その3

 四人は装甲車の中央よりやや後方にある作業区画で休憩しており、この世界に来ての初めての戦闘に四人ともかなり消耗していた。現在はとりあえずの後始末は装甲車搭載の4台のドローンが外で行っていた。

「しかし、あの状況でよく敵を全滅に追い込めたのじゃ」

 遙華はホッとしていた。

「ルコの機転のお陰だけどね」

 恵那は思い出し笑いをしていた。

「そうじゃな、あれは何と言うか……猪人間もゴギャンと言うほど凄かったのじゃ」

 遙華はウンウン頷きながら言った。

「ゴギャンて、何よ?」

 恵那は今度は遙華の擬音に思わず笑ってしまった。

「だって、奴らはそう言ってたぞ、ゴギャンって」

「だからゴギャンって……」

 遙華と恵那はそうやって盛り上げっていたが、ルコはずうとぼーっとして無反応だった。

「大丈夫ですか?ルコ様」

 ぼーっとしているルコに瑠璃はそう声を掛けたが、反応がなかった。反応がなかったので、瑠璃はルコの方を大きく揺さぶりながら、

「ルコ様、どうしたのです?」

と心配していた。

「え、ああ……」

 ルコはようやく反応した。

「大丈夫ですか?ルコ様は今回の勝利の立役者なのですよ」

「え、そんな事はないわよ」

 ルコはそう言った。これは謙遜ではなく本心からだった。

 矢がヘルメットに当たるまで狼狽えていたし、挙句の果てに逆上したように車を急発進させたした事はルコにとって十分分かっている事だった。つまり、単なる偶然でこういう状況になったという訳だった。

 ルコはそんな事を思うと、何だか落ち込んできた。

 ルコはこっちに来て女の子になってしまい、そのためかどうか分からないが記憶が曖昧で、事あるごとに性格が崩壊している自覚もあった。しかも、今度の事で自己嫌悪も加わり、更に落ち込んできた。

「しかし、戦闘になると性格が変わる奴がいるのじゃが、ルコはその典型例じゃな」

 遙華はルコに追い打ちを掛けた。ルコが今考えていた事を口にされたからだ。

「そうね。なんかブチ切れていたものね」

 恵那は笑いながらルコの傷を抉った。

 ルコは二人の話にいたたまれなくなり、頭を抱えて小さくなっていった。

「まあまあ、お二人ともそれくらいにして差し上げないと、今回はルコ様の功績が大きいのですから」

 瑠璃はいつものおっとりした口調でルコを庇った。

「そうじゃな。でも、瑠璃、主だって、戦闘中はいつもの口調とは全然変わっていたのじゃ」

 遙華の矛先は今度は瑠璃に向かった。

「そうね。戦闘が始まった途端、急に凛々しくなったわ」

 恵那はルコの時と違って瑠璃を褒めていた。

「それは失礼いたしましたわ。戦が始まるとしっかりとした口調で指示を出さないと兵が動いてくれませんわ。ですから、ついやってしまいましたわ」

 瑠璃はおっとりした口調でそう言うと笑った。そして、

「でも、お二人はあまり変わりませんでしたわね。戦の最中でもあまり変わらいな人なのですか?」

と遙華と恵那に質問をした。

「吾はどうなのじゃろうか?今回は二人の豹変ぶりを目の当たりにして正直言って引いたというか冷静になったと言うべきじゃな。そうじゃな、普段はもうちょっと気持ちが高ぶるかもしれんのじゃ」

 遙華は意外と真面目に答えた。

「あたしはあまり変わらないかな。前の世界でもそう言われていたし」

 恵那はあっけらかんと答えた。とはいえ、追い込まれた時は十分焦っていた気がした。

「皆様、外装の清掃と破損箇所の修理が終了しました」

 マリー・ベルは四人の会話を遮るように作業報告をしてきた。尚、作業は全て車載のドローン達が行ってくれた。

「マリー・ベル、やはりこの都市にはいられなくなりそう?」

 ルコは話題が変わるチャンスだと思い、そう聞いた。

「はい、仰る通りです。都市のドローンが死体の処理を行っていますが、何分数が多すぎて直ぐには処理できないと推定されます。そのため、臭いで周りの猪人間の村から敵がやって来ると推察されます。したがって、早い時間帯に都市から退去する必要があると提案致します」

「そうよね」

 現在、あまりいい状況ではないので、ルコは力なくそう同意した。

「それじゃあ、外の食糧を回収して退去する事にするのじゃ」

 遙華はそう言うとゆっくりと立ち上がった。それを見て、他の三人も立ち上がり、外に出て残りの食糧を車内に運び入れる事とした。

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