家族の名前の事なんだけど……」

 私は周りの雰囲気からなんだか間違った事を言っている気持ちになってきた。


 っていうか、ルコという呼び方は決定事項?


「家族の名前じゃと?」

「高杉が名字で家族全員が名乗るもので、薫子が個人の名前よ」

 それを聞いた他の三人は珍しそうな顔をした。


「という事は、恵里の娘の恵那というのと同じなのかな?でも、家族共通の名前って訳ではないから違うかな」

 恵那が考え込むように言ってきた。


「吾の場合は、平左と遙子の娘遙華という事じゃな。吾も家族共通の名前はないぞ」

 遙華も同じく考え込むように腕組みをした。


「妾は伊佐国国王勇山が娘瑠璃と申しますわ。強いて言えば、伊佐瑠璃とでも言うのでしょうか?」


「ん?主、王女じゃったのか?」

 遙華は驚きの声を上げた。


「左様でございますわ」

 瑠璃の方は相変わらずおっとりして優雅だった。


 お姫様カットは伊達ではないのね。雰囲気もあるし。


 しかし、最初に感じた違和感はここにいる全員が別々の世界から来ている事に起因しているようね。どうやら社会背景も違いそうだし……。

 どういう事なのかな?


 私はそれぞれの名乗りの仕方の違いからそう感じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る